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左右に揺さぶる熟練の投球 ロッテ田中靖洋が今季もチームを救う

2020 6/5 06:00浜田哲男
千葉ロッテの田中靖洋ⒸSPAIA
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ⒸSPAIA

存在感を見せつけた昨季

14年目の昨季、プロ入り最多の44試合に登板し、4勝(1敗)、2ホールド、防御率2.72のキャリアハイをマークしたロッテの田中靖洋。リード、同点、ビハインドなど様々な場面で登板し安定感のある投球を披露。リリーバーの一角として存在感を見せつけ、首脳陣からの信頼をつかんだ。

昨オフに積極的な補強を行ったロッテは、日本で実績のあるジェイ・ジャクソン(元広島)とフランク・ハーマン(元楽天)を獲得。6月2日の日本ハムとの練習試合で好投したホセ・フローレスや楽天から移籍の小野郁らも加わり、ブルペンの層は厚みを増した。

それでも、今季のパ・リーグは2カード目からが全て同一カード6連戦というタフなシーズン。リリーバーの出番は例年以上に増えることが予想され、枚数も必要だ。経験豊富な田中の力が必要となる場面も昨季以上に増えるだろう。

左右に揺さぶる投球スタイル

田中はツーシームとスライダーを軸とした組み立てで打ち取っていく。ツーシームは実に投球の61.3%を占め、次に割合の多いスライダーが31.0%。また、多くの投手が直球を投球の軸(30~50%)としている中で、その割合はわずか4.3%。左右に揺さぶる投球スタイルを徹底していることがわかる。

配球の多いゾーンを赤く示す投手ヒートマップを見ても、対左打者であれ対右打者であれ、真ん中付近にはほとんど投じておらず、外角と内角に投球が集中。特に右打者に対する外角低めの投球割合は29.7%と多く、被打率は.105と優れた数値をマークしている。ツーシームで内角を意識させることで、外角のスライダーが生きている証拠だ。

6月3日に行われた日本ハムとの練習試合では、4番手として7回1イニングに登板。先頭の清水優心に初球の直球をレフト前に運ばれたものの、以降は本来の投球スタイルにチェンジ。

犠打で1死二塁とされたものの、松本剛には130km台中盤のスライダーを2球続けて外角ギリギリに制球し追い込むと、3球目もスライダーを投じてサードゴロ。続く杉谷拳士は144kmのツーシームでショートゴロに打ち取るなど、注文通りのピッチングであっさりとピンチを切り抜けた。左右に揺さぶって打ち損じを狙う、熟練の投球スタイルは健在だった。

淡々と打者を打ち取る姿に頼もしさ

今でこそブルペンに欠かせない存在の田中だが、その道のりは苦難の連続だった。2005年に西武から高校生ドラフト4位指名を受けてプロ入りするも、1軍での初登板は2010年。これからという時期だったが、直後には右肘の靭帯再建手術を受けるなど怪我に苦しみ、プロ入り初勝利を挙げたのは入団10年目となる2015年だった。

しかし、同年オフに西武から戦力外通告を受けて退団。その後、声を掛けられたロッテの鴨川秋季キャンプに参加し入団テストに合格した。

ロッテ入団以降も当初は登板数が少なかったが、与えられた場面を淡々と投げ続けて年々信頼を獲得。2018年には32試合に登板し2勝(1敗)5ホールドをマークし、昨季の飛躍につなげた。

特に6月の交流戦では3勝を挙げる活躍。同月まで28試合に登板して防御率1.03と抜群の数字をマーク。7月に打ち込まれるケースが重なり防御率が3.03まで悪化したものの、9月には持ち直し、防御率2.72でフィニッシュした。

田中は、ロッテに入団して1年目のシーズン(17試合登板、0勝(1敗)1ホールド)を終えた2016年冬に、「はじめはつまずいてしまった。夏場くらいから力になれたかなと。来年ははじめから力になれるように」と意気込みを示していたが、その姿はどこか自信なさげな雰囲気だった。

しかし、自身の努力により、今ではブルペンの中で一定の地位を築くまでに至ったのだ。どんな場面でも変わらず淡々と打者を打ち取る姿には、頼もしさを感じるようになった。

「ロッテに拾っていただいた身なので、1年でも長く、腕がちぎれるまで投げたい」

当時語っていた熱い想いだ。マウンドに上がる度、帽子を取り胸にそっと手をあてる姿は、田中のこれまでの苦難のストーリーも相まって胸を打たれる。

前例のないタフなシーズンがもうすぐ開幕するが、数々の苦難を乗り越えてきた田中の存在は大きい。今も変わらない熱い想いを胸に秘め、今季もチームのために腕を振り続ける。

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