実戦デビューは及第点
3月12日、本拠地ZOZOマリンスタジアムで行われた中日とのオープン戦で、ロッテの佐々木朗希が実戦デビューをはたした。2点リードの6回に2番手でマウンドに上がると、中日の主軸を相手に1回無安打無失点。実戦は、高校日本代表チームの先発として登板した2019年9月のU18ワールドカップ韓国戦以来553日ぶりだったが、及第点といえるデビューだった。
先頭打者の京田陽太に投じた149kmの直球を皮切りに、この日に投じた12球のうち11球が直球(スライダーが1球)。初登板の緊張からか浮いたりシュート回転する球もあったが、続く阿部寿樹は150kmの高めの直球で詰まらせてショートゴロ。直球に強いダヤン・ビシエドからは外角寄りの152kmの直球で見逃し三振を奪った。
久しぶりの実戦で手探りの部分もあったはずだが、最速153kmをマークし、腕もしっかり振れていた。テイクバック時の肘の位置を以前より上げたことで、制球も比較的まとまっていた。
また、球速が安定していた(直球11球のうち6球が151km)のは、出力をコントロールできていた証拠だ。気温が上がって体のキレが出てくれば、さらに球速は上がるだろう。この日見せたスライダーや、フォークなどの変化球を織り交ぜれば投球の幅も広がる。
何より余力を残しながら150km超の直球をコンスタントに投げ続けたことや、この日唯一投じた曲がり幅の大きい141kmの高速スライダーは、計り知れないポテンシャルを改めて感じさせるに十分だった。
夏場に1軍デビューなるか
井口資仁監督は佐々木の次回登板について、21日のDeNA戦でプロ初先発させる予定であることを明らかにした。初登板では1イニングだったが、次回は2イニング、その後はファームに合流し徐々にイニング数を増やしていくと予想される。走者を置いた時の投球やクイック、登板試合間の調整や練習の方法も体に覚えさせなければならない。
当面の課題は先発として投げる体力をつけ、5~6イニングを安定して投げられるようになることだ。順調であれば夏場に1軍デビューし、その後も体づくりをメインに、期間をあけて休ませながら先発で起用されていくと考えられる。先発ローテーションの一角を担うのは、来年以降というのが順当な流れだろう。
一歩一歩着実な歩みを
今年は東日本大震災から10年という節目。岩手県陸前高田市で被災した佐々木は、父と祖父母を失った。「夢中になれたおかげで、つらい時も頑張ることができた」という野球でプロの選手になり、震災の日と1日違いの3月12日に初登板のマウンドに上がった。
ファウルグラウンドで投球練習をしてからマウンドに向かい、一塁線をこえる際に何度も深呼吸をしていた姿から、かなりの緊張感が伝わってきた。多くの人々の注目が集まる中での初登板であることはもとより、自分を育ててくれた故郷、被災地の人々への特別な思いをも背負っているという使命感。そうしたことが相まって胸を打たれた。
実戦のマウンドに上がるまでの時間は長かった。前例がない育成プランであるがゆえ、どうしても雑音は生じる。しかし、いつか大成して日本を代表するような投手になれれば、プロ野球界の育成プランに少なからず好影響を及ぼすだろう。また、活躍し野球を楽しむ姿を見せることが、被災地をはじめとした多くの人々の希望の星となり、勇気を与える。
今後も佐々木の成長の過程には多くの視線が注がれるが、着実な歩みを一歩一歩重ねていってほしい。
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