走者を許しながらも今季すでに7セーブ
オリックスファンの間で使われる「平野劇場」という言葉がSNSでトレンド入りすることがある。昨季、名球会入り条件の日米通算250セーブを達成したクローザー・平野佳寿がリードした場面で登板し、走者を出してファンをハラハラさせながら最後を締めることを指すフレーズだ。
そこにはリスペクトの気持ちも揶揄する気持ちも入り混じっているのではないだろうか。本来ならリードした場面で登板して危なげなく3人でピシャリと締めてくれるのが理想だが、自らピンチを招いて自ら鎮火する“自作自演”のような平野劇場は、観る者を惹きつけ、いつの間にか虜になってしまう。そんな映画のような、癖になるラストイニングなのだ。
今季は10試合に登板して計9.1イニングで被安打12、与四球4と走者を許しているが、きっちり1勝7セーブ1ホールドをマークしている。
4月24日の西武戦で3-0の9回に登板し、中村剛也に一発を浴びるなど3失点で救援に失敗(試合は延長10回サヨナラ勝ち)したように、時折スリリングでは済まないこともあるが、それも含めて「平野劇場」なのだ。
得点圏に走者が出ると被打率低下
実際にどの程度、打たれているのだろうか。言葉が独り歩きしている可能性もあるため、今季のデータを調べてみた。まず状況別の被打率は以下の通りとなっている。
走者なしの場面では被打率.368と打たれており、走者なしと1塁に走者がいる場面も含めた「得点圏走者なし」も.360となっているのに対し、「得点圏走者あり」では.231と1割以上も被打率が下がっている。やはり「平野劇場」は実在したのだ。
ピンチではね上がる三振の割合
では、得点圏に走者がいる場面で被打率が下がるのはなぜか。三振の割合を調べてみると一目瞭然だった。
走者なしの場面では20打席3三振で15%、得点圏走者なしの場面でも29打席5三振で17%にすぎないが、得点圏走者ありの場面では15打席5三振で33%にはね上がっている。
三振が欲しい場面で三振を取れるのはクローザーとしての真骨頂。たとえ凡打でもバットに当てられると走者が進塁したり、味方野手がエラーしたりするリスクがあるが、三振なら状況を変えずにアウトを1つ増やせる。
好投手は、ここぞの場面で「ギアを上げる」と言われるが、まさにそれだろう。通算250セーブの実績は伊達ではない。
「伝家の宝刀」フォークを多投
では、なぜピンチで三振を取れるのか。秘密は平野の最大の武器・フォークにあった。
走者なしの場面では79球中31球がフォークで39%、得点圏走者なしの場面でも117球中44球で38%だが、得点圏走者ありの場面では62球中33球がフォークで、なんと53%に急上昇している。
走者がいるいないにかかわらず、ストレートのスピードにはほとんど変化がない。「伝家の宝刀」を多投することで平野劇場は無事にフィナーレを迎えているのだ。
「それなら最初からフォークを連投すればいい」などと野暮なことを言ってはいけない。平野には平野の流儀がある。幾多の修羅場をかいくぐってきた40歳のベテランはまだまだファンを楽しませてくれそうだ。
※成績は4月29日現在
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