中6日での起用は1度もなし
今シーズンのヤクルトはリーグトップの得点を叩き出した野手陣と、セ・リーグ記録のホールドを挙げたブルペン陣の奮闘が多く取り上げられてきた。
一方で、先発投手陣についてはあまり触れられていない。それもそのはず。規定投球回到達者はひとりもおらず、2桁勝利達成者も不在。前半戦から登板間隔を空けるゆとりをもったローテーションを組んだことで、積み上げが必要なスタッツで上位に顔を出す選手がいないからだ。
それは高卒2年目ながらエース格へと進化した奥川恭伸も同様だ。
奥川は今シーズン開幕ローテーション入りを果たしたものの、前半戦は中10日未満での登板はなく”投げ抹消”が続いていた。後半戦に入ってからは中10日未満での登板もあったが、いずれも中9日で、一般的な登板間隔となる中6日での起用は一度もなかった。
そのなかで18試合(105イニング)を投げ9勝4敗、防御率3.26の成績を残した。特に6月20日の中日戦から9試合連続でQSを達成。54.1イニング無四球と優勝の原動力となったことは疑いの余地もない。
また、天王山となった10月19日からの阪神との2連戦で初戦を任されたことからも、高津臣吾監督をはじめ首脳陣からの信頼も厚かったことがよくわかる。
ただ、奥川は勝ち星や奪三振、そして防御率といったタイトルが制定されているスタッツでは、特に目立った成績を残していない。当然の帰結ではあるが、登板回数が少ないためスタッツが伸びず、また規定投球回未満のためランキングに入ってこないのだ。
BB/9、K/BBなど複数項目で高数値
そんな奥川だがセイバー系の指標を見ると、規定投球回には届いていないものの、他球団のセ先発投手陣と同等以上の数字を残していることがわかる。
セ・リーグの投球回数100イニング以上の投手(全20人)でみると、制球力を表す指標のひとつであるBB/9(1試合あたりの与四球数)はリーグトップの0.86をマーク。1.00を切っている投手は奥川ただひとりだけだ。
K/9は7.80とBB/9と比べて傑出しているわけではないが、それでもリーグ6位。また、1三振を奪うまでに与える四球数を表す指標のK/BBは8.80。2位の大野雄大(中日)が4.54となっており、断トツの数字だ。
対戦打者数に対する割合を示す指標で見てもBB%は2.4%でトップ。K%は22.0%でリーグ3位になりK-BB%はリーグトップ。圧倒的な制球力はすでにリーグ屈指となっていた。
また、投手の責任となる奪三振、与四球、被本塁打から算出されるFIPは2.89でリーグ3位。さらに投球回が多くなるとHR/FB(フライに占める本塁打の割合)は一定の値に収束するという性質をもとに、被本塁打の影響を排除して投手の実力を表すxFIPは2.57。これもリーグトップの数値だ。
来シーズン大エースとなるかは起用法がカギ
このように投球回数を考慮しなければ、奥川は複数の項目でリーグトップクラスの成績を残していた。しかし、エースとしてチームを引っ張っていくには、最低限規定投球回に到達することが求められる。
ただ、これは奥川ひとりの問題ではなくチームの方針にも影響される。今シーズンのヤクルトは奥川ひとりだけではなく、高橋奎二や高梨裕稔といったその他の投手たちもゆとりのあるローテーションで起用される機会が多かった。絶対的エースが不在でも試合を作ることができる投手の頭数を揃え、コンディションを管理しながらシーズンを乗り切ったのである。
来シーズン以降のチーム方針がどうなるかはわからない。しかし、奥川が一般的な先発ローテーション投手と同じ中6日で起用されたならば、球界を代表する大エースになる可能性を秘めていることは間違いなさそうだ。
※数字は2021年10月29日終了時点
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