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現役時代の新庄剛志ビッグボスが残した記憶と記録と香水の香り

2021 11/29 06:00山田ジョーンズ
北海道日本ハムファイターズ監督の新庄剛志,Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

阪神時代に敬遠球をサヨナラ打

「監督って皆さん呼ばないでください。ビッグボスでお願いします!」

11月4日の記者会見は日本ハムファンのみならず、野球ファンのハートを鷲掴みにした。

日本ハム新監督・新庄剛志ビッグボスだ。1972年1月生まれの49歳。プロ入りは89年、阪神のドラフト5位だった。野茂英雄(新日鐵堺→近鉄)、古田敦也(トヨタ自動車→ヤクルト)、佐々木主浩(東北福祉大→大洋)、前田智徳(熊本工高→広島)らが指名された豊作ドラフトの年だ。

阪神時代、Gパンがはけなくなるからという理由で「下半身トレーニングをしなかった」発言、「敬遠球サヨナラ打」「投打二刀流」など新庄のエピソードは枚挙にいとまがない。「枚挙にいとまがない」という表現には、本来は「やらかした」感も含むが、新庄の場合はそちらのほうがピッタリであり、ネガティブなイメージがないのが新庄たるゆえんだ。

1999年、野村克也監督のもと「投打二刀流」に挑戦したが、左膝を痛めて断念。挑戦させた理由を野村監督は「投手心理に立って打撃をさせるため」「新庄のモチベーションを上げるため」と語った。

選手としても監督としても申し分のない実績を持つ野村氏に話しかけることは野球関係者の誰もが気を遣ったが、底抜けに明るく懐に飛び込んでくる新庄を「とても可愛かった」と野村監督は語っていた。

「敬遠球サヨナラ打」は99年、槙原寛己(巨人)から。外角への外し方が甘かったこともあるが、踏み込んで三遊間を破った。巨人ベンチは「左足がバッターボックスからはみ出していたからアウトだ」と主張したが、球審はその抗議を退けた。

しかし、その後の槙原本人との対談で「(左足がはみ出したどころか)ホームベースを踏んでいたよね」と突っ込まれ、明るく肯定していた。

一流の打撃、超一流の守備

メジャーを経験し、日本球界復帰。引退を公言して臨んだ日本ハム3年目の2006年に25年ぶりのリーグ優勝、44年ぶり日本一。日本一のウイニングボールは左中間に飛び、レフト・森本稀哲が捕って、センター・SHINJO(新庄)と抱き合うフィナーレなのだから、やはり球運を「持っていた」。

新庄の実力はどうだったのか。日米通算17年で1714試合1524安打225本塁打、打率.252、816打点。ゴールデングラブ賞を10度(阪神時代7度、日本ハム時代3度)も受賞した。打撃は超一流とは言えなくとも、十分「一流」の範疇である。そして守備は間違いなく超一流だった。

「バカ肩」と呼ばれた超強肩。送球で走者を刺す「補殺」を幾度となく記録した。目に見える強肩ばかりが注目されたが、投手・打者の対戦によって事前に守備位置を調整する「ポジショニング」、スライスした安打性の打球をもぎ取る「捕球術」は、目に見えないファインプレーであった。ゴールデングラブ賞10度は、名手・飯田哲也(ヤクルト)や高橋由伸(巨人)をはるかにしのぐ(2020年まで)。

2005年のゴールデングラブ賞発表時に「今年の自分のゴールデングラブ賞はおかしい。印象でなく、数字で選んでほしい」。「守備のベストナイン」をうたうのに、その当時、授賞式で配布される資料はなぜか打撃成績であった。守備に絶対の自信を持つSHINJOの強烈な自己主張であった。

ゴールデングラブ受賞回数ランキング

常識を覆してグラウンド上で香水

汗臭さが付きもののスポーツ界だが、やはり破天荒だったのがSHINJO。メジャー帰りの2004年、ユニフォームに香水をまぶして登場した。

「チームでまとめて洗濯に出すのだから、汗臭さいっぱいだったらクリーニング店に失礼でしょ。プロ野球選手たるもの、そこまで気を使わないといけません」

「香水」はいまや日本ハムをはじめとする12球団の選手ばかりか、審判団にまで浸透した。レギュラーシーズンは球審と塁審3人の4人制だが、試合前に審判4人が整列すると、おのおのが違う匂いを醸し出す。試合前の練習はトレーニング着で参加し、本番で試合用ユニフォームに袖を通して登場する選手がほとんどなので、気づかない野球記者も多い。球審と捕手のこんな会話もある。

「いい匂いだね。何っていう香水?」

「シャネルです」

「高給取りの選手は、さすがだね。オレなんて洗濯の柔軟剤の匂いだよ(笑)」

もちろん、日本ハム時代の大谷翔平も香水をつけていた。

11月15日、日本記者クラブで会見した大谷翔平は、新庄ビッグボスの日本ハムについて問われた。

「古巣とか、古巣でないとか関係なく、単純に楽しみたいと思っています」

新庄の「投打二刀流」挑戦から早や30年。本場メジャーを「リアル投打二刀流」で席捲し、MVPを獲得した大谷からも注目される存在だ。スポーツ紙の見出しなどでは文字数を減らすためにBIGBOSSを「BB」と略して表記することがあるが、球団マスコットの「B・B」と混同してしまうため、球団からは見出しに「BB」の表記を使わないよう各報道機関に異例のお願いが出されている。

長年愛される存在として活動してきた「ブリスキー・ザ・ベアー(B・B)」を一瞬で吹き飛ばしてしまった新庄ビッグボス。これからどんな話題を提供してくれるのか目が離せない。

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