ラプソードインタビュー最終回
ラプソードについて、株式会社Rapsodo Japan(以下、ラプソード社)のProduct Marketing Manager花城健太さんにお話をうかがってきた本連載も今回が最終回。
第1回の日本国内での状況、前回の打球を計測する『HITTING 2.0』のお話に続き、今回は投球を計測する『PITCHING 2.0』についてのお話を中心に、データの活用法や今後の展望についてうかがった。
【前回記事】
・ラプソード直撃取材② バレルゾーン内の打球は打率.822!?【打球計測編】
ストレートは回転数と球速が比例する
まず『PITCHING 2.0』ではなにが計測できるのだろうか。
「球速、回転数、回転効率、回転軸、縦と横の変化量、リリースポイントを計測できます。回転軸は回転方向とジャイロ角度です」
『HITTING 2.0』と同じように多くの項目が計測できる。
『PITCHING 2.0』実際の計測画面
一般的にメディアで目にするのは球速だろう。そして近年は回転数も報じられることが多くなった。ただ回転数の意味するもの、多いほうがいいのか、それとも少ないほうがいいのかは理解しにくい部分だ。また、そもそも回転数とはどれだけの時間における回転数なのだろうか。
「回転数は投手が投げてからホームに到達するまでの回転数ではなく、1分間での回転数です。ストレートではMLBの平均が2200回転くらいで、回転数に比例して球速は上がると言われています。そのため、一般的な指導法として『球速を上げるために回転数を上げる」というのは間違いではありません。ただし、回転数は少なくても球速が出ている投手もいます」
ストレートを打たれなくするためには、回転数を増やす努力をすればいいのだろうか。
「そういうわけではありません。そもそも投球を回転数だけで見るのがむずかしいです。回転効率や回転数と回転軸のセットで球質が決まります。たまに回転数で良い悪いを判断しているのを見かけますが、回転数だけで球質を測るのは誤りです」
最近、プロ野球の中継でも投球の回転数を表示しているのを見かけるが、回転数だけでは球質は測れないようだ。あくまで回転数は、その球の回転が多かった、あるいは少なかったという結果でしかないのだ。
ストレートがホップするかどうかは「回転数」と「回転効率」から決まる
打撃に関しては「打球速度」と「打球角度」が計測できる数値の中でも重要だった。投球ではどの項目を見ていけばいいのだろうか。
「投球は打撃と比べて複雑です。打撃は速度と角度を目指せばよかったのですが、投球の場合は『平均と比較してどのような球を投げているのか』を見て、その投手の適正を考えなければいけません。『ゴロを打たせる』など目標とするスタイルによって、目指す数値が変わってきます。それがストレートだけでなく変化球についても言えるので、正解がなく奥が深いです」
どういう投手を目指すのかで目標とすべき数値が変わってくるとのこと。わかりやすくストレートを例に、説明してもらった。
「ストレートの重要な要素は球が速いこと。そしてどれだけホップするかです。ホップは回転数と回転効率の組み合わせで決まります。MLBにおけるストレートの回転効率の平均はおよそ90%です。」
ホップあるいはホップ成分というワードも、ここ最近よく目にするようになった。ホップ(hop)という言葉のもつ意味から浮き上げるようなイメージは湧いてくる。それを構成する要素が『回転数』と『回転効率』となる。MLBの場合、平均でストレートの回転数が約2200回転、回転効率が90%くらいとのことだ。
ホップする球は“浮き上がる”よりも“落ちてこない”
『PITCHING 2.0』で回転数と回転効率は計測できるため、ホップ成分を含め球の性質を知ることができる。図を見ながら説明してもらった。
「(上の)図でいうと上方向の変化がホップ成分、(利き腕側の)横方向への変化がシュート成分と呼ばれるものです。MLBのデータではストレートは平均で上に40センチ、横に20センチくらい変化しています。それぞれの変化が平均に近いと打たれやすくなり、乖離が大きいほど打者は打ちにくくなります」
ここでいうストレートの変化とは、球に”重力のみ”がかかっている場合と比べてのもの。仮に無回転であれば重力以外の力が球にかからず、図1の原点の位置にボールはいく。しかし現実では、投じられた球にはストレート、変化球問わず、何らかの回転がかかる。すなわち重力以外の力が加わっているわけだ。
図だとストレートの位置が原点にこないため、パッと見て理解しにくい部分がある。これは日本の野球ゲームソフトやアプリの影響が大きい。ゲームではストレートの位置が原点で、そこから変化球の軌道が表示されているため、混乱するのかもしれないとのことだった。
ちなみにホップ成分の大きかった投手は誰がいるのだろうか。
「藤川球児投手(元阪神他)のMLB時代最終年 (2015年)を見ると、シュート成分は平均くらいでしたがホップ成分は60センチほどでした。平均より20センチ浮き上がっているように見えたということですね」
これが“火の玉ストレート”とも形容された藤川のストレートの正体だった。平均的なストレートと比べて高低に20センチもの差異があると、わかっていても打てないということが起こり得るのも理解できる気がする。
藤川のストレートもそうだが、ホップ成分が大きいと野球界では“浮き上がる”と表現されることが多い。重力との関係を加味すると、”浮き上がる”というより”落ちてこない”という表現が適切なのかもしれない。
選手と指導者のコミュニケーションツール
『PITCHING 2.0』と『HITTING 2.0』を用いることで、今までは選手や指導者の感覚だけを頼りにしていた部分が、客観的なデータとして数値化されるようになった。そして、データはクラウドで蓄積されていくため、継続して計測することで選手の成長や変化を客観的なデータで追うことができるわけだ。
ラプソード社では「measure to master」というフレーズが用いられている。それをわかりやすく日本語に直したものとして、花城さんは「継続は力なり」になぞらえて「計測は力になる」と教えてくれた。前回の打球計測編でも1回計測して終わりでは意味がなく、継続して計測をしていくことの意味を語っていた。ただし、気をつけなくてはいけないこともある。
「数値は現在地を知るためのものです。数値を追い求めることが目的ではありません。目的はあくまで打者を抑えて(投手を打って)、試合に勝つことです。これまで可視化できなかったことが見えるようになっただけで、どう使うかが重要になってきます」と花城さんは警鐘を鳴らしていた。野球は“試合に勝つこと”が目的という大前提を忘れてはいけない。
また、投球にしろ打撃にしろ客観的なデータはこれまでの経験や感覚を否定している、あるいは否定するものと捉えられがちだ。しかし、そういうわけではない。
「ラプソードの企業理念は、『Help athletes reach their full potential (アスリートが潜在能力を最大限に引き出せるよう支援する)』です。ラプソードは選手のパフォーマンス向上のため選手と指導者をサポートするツールであり、これまでの指導を頭から否定するものではありません。すでに導入済みのチームからは、『ラプソードが選手と指導者を繋げる役割になっている』との声も頂いています」
ラプソードは単に投球や打球のデータを計測するだけのツールではなく、選手と指導者のコミュニケーションツールにもなっているのだ。
最後に今後の展望についてもうかがった。
「今後はデータの活用法などの発信を強化していきます。また、データアナリストの育成や教育にも寄与したいです。将来的にはトレーナーやデータアナリストを中心に、多くのチームがデータを基にした能力開発ができるようになることが理想ですね」
ラプソード社の活動が広がれば、選手や指導者、チームに加えてファンの間にもデータに関する意識の変化はきっと訪れる。まだまだ馴染みの薄い”回転数”や”ホップ成分”という言葉や意味するものが、近い将来、一気に浸透するかもしれない。
ラプソード公式サイト:http://rapsodo.com/ja/
ラプソード公式Twitter:@rapsodojp
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