前人未到の2年連続トリプルスリー
山田哲人選手といえば、やはり「トリプルスリー」だ。2016年シーズンはNPB史上初の2年連続トリプルスリーを達成。もともとこの記録はNPBの長い歴史を見ても10人しか達成しておらず、複数回、それも連続で達成したというのは山田哲人選手が初めてなのだ。
実際に今まで達成した選手たちの成績をまとめてみると
1950年 岩本義行(松竹ロビンス) .319 39本 34盗塁
1950年 別当薫(毎日オリオンズ) .335 43本 34盗塁
1953年 中西太(西鉄ライオンズ) .314 36本 36盗塁
1983年 簑田浩二(阪急ブレーブス) .312 32本 35盗塁
1989年 秋山幸二(西武ライオンズ) .301 31本 31盗塁
1995年 野村謙二郎(広島東洋カープ) .315 32本 30盗塁
2000年 金本知憲(広島東洋カープ) .315 30本 30盗塁
2002年 松井稼頭央(西武ライオンズ) .332 36本 33盗塁
2015年 山田哲人(ヤクルトスワローズ) .329 38本 34盗塁
2015年 柳田悠岐(ソフトバンクホークス) .363 34本 32盗塁
そして2016年の山田哲人選手が.304 38本30盗塁という成績を残した。どの選手も球史に名を残すほどの活躍を見せた選手ばかりなのだが、山田選手はもしかしたら彼らをさらに凌駕する存在になるかもしれない。
秘密はスイングにあり!
山田哲人選手がこれだけの成績を残せるのには、いったいどんな秘密があるのだろうか。身長180cmに体重76kg、プロ野球選手の中では決して大柄というほどではない。
もともとドラフト1位で入団しているように、高校の時から非凡な才能を見せていた。高校通算は31本塁打、何よりもスイングスピードが早く、高校の先輩であるT-岡田選手を上回る154km/hを記録したこともあったほどだ(T-岡田選手は150 km/h前後だったそうだ)。
スイング自体は決して大振りではなく非常にコンパクトなスイングをしており、どんな球でもしっかりと引き付けつつ、強い打球を打つことができる。内角の厳しい球でも、体を回転させたり、左ひじをうまく抜くことでしっかりとサバくこともできるのだ。どんな球でも自分のスイングで対応できるのが、彼の強みの1つだろう。
またスイングスピードだけでなく、打球にバックスピンをかける技術も非常に高いものを持ち合わせている。ボールの下をしっかりと叩くことによってきれいなバックスピンがかかり、打球に飛距離を残すことができるそうだ。体格がなくてもあれだけのホームランを量産できるのはこの技術のおかげのようだ。
ボールの下を叩けば、おのずと打球にも角度が付き、さらに飛距離は伸びていくだろう。ちなみに山田選手の場合はおよそ35度の角度で上がればいい打球が飛んでいくとのこと。言葉にすれば簡単なことのように思えるが、実際の投手たちとの対戦でそれを行うのは至難の業のはず。まだまだ彼のバッティングには秘密がありそうだ。
11種類のティーバッティングを何年間も継続
山田選手の技術を確かなものにしているのが、試合前に行うティーバッティング練習だろう。山田選手はなんと11種類ものティーバッティングを行っている。どれも特徴的な練習で、バットをクロスさせてから打ったり、真横からのトスを打ったり、バランスボールに座って打ったり、ウォーキングをして打ったりなどなど。
これによってタイミングの取り方、スイングの軌道、ミートポイントの確認、逆方向への意識などが確認できるのだが、何より本当の目的はフォームのリセットだという。野球はピッチャーが主導で行うから、試合を毎日行っていると、どうしてもフォームがピッチャーに合わせたものになりがちだ。
そうして少しずつフォームがずれていった結果、バッティングの調子も狂ってきてしまうのだ。だがこのティーバッティング練習をすることで、いつでも正しいフォームに戻すことができるそうだ。実際にこの練習をするまでは、調子がいい時と悪い時がはっきりとしムラがあったらしいのだが、今では不調期間を限りなく短くすることに成功している。
この練習は3年目の2013年から、杉村繁打撃コーチとマンツーマンで毎日行われた。当初山田選手は、11種類もの練習なんて絶対に続かないと思ったらしいが、すぐに結果が表れたため今でも継続して行っている。
コーチとの特訓で盗塁の才能も開花!
バッティングがすごいのはもちろんなのだが、盗塁に関してもやはり素晴らしい技術を持っている。2015年は34盗塁に対して失敗は4つ、2016年に至っては30盗塁に対して失敗はわずかに2しかなかったのだ。成功率は驚異の93.8%、この数字は8割以上あれば一流なのだが、山田選手はその基準をはるかに超えている。
本人曰く、入団時はバッティングよりも足の速さの方が自信があったそうで、実際に50m走のタイムは5.8秒という好記録を残している。また走塁技術にも優れており、ベースランニングをしたときのタイムと、同じ距離を直線で走ったときのタイムにもあまり差がないそうだ。
脚力も技術も優れていたのだが、盗塁だけはそれほど得意だったわけではない。特に帰塁が苦手だったらしく、初めてレギュラーを取った2014年でも15盗塁だけだ。決して少ない数字ではないが、トリプルスリーを狙うのなら少し心もとない数字のように思える。
だがやはりここでも三木肇、福地寿樹の両コーチによって濃密な盗塁練習が行われた。指導されたのはリードの取り方、スタートの切り方、スライディングなどの技術のほか、試合展開などで変わっていく投手心理なども交えながら、とにかく盗塁のいろはを徹底的に叩きこまれた。
そして何よりも自身が「1つの盗塁が試合を左右することもある」という経験を重ねることで、盗塁に対しての意識もさらに上がり、この高い成功率を誇るようになったのだ。しかも初球から積極的に走っていくという姿勢も大事にしており、相手投手にからすればこれほど驚異的なことはないだろう。
心・技・体のすべてがそろった超一流の選手へ
このようにバッティング・走塁、どちらにもセンスを兼ね備えていた山田選手なのだが、決してプロの世界で苦しまなかったわけではない。コーチからの教えをしっかりと吸収する素直さ、地道な練習を継続できる精神力があったからこそ、ここまで突出した成績を残すことができているのだろう。やはり野球は心・技・体のすべて重要ということだ。特に若いうちからこれだけの「心」を持っているというのは、非常に素晴らしいことだ。
ここまで圧倒的な成績を残しながらも、彼は慢心することが決してない。ヤクルトのチームメイトは口をそろえて「山田はストイックに練習する」というほどの練習の虫。11種類のティーバッティングはいまだ継続されているし、盗塁にしてもさらに研究を重ねており、警戒が強くなる中でもそのペースを落とすことはない。
2年連続のトリプルスリーは、決して偶然ではなく、センスと努力の両方かみ合った必然なのだ。そしてこれからも彼は圧倒的な成績を残し続けることだろう。10年後、20年後、いったいどれだけの記録を積み重ねるのだろうか。野球ファンとしては楽しみだ。