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「遅れてきた元BIG4」西純矢は阪神高卒ドラ1投手のジンクスを打破するか

2022 6/19 06:00SPAIA編集部
阪神の西純矢,ⒸSPAIA
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ⒸSPAIA

佐々木朗希らとともに「高校BIG4」形成

2019年ドラフトで「高校BIG4」と騒がれていたのが今をときめくロッテの佐々木朗希(大船渡)に、ヤクルトの奥川恭伸(星稜)、阪神の西純矢(創志学園)、同じく阪神の及川雅貴(横浜)を加えた4人だった。

2021年に4人ともプロ初勝利を挙げたが、中でも奥川は9勝をマークして優勝に貢献。佐々木も登板間隔を空けて大切に使われながら3勝をマーク、今年4月10日のオリックス戦で完全試合を達成するなど大きく飛躍した。

4人の中で唯一ドラフト1位ではなかった及川(ドラフト3位)も昨季は中継ぎで39試合に登板して2勝。西だけは初勝利を挙げたものの2試合の登板にとどまり、やや遅れを取る格好になっていた。

しかし、今年5月1日の巨人戦で7回3安打8奪三振1失点と好投してプロ2勝目を挙げてからは、急激な上昇カーブを描く。5月18日のヤクルト戦では1失点でプロ初完投を果たし、高橋奎二からプロ1号2ランも放つなど投打で活躍。6月1日の西武戦も含めてここまで3勝(2敗)を挙げ、防御率2.97の好成績を残している。

ストレートは球威抜群、制球力も兼備

オーバースローから投げ込む力強いストレートは平均147.6キロで、全体の44.6%を占める。さらに平均141.8キロのフォークと平均129.1キロのスライダーを軸に、闘志を前面に出すスタイルで若さ溢れる投球を披露している。

剛腕にありがちな荒々しい投球と思われがちだが、実はコントロールもいい。ストライクゾーンを9分割したコース別の被打率は下のようになっている。

阪神・西純矢のゾーン別データ


投球割合15%以上を示す赤色のコースは、左右どちらの打者も外角低めのみ。右打者に対しては32.5%が外角低めで被打率.278。左打者に対しては15.7%が外角低めで被打率は.000だ。投手の生命線である外角低めにきっちりと制球できていることがよく分かるだろう。

逆に投球割合7%未満を示す青色は右打者の内角、左打者のど真ん中と内角高めとなっている。いずれも被打率が高いわけではないが、もっと大胆に内角を攻めることができれば投球の幅が広がるかも知れない。

遠戚関係のチームメイト西勇輝はシュートを得意球にすることもあって、右打者の内角を攻めて打ち取るのがうまい。リードする捕手の考えもあるが、西純矢も参考にしたいところだ。

大成少ない阪神の高卒ドラ1投手

阪神にドラフト1位で入団した高校生投手は14人いるが、大成した投手は多くない。歴代の高卒ドラ1投手は下の表の通りだ。

阪神ドラフト1位の高校生投手


1965年の第1回ドラフト会議で1位指名されたのが小豆島にある土庄高の右腕・石床幹雄。育英高の左腕・鈴木啓示(近鉄2位)を指名するとの予想を覆して獲得した「隠し玉」だったが、21試合登板で1勝に終わった。

翌1962年に1位指名した江夏豊は阪神のエースに成長。南海、広島、日本ハム、西武とわたり歩き、通算206勝193セーブを挙げた。

しかし、1967年の野上俊夫は未勝利、1981年の源五郎丸洋は一軍登板なし、1984年の嶋田章弘は兄・宗彦との兄弟バッテリーで注目されたが投手としては大成せず、野手に転向している。

1985年1位の遠山昭治も高卒ルーキーとして8勝を挙げたが、一度は野手に転向。「再生工場」と呼ばれた野村克也監督の下で「松井秀喜キラー」として復活した苦労人だ。中込伸は甲府工時代に甲子園に出場し、神崎工に編入して阪神入り。重い速球を武器に41勝を挙げた。

1992年1位の村野工・安達智次郎は左腕から投げ込む快速球で期待されたが、一軍登板のないまま引退。1994年1位の甲府工・山村宏樹も阪神時代は1勝を挙げただけだったが、近鉄、楽天と移籍して通算31勝をマークした。

高卒ドラ1の投手で江夏と双璧なのが藤川球児だろう。高知商から入団して初勝利まで4年かかったが、その後はクローザーとして日米通算245セーブを挙げる名投手となった。

鶴直人は2005年の高校生ドラフトで近大付から入団。大阪桐蔭の辻内崇伸(元巨人)、平田良介(現中日)、履正社の岡田貴弘(T-岡田=現オリックス)とともに「浪速の四天王」と呼ばれたが、プロでは9勝にとどまった。

藤浪晋太郎は大阪桐蔭で春夏連覇し、プロ1年目から3年連続2桁勝利を挙げるなど順調にプロの階段を上っていくかと思われたが、4年目以降は成績が下り坂。復活を目指すが、今季は1勝も挙げていない。

高い素質を持つからこそ高校生ながらドラフト1位で入団するわけだが、人気球団の阪神ではファンやマスコミのプレッシャー、タニマチの誘惑など野球への集中力を削がれることも少なくない。西純矢が大器の可能性を秘めるのは誰もが認めるところ。これから訪れるであろう様々な壁を乗り越えて大成することを切に願っている。

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