戦力はトップクラス。あとは組織力
―前半で、戦力としてチームに入ったと仰っていましたけどベイスターズ時代は先発の時期も、リリーフの時期もありました。どちらでというのは自分のイメージの中にあるのでしょうか?
須田幸太選手(以下、須田):監督に『先発で行きます』とは言いました。でも、僕が先発をやってはチームとして考えた場合ダメなんです
―JFE東日本というチーム全体を考えた場合、自分が先発、つまりエースではダメということですよね
須田:はい。そこが都市対抗野球に連続で出れない、このチームの弱点なんだと僕は思っています。入社2、3年目くらいの若い投手がエースになってくれないといけないんです。僕は4番手、5番手くらいのポジションで、(エースが投げられない)大事な試合の先発とか、投げるピッチャーが誰もいないときに『先発しろ』みたいな感じで良いんだと思っています
―若手の成長を妨げず、かつ戦力になる考えですね
須田:都市対抗野球って全部で5勝しないと日本一にはなれないんですよ。だから1回戦、2回戦はエースが投げれば良いと思っています。ただ次の準々決勝、準決勝で投げるピッチャーがいないと優勝は出来ません。だから僕は1、2戦目に投げるピッチャーではなくて、その後の準々決勝、準決勝で投げるピッチャーでいれば良いと今は考えています。
若いエースと、もう一人出てくれば一番良いですよね。そうなれば一番台所的に厳しい準決勝で自分が投げれば良いことになる。たとえば1回戦はエースが投げる、2回戦はもう一人のピッチャーが投げる。3試合目は1試合目に投げたエースがまた投げられます。ここで日が空けばもう一人のピッチャーが準決勝で投げられるんですけど、たぶんそんなに日が開かない(※)と思うんですよね。となるとここで投げるピッチャーが結構大事なんですよ
※2018年都市対抗野球大会の第1試合と第3試合の間隔は4日~6日、第2試合と準決勝は2日~4日
―都市対抗野球優勝のシナリオを結構、具体的に考えているんですね
須田:それは自分がホンダの補強選手として優勝した時に考えたことです。あのときのホンダには筑川利希也さんという凄いエースがいました。筑川さんが1、2戦目を投げて、3戦目、4戦目はそれぞれ違うピッチャー、諏訪部貴大という中日の指名を蹴った人と、大田悦夫さんって当時入社8年目くらいのピッチャーが先発で投げて勝っているんですよね
―そのときの再現をJFE東日本で狙っていると
須田:はい、本気です。今年は本当に優勝を狙っています。良い新人も入ってきましたし、個々の戦力で言ったらトップクラスの企業チームだと自分は思っています。
ただ、まだ組織力が足りない。みんなでひとつの束になって、相手に向かって行けるかと言ったら、まだ違うことをやっている選手がいて、ちょっとまとまっているかなってくらいだと思っています。
だから、まだ一気にガッと攻めていけない。攻め立てたいときこそ、本当は冷静に戦わなければいけないんですけど、ちょっと力んじゃったり、緊張しちゃったり、それでボール球に手を出してしまったりとかして、ピッチャーも決めなきゃいけないときに、ど真ん中にシュート回転の甘い球を投げてしまうとかあるので…。
もっとチームがひとつになって、互いを助け合えるような安心感をチームで持てなきゃダメなんだと思っています
―「力まなくてもいいよ。後ろに俺たちがいるから、取られたら取り返すから」っていう安心感ですね
須田:そうです。そこから俺が決めてやるって選手が出てくるのが理想です。誰かが決めてくれるだろう、ではないんですよね。技術だけじゃなくて、精神的な部分も伝えようと思って今やっています
満塁の場面では「ど真ん中に」
―二死満塁の場面で出て来て、ど真ん中にボールを投げる須田投手が言うと、ある意味説得力が増しますね。何も考えずにただ、思い切り腕を振って「どやっ」って投げているようにも見えるけど、けっしてそうじゃない
須田:うーん…。そこの表現が本当に難しいですよね。たとえば満塁の場面で出て行ったときは、僕、ど真ん中に真っ直ぐを投げてやろうって気分で投げているんで。でも、投げミスのど真ん中の真っ直ぐではないんですよ。狙って投げたど真ん中真っ直ぐなので
―生きたボールなのか、死んだボールなのかの違いですね。それが結果として適当にサイドに散っていくと
須田:そうです。だから相手バッターは意外と見逃すんです。2017年の開幕3連戦で鵜久森にサヨナラ満塁ホームランを打たれたじゃないですか。あれはミスで投げたど真ん中真っ直ぐなんです
―そのとき、バッテリー間ではどういう意図があったんですか?
須田:本当はボール球を投げようと思ったんです(笑)それが力んじゃって結果、一発で捉えられてしまったという感じです。つまり狙っていないところに行った、死んだど真ん中真っ直ぐだった
―あのときは開幕3戦目だったわけですが、力んだ要因として初戦で打たれてしまったこともやっぱり頭の中にありましたか?
須田:それもありましたし、それよりも、オープン戦から、前の年とだいぶ違う感じだったので。球も全然行っていないし、その分焦りがありましたね
―それがまさにJFEの話でも出た平常心でやっていればってことですね
須田:そうです。後々考えてみれば、(鵜久森に打たれたあの場面)カットボールから入っても良かったですし、ボール球から入っても良かった。冷静になればもっとやりようはあったよねって思ったんです。それが、出来ていた2016年と、出来なかった2017年の違いですね
―奥深いですね
須田:ただ、(グラウンドに立っているときは)そんな考えで野球をやっていないですよ。その分、準備をしっかりしていますから
―グラウンドに立ったら無心ですもんね。準備で全ては決まると
須田:はい、やりたいようにやります!
―それがスタンドから見ている我々にはとても気持ち良く見えますよ
須田:ただ、ど真ん中投げているだけなのに相手打者は三振みたいな(笑)でも、こっちはそこに辿り着くまでに考えてやっているんだよって言うね。それまでやって来た積み重ねがグラウンドの平常心に繋がるし、自信に繋がると僕は思っていますね

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僕が出来なかったことを…
―JFEの若い選手達に、今一番何を伝えたいですか?
須田:ピッチャー陣、特に1~3年目の選手には言ったんですけど、『自分はプロに行くんだっていう気持ちを持ってやってもらいたいです。社会人で終わろうとか考えないで、自分がチームの柱になって、そこからプロへ行くんだ』って。その気持ちを全員に持ってもらいたいです
―そのために必要なことは?
須田:そのために必要なことですか?それは練習です(笑)
―そこはシンプルですね(笑)
須田:あとは計画です。まずは今年の事、今年一番の目標を何にしているのか。その目標を達成するためのステップアップをどうしているのかを自分で考えて、練習方法を確立していく。そうすると波も少なくなるし、スランプが来てもすぐに抜け出せるようになるので、そこですね。
自分が上手くなるために何をすれば良いのか、人に聞くのではなく、自分で考えて結果を出せるようになれば、それこそプロに行くだけじゃなくて、プロでも結果を出せる選手になれる。僕はそれが出来なかったので…。
―プロに入って満足してしまうのではなく、プロで稼ぐためのイメージを自分でしっかり持つってことですね
須田:自分はプロに入りたての頃なんて、本当に何も考えないでやっていたので…。4~5年目くらいのときですかね。どうやって自分の実力を上げて行くのか、練習でどんなことをすればいいのか考えたのは。それが実ったのが6年目でした
―ちなみに期待の若手としては、今年で高卒2年目を迎える猪田和希捕手もいます。彼とバッテリーを組む可能性もありますね
須田:そうですね。あと土屋遼太選手と。早稲田出身が3人もいるので楽しみです
―ちなみに猪田捕手には、すでにボールを受けてもらったりしていますか?
須田:受けてもらっています。ただ、キャッチャーとしての能力はまだ道半ばって感じです。バッティングに関しては凄く良い選手なのでこれからですよね
―ところで早稲田大学時代の同級生である細山田武選手、松本啓二朗選手の二人には社会人野球に戻って来るにあたって何か相談したんですか?
須田:細山田選手には、トヨタではどんな感じだったの?という話をしました。松本選手とは『(都市対抗予選で)同じ(南関東)地区になるねって話をしました
―お二人は須田選手よりも先に社会人野球で第二の人生をスタートしていますからね。今後のセカンドキャリアを考える意味でも良かったですね。ちなみに二人と対戦するのは楽しみですか?
須田:対戦するのは…嫌ですね(笑)嫌ですけど対戦はしたいです。打たれそうですけどね
―打たれそう?
須田:今まで全部同じチームだったので、学生時代に紅白戦でしかやったことはないですけど、結構打たれているイメージはありますね
―それは松本選手の方ですか?
須田:はい。アウトコースを簡単にレフト前に持って行かれてるイメージですね
―須田選手の生きたストレートが通用しない?(笑)
須田:シートバッティングだからかなとも思うんですけどね。それが実戦でやったらどう変わるのか楽しみはあります。それは細山田選手も一緒です