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巨人・戸田懐生「小さなエース」目指して 独立リーグ、育成指名から這い上がった道のり

2022 4/21 11:00広尾晃
巨人の戸田懐生,ⒸSPAIA(撮影・広尾晃)
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ⒸSPAIA(撮影・広尾晃)

170cmの小柄な右腕

巨人の2年目投手、戸田懐生の評価が高まっている。170㎝の小柄ながら、走者を背負っても速球を内角に投げ込む度胸満点の投球で、チームに貢献している。

戸田懐生は2020年、独立リーグの徳島インディゴソックスから育成ドラフト7位で巨人に入団した。筆者が戸田に話を聞いたのはその年の秋のことだった。徳島インディゴソックスはその時点で、7年連続でNPB球団に選手を輩出。中には巨人の増田大輝、西武の伊藤翔などのように、一軍で活躍する選手も出ていた。

徳島の南啓介社長は観客動員やスポンサー獲得などと共に、「NPB球団に選手を輩出する」ことを重視して選手を獲得している。この年のドラフト有力候補として、戸田懐生を紹介されたが、他の選手と混じってもひときわ小柄だった。しかし、その眼光は鋭く、強い決意を感じさせた。

戸田は愛知県出身、東京の東海大菅生に野球留学し、2年生で甲子園に出場。2番手投手としてチームのベスト4に貢献したが、新チームになった秋に右ひじ靱帯の損傷がわかり、高校を中退、トミー・ジョン手術やPRP療法(温存療法)などは行わず、通信制高校に通いながらノースローでリハビリを行った。

短期間でNPBへ進むため独立リーグへ

しかし戸田は野球をあきらめていたわけではなかった。東海大菅生の若林監督の紹介で、独立リーグ徳島に入団した。徳島入団を決めたのは、この球団から毎年、選手がNPBに進んでいたからだ。徳島には毎年、春先からNPB球団のスカウトがやって来る。数ある独立リーグの中でもプロ注目の球団だった。

社会人や大学野球に進む道もあったはずだが、ドラフトで指名されるためには大学なら4年、高卒から社会人なら3年間は待たなければならない。戸田自身は同学年でプロに進んだ野村大樹(早稲田実高-ソフトバンク)や万波中正(横浜高-日本ハム)などを強く意識していたので、「短期間で確実にドラフト指名されるために」徳島を選んだのだった。

徳島には2019年の後期シーズンから加入、このシーズンはクローザーとして17試合で1勝5セーブ、失点0で防御率は0.00。翌2020年は先発に転向し、18試合でリーグ最多の9勝を挙げ、116.1回で139奪三振、防御率1.24でMVPに輝いた。

秋口にはNPB球団から調査書(ドラフト指名される可能性のある選手に球団から送付される身元調査のための書類)が送付され、ドラフト指名の可能性が高まった。

なかなか指名されなかったドラフト当日

ドラフト当日、徳島球団は徳島市内に記者会見場を設け、その時点で調査書が来ていた戸田など5人の選手が登場してドラフト発表を待った。MVPの戸田は中央の席に座っていた。

最初に声がかかったのは戸田の隣に座った行木俊だった。ドラフト5位。行木も戸田と同じ徳島で2年目の投手だが、1年目は故障のため全く投げることができず2年目の後半からマウンドに上がった。しかし184㎝の上背から繰り出す速球は威力があり、広島のスカウトの目に留まったのだ。夕方のニュースに間に合わせるため、急遽、記者会見が行われ、地元メディアが行木にフラッシュを浴びせた。

しかし本命のはずの戸田の名前はなかなか呼ばれない。この年、四国で戸田に次ぐ活躍をした高知ファイティングドッグスの石井大智もドラフト8位で阪神に指名された。1時間が経ち、1時間半がたって、球団の中には「指名終了」するチームも出てくる。

本指名が終わり、育成指名となったが、その終盤になって「読売、戸田懐生、投手、徳島インディゴソックス」と戸田の名が呼ばれた。指名順位は育成7位、この時点で指名終了していなかったのはソフトバンクと巨人だけだった。

戸田は「うれしい」というより「ほっとした」という表情を見せた。リーグのMVPであり、ドラフト指名の本命として会見席の中央に座っていただけに、指名されなかったらショックは大きい。行木と共に写真に納まる戸田の表情は硬かった。

育成から這い上がるまで

戸田は、育成選手に与えられる三桁の背番号「020」をつけて2021年のシーズンに臨んだ。 二軍、三軍での溌溂としたピッチングが首脳陣の目に留まり、6月には支配下登録され背番号は「90」に。長嶋茂雄終身名誉監督が最初の監督就任時につけた背番号だ。

この年は1軍で3試合に投げ0勝0敗3回無失点、2軍では18試合8勝1敗87.1回、防御率3.30という成績だった。2年目の今年は開幕から一軍に登録され4試合で1勝0敗1HP、5.2回を投げて自責点1の防御率1.59。プロ初勝利も上げた。4月14日に登録抹消されたが、これは先発で起用するために二軍で調整をするためだと言われている。

戸田がプロ野球で活躍できた背景には、2018年に「二段モーション規制」が撤廃されたことがあるだろう。それ以前のプロ野球では投球動作の途中で動きを止めるのは「二段モーション」として反則とみなされたが、他の国にはこうした規制がないこともあって2018年に野球規則から削除された。

戸田は上げた左足を空中でさらに振り上げる独特の投球フォームだ。1年目の昨年は足を振り上げてからぐらつくシーンも見られたが、今季は下半身もどっしりしてきた。この独特のフォームで打者を揺さぶり、回転のよい速球を投げ込むのだ。

独立リーグでも、ファームでも先発で実績を残してきた戸田である。体力は十分だ。再昇格後は小さな大投手として先発でも活躍するところを見たいものだ。

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