打球を計測する『HITTING 2.0』を深堀り
ここ最近『ラプソード』というワードをメディアで名前を見聞きするようになった。正確に言うとラプソードはブランド名であり、打球を計測する機器が『HITTING 2.0』、投球を計測する機器が『PITCHING 2.0』とそれぞれに名前がついている。
そのラプソードについて株式会社Rapsodo Japan(以下、ラプソード社)のProduct Marketing Manager花城健太さんにお話を聞いた。
前回は日本国内での状況をうかがったが、今回は打球を計測する『HITTING 2.0』について詳しく聞いていく。
【前回記事】
・ラプソード直撃取材① ダルビッシュも使用するラプソードって何?
重要なのは「打球速度と打球角度」
まず『HITTING 2.0』ではなにが計測できるのだろうか。
「打球速度、打球角度、回転数、回転方向、推定飛距離、方角、ストライクゾーンを計測することができます」
なんと打球について7項目も計測ができるという。
『HITTING 2.0』実際の計測画面
前回のお話を聞いて、打球速度はMLB平均が142キロで、これが速ければ速いほど安打になりやすいということはわかった。ただ、打球の回転数などは、メディアでも取り上げられることはほとんどなく、いまいちピンとこない。このなかで重要なのはどの項目なのだろうか。
「重要なのは打球速度と打球角度です。MLBでは打球速度が158キロ以上、打球角度26-30°の打球を最も長打が期待できる“バレルゾーン”と定義されているので、これが一つの目安になります。ちなみに2016年のMLBデータですが、バレルゾーン内の打球は打率.822、長打率2.386になると言われています」
打率.822はともかく長打率2.386はピンとこないかもしれない。長打率をわかりやすく説明すると、1打数あたりの塁打数の平均値のこと。長打率2.386は、平均すると二塁打以上が記録されていたということだ。
ちなみに2021年のNPBにおいて、規定打席に到達した打者の中で長打率がもっとも高かったのは鈴木誠也(広島)で.639だった。長打率2.386の凄さがよくわかるだろう。
これだけの結果が出ているのだから、バレルゾーンを意識し、目安とするのは当然と言える。だが、そのバレルゾーンを構成する打球速度と打球角度の2つを両立させることは、簡単ではない。
「打球角度を上げようとしても、スイングが慣れてこないと打球速度が伴わないことが多いです。低いライナーやゴロだと打球速度は速いけど、角度がつくと速度が落ちてしまう、ということが普通にあります」
たしかに力のない内野フライなどは、打球角度はついているが打球速度は遅い。そして長打になることはほとんどない。
NPBでは詳細なデータが公開されていないが、MLBのバレルゾーンの定義である“打球速度158キロ、打球角度26-30°“を頭に入れておくと、メディアで数字が出てきてもイメージはできそうだ。
打球ではあまり馴染みのない回転数などについても聞いてみた。
「打球の場合、回転数が上がれば上がるほど打球速度は落ちると言われています。1500-2500回転くらいが目安です。例えば、強烈なスピンのかかった3500回転以上の打球は、キャッチャーフライのような打球になります。
一方で打球回転数が少ないと角度がつきにくいので、強烈なライナーやゴロになってしまいます。ただ、『回転数1500で打ちましょう』と言ってもなかなかピンときませんし、コントロールできません。なので『打球速度を上げましょう』であったり、『打球角度を上げ(下げ)ましょう』と選手には伝えています」
打球の回転方向についても同様で、説明はするものの、重要なのは打球速度と打球角度であることを伝えているという。
計測は力になる
計測できるデータへの理解が深まったところで、ここからは実際の活用方法について聞いていこう。
『HITTING 2.0』で打球を計測するには、マウンドと打席の間に設置する必要があるため、通常、試合で使用することはできない。その一方で、球場に設置する他社製品とは異なり、ポータブルで持ち運びが可能なため、シートバッティングだけでなく、トスやティーなど様々な打撃練習で活用することができる。練習でこそ威力を発揮するのだ。
「1回計測して終わりでは意味がありません。“継続して計測すること”の重要性を、我々は”計測は力になる”というスローガンを掲げて伝えています。
ラプソードでは、計測した数値をクラウド上に蓄積することが可能です。これを活用すれば、例えば、1ヶ月前と比べてフリーバッティングでの打球角度が10°から30°に上がって打球速度も落ちなくなった、といった変化をデータで見ることができます。
感覚だけじゃなく実際のデータとして表れると、選手も指導者も身についた実感が大きいですし、また目標があるとトレーニングに実が入りやすいのではないでしょうか」
感覚に頼らず、データの変化を見て選手の状況を把握し、改善へとつなげる。ラプソードは選手と指導者がコミュニケーションを図る上で必要不可欠なツールといえよう。
とはいえ、蓄積されたデータのすべてを選手に伝えても、うまくいかない可能性が高い。
「取捨選択をしながらいかにシンプルに伝えるか。情報を与えるだけ与えて活用できないということはよくある話だと思うので、どううまく伝えていくかが大切です」
多くの項目を計測できるが、すべてを選手に伝えても混乱するだけだ。打球速度と打球角度のように、指導者がポイントを絞って選手に伝えていくことが重要と言えそうだ。
次回は、投球を計測する『PITCHING 2.0』についてお話を聞いていく。
(次回は3月21日に公開予定)
ラプソード公式サイト:http://rapsodo.com/ja/
ラプソード公式Twitter:@rapsodojp
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