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阪神・及川雅貴、「元高校BIG4」佐々木朗希163キロの裏で見せた2度目の快投

2022 3/1 06:00柏原誠
阪神の及川雅貴,ⒸSPAIA
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ⒸSPAIA

高卒3年目で先発候補に浮上

阪神の沖縄・宜野座キャンプで久しぶりに阪神・及川(およかわ)雅貴投手(20)の投球を見た。生で見たのは高校以来、2度目だった。

及川は2月19日の練習試合・楽天戦で3回を1安打無失点に抑えた。立ち上がりは不安定だったが、しっかり持ち直し、十分に好投といえる内容だった。

高卒3年目ながら強力投手陣の中で「先発候補」として注目されている存在だ。矢野燿大監督の期待もかなり高いようだが、それゆえに投球内容には辛口だった。本人も「立ち上がりで、自分で自分をメンタル的に追い込んでしまいました」と反省の弁を並べた。若虎の筆頭格は、まだまだ成長途上だ。

U18日本代表候補合宿でも佐々木朗希の「引き立て役」

及川が登板する少し前に、隣の名護市から、ロッテ佐々木朗希が163キロを出したという報が届いていた。高校3年春に出した自己最速に並ぶ驚異のスピードだった。

個人的に少しだけ、偶然を感じた。3年前、及川と佐々木はヤクルト奥川恭伸(星稜)阪神・西純矢(創志学園)と合わせて「高校ビッグ4」と呼ばれていた。高校3年だった19年4月、U18日本代表候補合宿に4人そろって選出された。1度だけ行われた注目の紅白戦で、佐々木は衝撃の163キロをたたき出した。記者も運よく目撃者になれた。

そのとき、佐々木の次に登板したのが及川だったのでは…と思ったが、あいにく今回のキャンプ取材に当時のスコアブックもメモ帳も持ってきていない。

及川に確認すると、彼は登板順の記憶まではなかった。ただし「ベンチから佐々木朗希の投球を見ていた」ことははっきりしているという。ということは、おそらく及川が登板を終えてベンチに下がってから佐々木が登板したのだろう。記者の記憶は間違っていた。

当時の及川は躍動感のあるフォームから140キロ台中盤の速球を投げ込んでいた。安打を浴びはしたが、奥川や西に比肩する快速球を投げていた。しかし、この日ばかりは佐々木の引き立て役に回らざるを得なかった。

新聞各紙に載った及川の談話は「佐々木投手、本当にすごいな」だけだった。今回、あらためて聞いても「めちゃくちゃすごかったです。ベンチから見ていてもギュ~ンという音がしました」と冗談めかして振り返った。

及川は千葉・匝瑳(そうさ)シニア時代からテレビ出演するなど話題の投手で、世代のトップランナー的存在だった。高校は名門横浜へ。その名は全国に響きわたり、高校当時、佐々木は及川のフォームを携帯電話に保存していたという。この代表候補合宿では佐々木の方からキャッチボールをお願いされた。

「佐々木朗希は雲の上の存在」

昨年のプロ野球は「高卒2年目」がクローズアップされたシーズンだった。投手だけでも13勝で新人王に輝いたオリックス宮城大弥や、ヤクルトで9勝を挙げた奥川。そして佐々木も台頭した。

彼らの活躍は確かに突出していたが、及川も中継ぎで39試合登板、防御率3.69の堂々たる成績を残した。優勝争いしたチームのブルペンを支える活躍をした。

「佐々木のことはどう見ているんですか?」

この手の質問には慣れている。及川は頭をかきながら迷わず言う。「佐々木朗希は、もう雲の上の存在です。全然違います」。本音かどうかは分からない。現時点では白旗を揚げざるを得ない、これから結果で勝負するしかない、という思いは伝わった。

佐々木が163キロを出した日は2度とも、及川もマウンドに上がっていた。ちょっとした偶然ではあるが、勝手ながら、これからの2人のストーリーが楽しみになる偶然でもあった。佐々木の「裏」になった及川が次は「表」になる日も、そう遠くはない。阪神で伸びやかに腕を振る及川の姿を見て、そう思った。

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