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オリックス躍進の要因は捕手起用?伏見寅威を重用する中嶋聡監督の眼力

2021 6/14 11:00広尾晃
オリックスの伏見寅威ⒸSPAIA
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ⒸSPAIA

若月健矢、伏見寅威、頓宮裕真を併用

捕手防御率(cERA)という指標がある。捕手がマスクを被った間の投手の防御率のことだ。捕手の能力を示すデータではあるが、絶対的なものではない。

ソフトバンクの甲斐拓也や阪神の梅野隆太郎のように、絶対的な正捕手がいて、ほとんどの投手の球を受けている場合は、cERAはチーム防御率とほぼ同じになる。また、当然のことだがエース級の投手の球を受ける捕手のcERAは良くなる。

cERAの比較が有効なのは、力が似通った捕手を併用しているチームである。ここでは、交流戦2回目の優勝を決めたオリックス・バファローズの捕手のcERAについて見ていこう。オリックスは先発陣が好調だ。

伊藤光がDeNAに移籍して以降、若月健矢が正捕手だったが、昨年は伏見寅威が併用された。今季はこれに頓宮裕真が加わって3人の捕手が使われている。

この3人のcERAを比較する。なお、救援投手については試合の流れで起用されることが多く、捕手の能力や投手との相性が考慮されることはあまりないので、ここでは先発投手に限定したcERAを出してみる。

下表は、オリックス3捕手の投球成績とcERAだ。

オリックス捕手のcERA

オリックスは64試合を消化した6月12日時点で、伏見が30試合で先発のマスクを被り、頓宮が25試合、若月は9試合となっている。3人の捕手の中で伏見は唯一勝ち越し。cERAも3点フラットと優秀だ。

ただこれだけでは捕手の優秀さは証明できない。エース級の力のある先発の球を受けるのと、二線級の投手の球を受けるのでは成績も大きく違ってくるからだ。

次の表は、オリックス先発投手の捕手別の成績だ。

オリックス先発投手の捕手別成績


よく知られているようにエース山本由伸と頓宮裕真は、同じ岡山県備前市出身。実家が隣同士で山本は2歳上の頓宮とは毎日のようにキャッチボールをする間柄だった。

そうした関係性も意識してか中嶋監督は今季開幕戦で、山本と頓宮にバッテリーを組ませた。山本は7回自責点1と好投するも負け投手。以後も2試合山本-頓宮のバッテリーがあったが、投球内容は悪くないものの勝ち星はつかなかった。

5月5日を最後に、山本の捕手は伏見に固定された。6月11日の広島戦で7回終了までパーフェクトの快投を見せた時も伏見が受けていた。

宮城大弥は伏見、山岡泰輔は頓宮が好相性

今季売り出し中の19歳左腕、宮城大弥の場合は伏見と頓宮では防御率がかなり違う。宮城も6月9日の巨人との交流戦で7回途中までノーヒットの快投を演じたが、この時も伏見が受けていた。

しかし山岡泰輔に関しては、数字が逆転する。頓宮の方が若月、伏見よりも成績が明らかに良い。投手と捕手の相性の問題は、確かに存在するようだ。しかし中嶋監督は山岡に関しては、5月14日以降、4試合連続で若月と組ませている。ここ2試合は7回自責点2(1勝)と好投、若月を山岡の捕手に固定しようとしている。

左腕の田嶋は開幕からずっと頓宮が受けていたが、5月29日以降は伏見、若月が受けている。同じく左腕の山崎については開幕から伏見が捕手を務めている。今季は先発に専念している増井は、当初は頓宮が受けていたがここ3試合は伏見が受けている。

cERA急落の頓宮は二軍落ち

頓宮は6月5日に出場選手登録を抹消され二軍に落ちている。かわりに捕手は2019年シーズン中に中日から移籍した松井雅人が出場選手登録された。

頓宮は打撃の良い捕手で、ここまで5本塁打を打つなど打撃では3捕手の中では一番優秀だった。しかし5月に入ると打撃が下降気味となった上、cERAも3、4月が2.30だったのに対し、6月以降は6.97と急落している。

中島聡監督は今季、頓宮を正捕手に据え、伏見を併用する予定だったと思われるが、いざふたを開けてみるとリード面、投手との信頼感では伏見に一日の長があった。そこで次第に伏見が重用されていったということだろう。

二軍に落ちた頓宮は打撃の再調整に加え、捕手として守備面、リード面で勉強しなおすことになるのだろう。また3番手捕手の若月は今後、出場機会が増えると思われる。

中嶋采配のポイントは「捕手起用」

次の表はここ5年間のオリックス捕手の先発起用試合数だ。

オリックスここ5年の先発出場捕手


長く正捕手を務めてきた伊藤光が2018年7月にDeNAに移籍してからオリックスは若い若月健矢を正捕手に起用してきた。伏見は打撃では若月よりも上とされたが控え捕手の扱いだった。

しかし昨年8月20日に西村徳文監督が事実上解任され、中嶋聡監督代行になると伏見の起用が多くなる。さらに昨年10月23日には2年目の頓宮を昇格させて起用した。

中嶋監督は捕手としての長いキャリアを有している。さらに二軍監督として捕手たちの動きをじっくり見てきた。そうした「鑑定眼」が、捕手の起用で活きたと言うべきだろう。

2年連続で最下位だったオリックスだが、中嶋監督になって以降、勝率が上向いている。交流戦でも2回目の優勝を遂げた。 いろいろな面で変革があっただろうが、「中嶋采配」のポイントの一つに「捕手の起用」があるのではないだろうか?cERAのデータは、その一端を我々に教えてくれる。

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