「岡田監督が一番助けられた選手」
独自の視点で月間MVPを選んできたプロ野球OB・糸井嘉男氏が2023年度のシーズンMVPを選出した。セ・リーグは阪神・岩崎優投手(32)。優勝した阪神は突出した成績の選手がいないため比較、検討を重ね、悩みに悩んだ末に選んだ理由を明かした。
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シーズンMVPは優勝チーム以外でも特に優れた成績を残した選手がいれば選ばれることもあるが、多くの場合は優勝チームから選出される。
ただ、今季は18年ぶりのリーグ優勝、38年ぶりの日本一に輝いた阪神に突出した成績を残した選手がいない。それだけチーム一丸となって勝った裏返しでもあるのだが、MVP選考に関しては複数の選手の名前が候補として挙がる。
プロ初勝利を含む10勝を挙げてブレイクし、最優秀防御率に輝いた村上頌樹や、12勝2敗と1人で貯金10を作った大竹耕太郎、走攻守で活躍し、盗塁王にも輝いた近本光司、セカンドにコンバートされながら最多安打のタイトルを獲得した中野拓夢、全試合で4番を務め、最高出塁率に輝いた大山悠輔ら多士済々。その中から糸井氏が選んだのは最多セーブに輝いた岩崎優だった。
「抑えがいなくなった時に彼を抜擢して、これ以上ない活躍をしました。岡田監督が一番助かった選手でしょう。投手が抑えて少ないチャンスをものにする阪神の野球で、勝利を確定させたのが岩崎です。それに、投手陣を引っ張ったというプレー以外の面も含めて選びました」
湯浅京己の二軍落ちで急遽クローザーに
3月31日、DeNAとの今季開幕戦。覚えていない方も多いかも知れないが、岩崎は6回途中で降板した開幕投手・青柳晃洋の後を受けて2番手として登板し、0.1イニングを無失点に封じた。
最後を締めたのはクローザーに抜擢された湯浅京己。昨季28セーブを挙げた岩崎は今季、中継ぎとしてスタートを切ったのだ。
湯浅が4月16日に右腕コンディション不良のため登録抹消されると、その間に代役としてクローザーを務めたのが岩崎。湯浅は5月26日に一軍復帰して再びクローザーとして起用され、岩崎は中継ぎに戻って淡々と役割を果たした。
しかし、若き守護神・湯浅は6月15日のオリックス戦、1点リードの9回に登板し、頓宮裕真と杉本裕太郎に一発を浴びて逆転を許す。甲子園のマウンドでがっくりとうなだれた湯浅は翌日に抹消され、再び岩崎がクローザーを務めることになった。
チームの緊急事態にも戸惑うことなく、表情ひとつ変えずに自分の役割を果たす姿を、最も頼もしく感じたのは岡田監督かも知れない。終わってみれば3勝3敗35セーブ12ホールド、防御率1.77。突然の起用法変更にも対応し、ブルペンのまとめ役としても見えない働きをした。チームへの貢献度は数字以上に高い。
「クローザーはプレッシャーのかかる特別なポジション。急遽、代役で務められるのは彼しかいない。安心感、安定感があって監督も助かったと思います」
ランナーがいても、いなくても、常に冷静沈着。安定感抜群のブレない投球は、強靭なメンタルと強い責任感によるところも大きいだろう。
「リリーフ陣は彼を慕ってるし、ブルペンをまとめて引っ張ったのが岩崎です。僕から見ても尊敬できる人間性です」。昨年までチームメイトとして触れ合った糸井氏はそう証言する。
「見た目はおとなしそうですけど、ビールかけの様子を見たら分かるように、はっちゃける時ははっちゃけますよ」と付け加えることも忘れなかった。
「球持ちの良さ」を生む地道なトレーニング
岩崎の投手としての良さについて、糸井氏は「球持ちの良さ」を挙げる。
「スピードはべらぼうに速いわけじゃないけど、打者が困惑するような球持ちです。そこが一番特長的ですね」
今季のストレートの平均球速は141.6キロ。剛腕タイプの多いクローザーとしては遅い部類かも知れない。それでも結果を残し続ける要因となっている球持ちの良さは、粘り強い下半身があればこそだという。
「甲子園のスタンドを登って下半身を鍛えてる姿をよく見たんで、そういうところじゃないですか。トレーニングを見てたらそう思います」
最多セーブのタイトルに胴上げ投手の栄誉。マウンドで放つ眩い輝きは、地道な努力を積み重ねた賜物なのだ。間近でそれを見てきた糸井氏だからこそ、そんな名クローザーをMVPに選んだ。
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