プロ初完投とプロ初本塁打で2勝目
阪神・西純矢投手(20)が18日のヤクルト戦(神宮)で投打にわたる活躍を見せて2勝目を挙げた。
1失点でのプロ初完投も見事だったが、それ以上のインパクトを残したのはバットの方だろう。1―0の2回にヤクルト高橋奎二の150キロを完璧にとらえて左翼席まで運んだ。プロ1号の2ラン。打った瞬間に本塁打を確信した歩き出しは高卒3年目の投手とは思えない。どこか、松坂大輔を思わせるような存在感。東都の虎党も歓喜した。
「ボールが来たところに(バットを)出したら、いったのでびっくりしました。打った瞬間、いったわと思いました。自分の中で目つけしているところにボールが来た。完璧に狙ったら入りました」
打力は阪神首脳陣も認めるところだった。実はこの試合「8番」での先発だった。阪神で投手が8番に入るのは07年以来。8番に投手、俊足の赤松真人を9番に据える並びを、当時の岡田彰布監督はこの年4試合で組んだ。
DeNAラミレス監督が多用したことで珍しくなくなった「8番投手」だが、阪神では15年ぶり。発案したという井上一樹ヘッドコーチは「もともと打撃が好きだし、たまにはそういう流れもいいのかなと思ってね。(入団時は)もともと野手か、投手かという選手だったから」と喜び、矢野燿大監督も「ヘッドのファインプレー」と試合後にうなずいていた。
U18W杯で見せた驚愕の野球センス
それほど西は打力に定評がある。創志学園(岡山)では4番を打って通算25本塁打。韓国で行われたU18W杯の高校日本代表では主力投手のかたわら主力打者としての期待も込められた。南アフリカ戦で2本塁打を放ち、最多タイ2本塁打で国際大会の「本塁打王」にも輝いている。
野手としての才能、野球人としての才覚を見せたのもこの大会だった。韓国との大一番。同点の9回2死一、二塁で左翼線を抜かれた。2死だけに、誰もがサヨナラ負けと思ったが、ここで左翼の西がスーパープレーを見せた。
ファウルグラウンドに素早く回り込み、体勢を少し崩しながら地を這う返球。二塁走者を刺してサヨナラを阻止したのだった。
ネット裏にいたスカウト陣も報道陣も目を白黒。スカウト同士が状況を確認するシーンも見られた。それほどの衝撃であり、西の野球センス、土壇場でのメンタルの強さを表すプレーだった。
佐々木朗希、奥川恭伸が万全のコンディションではなく、宮城大弥も思うような投球ができなかった大会。西は「本職」の投手としても獅子奮迅の働きぶりを見せた。甲子園は結局2年夏しか出られなかったが、高校最後にタフネスさを改めて見せつけ、ドラフト1位評価にダメを押した。
プロでは投手1本でやってきた。この日神宮にかかったアーチを見て、打って投げての魅力があった西の高校時代を思い出した人も多いだろう。
広陵3年の弟・凌矢の活躍も刺激
弟の活躍も刺激になっていた。広陵(広島)にいる弟・凌矢(3年)が4月30日の広島県大会準決勝・呉戦でなんと3本塁打の大爆発。先のセンバツも大会直前の最終追加登録でベンチ入りしたことが示すように、決して実力が突出した選手ではない。
そんな弟が公式戦で3発だ。球場にいた関係者から、本塁打1本ごとに動画が純矢に送られた。弟が大好きな兄は驚き、喜んだ。呼応するようにその翌日、5月1日巨人戦(東京ドーム)で7回1失点と快投。今季初登板でプロ2勝目を挙げた。ハートのある西純矢らしい活躍だった。
17日の登板は、9回にも150キロを出すなど持ち前の馬力を存分に発揮。この春から取り組むテイクバックをコンパクトにした投法もはまっており、安定感もある。変化球の制球にも自信を深めている。
「1軍の環境に慣れてきて、自分の力をだんだん出せるようになってきているのかな。試合展開を見ながら投げていたので、最後、ここは全部出し切るしかないと思っていました」
佐々木朗希、奥川恭伸、阪神・及川雅貴(横浜)ともに「高校ビッグ4」と呼ばれた。宮城を含めた同世代投手の中でも、やや遅れをとった今年ブレーク。「自分のできることを全力で取り組んでいけば、いい結果になってくると思うので、全力でやっていきたいです」
神宮での暴れっぷりは、西純矢の未来も、彼らに劣らず明るいと思わせるものだった。
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