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阪神・梅野隆太郎の隠れた貢献「6盗塁20四球」の高い価値

2021 6/16 11:00チャリコ遠藤
阪神・梅野隆太郎ⒸSPAIA
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ⒸSPAIA

リスクの先にある大きな“果実”

大きなリスクの先にはとびっきりの“果実”が待っている。勝負における分岐点で阪神・梅野隆太郎の勇気と走塁が、それを証明した。

6月13日の楽天戦。同点の9回2死から四球で出塁した背番号2の視線はすぐに二塁ベースに向けられていた。

「自分の中でしっかり準備して、ああいう時は思い切り失敗を恐れずにというね」

打者・近本の2球目にスタートを切った。それも相手バッテリー、野手陣の意表を突くディレードスチール。捕手・田中貴也の送球に慌てた遊撃手・小深田大翔のベースカバーが遅れてボールは中堅へ転がる。二盗、失策に乗じ梅野は一気に三塁へ到達した。

盗塁が失敗となった時点で自軍の攻撃は終了し勝ちがなくなくなる状況。それでも、虎の正捕手は「負けない」ことより「勝つこと」に果敢に挑んでいった。

何かが起こることを知っている正捕手

「得点圏にいったらチカ(近本)が状態も良いですし、還してくれという願いだったので」。5回に一時、逆転となる2ランを右翼席に叩き込んでいた近本光司の勝負強さが発揮される場面を自ら作った。

果たして、不動のリードオフマンはパ・リーグ屈指の守護神・松井裕樹のフォークを捉えて右翼へ決勝の適時三塁打。チームはセ・パ首位対決で3連勝を飾った。

再び梅野の声に耳を傾けたい。

「フォアボールとスチールというのは、自分でも結果として上出来だったし、(自らのヒットなどではなく)違う形で決勝点を決められたのは貢献度の高い仕事はできたんじゃないかなと」

そもそも、9回の出塁は粘りでもぎ取った四球だった。木浪聖也、糸井嘉男が2者連続三振に倒れ、梅野も2球で追い込まれた。「何とか粘って。全打席ボールの見え方も良かったので。自分の中でも何かがあるんじゃないかと思うフォアボールだった」

マスク越しに1球の恐さ、1球で何かが起こることを知っている正捕手ならではの嗅覚だろう。ファウルで3球粘ると、今度は3球連続でボールを見極めフルカウントに持ち込むと、10球目のスライダーを見切った。この瞬間、勝利への道は切り開かれた。

四球と盗塁の数が示す貢献度

現状、打率は2割台前半と決して状態は良くない。それでも、開幕から主に7番を任される男ににじむのは、エブリデープレーヤーとしての責任と自覚だ。キャンプ中に聞いた言葉を思い出す。

「バントだったり、打席で粘ったり。状態が良くない時でも今の自分に何ができるかをしっかり整理して。打線の中の1人として機能することを意識してやっていきたい」

快音を響かせるのが難しくても、1試合4打席に立つ中で易々と4つのアウトを奪われるわけにはいかない。

振り返れば4月16日のヤクルト戦でも5回2死から梅野は四球で出塁すると二盗に成功。直後の藤浪の決勝2ランを呼び込んでいる。

今季の6盗塁、20四球はいずれもチーム3位。打率や打点で量れない貢献がある。

仙台での3連戦で梅野は1本の安打も放っていないが、3戦目で選んだ3つの四球はすべて得点に直結。こんな手強い打者が下位打線にいるのも、タイガースが首位を猛進している理由の1つだ。

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