忘れかけていた“勝利の味”433日ぶりの白星
忘れかけていた“勝利の味”を思い出すように頬は緩んだ。20日のジャイアンツ戦で433日ぶりの白星を手にしたタイガースの藤浪晋太郎は、敵地でのヒーローインタビューで本音をにじませた。
「やっぱり良いですね。先発で勝つのが自分の中で1番良いし、心地良いというか。その瞬間が本当に久々だったので。良い1日、良い試合だったと思います」
近年は随分と受け答えもマイルドになってはいるが、プロ入りした18歳の時から冷静で、感情をそこまで露わにしてこなかった右腕の実感のこもった言葉が印象的だった。
コロナ感染、中継ぎ転向…遠のくまっさらなマウンド
ある意味で追い込まれていた。昨年12月の契約更改の場で「自分のエゴを貫くというか。先発1本でやりたい」と宣言。昨年もリリーフ起用で適応を見せており“どこでもやる”と言えば1軍での好機は広がっていくはずだったが、慣れ親しんだまっさらなマウンドに強くこだわった。
キャンプでは順調にアピールを続け、開幕ローテ入りをたぐり寄せると、内定していた青柳晃洋のコロナ感染で2年連続の開幕投手のマウンドが巡ってきた。だが、思い返せばこの時から勝利の女神は背番号19にそっぽを向いていたのだ。
緊張のシーズン初戦で7回3失点と仕事を果たしながら、リリーフ陣の乱調で勝利投手の権利が消失すると、その後も苦投。4月中旬には自身2度目のコロナ感染で離脱を余儀なくされた。5月にはリリーフの一員として再昇格。ウイルスが逆襲のシーズンの歯車を微妙に狂わせ、先発マウンドは意図せぬ形で遠ざかっていった。
「今は安定感があると思う」進化への自信
それでも10年目を迎えた28歳の気持ちは萎えることはなかった。「メンタル的に波があることもなく、良いモチベーションでやれていた」。6月中旬に2軍行きを告げられたタイミングで再び先発調整に戻ると、地道に結果を積み重ねた。
今月6日の広島戦で4カ月ぶりとなる1軍の先発マウンドに上がると、7回途中2失点と好投。13日の中日戦も7回1失点と快投しながら打線の援護なく、1勝目までが遠かったが、8月“3度目の正直”でジィアンツ打線を7回1失点と制圧し、文句なしの勝利投手となった。
「(今は)安定感があると自分でも思います。常に良い状態でマウンドに上がれている」
近年の不振の要因だった制球難は影を潜め、直球、スプリット、カットボールの主要3球種をバランス良く散りばめて的を絞らせない。カットボール以外の2球種だけで抑え込んでいたかつての姿とは別人。時間は要したが、生まれ変わった姿でもぎ取った1勝の価値は大きい。
残り試合は決して多くないが、「エゴ」とまで表現して執着した「先発・藤浪晋太郎」の真価を証明する時間はまだ残されている。
《ライタープロフィール》
チャリコ遠藤 1985年4月9日生まれの37歳。本名は遠藤礼。関西大学から2008年にスポーツニッポン新聞社入社。2010年から阪神タイガース担当で2018年から「チャリコ遠藤」のアカウント名でTwitterで積極的に情報を発信中。フォロワーは3万人超。趣味は海釣り。
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