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「ロボット審判」の評判と課題 2020年から米マイナーで導入へ

2020 1/12 17:00棗和貴
MLBワールドシリーズのアンパイア
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Ⓒゲッティイメージズ

地面すれすれのカーブがストライク?

「彼を退場させるんだったら、審判のラストネームはマッキントッシュかなんかじゃないとダメだね」

社会貢献に努めた品行方正な選手に贈られるロベルト・クレメンテ賞を受賞したこともある優等生、アンドリュー・マカッチェンは皮肉を込めたツイートをつぶやいた。あるいは真面目である彼だからこそ、その一連の出来事を許せなかったのかもしれない。

マカッチェンのツイートには「ロボット審判」の判定によって退場を命じられた若手有望株の動画が添付されていた。ストライクコールに不服だった選手が審判に暴言を吐いたのだ。キャッチャーが膝をつくほど地面すれすれだったカーブボールのストライク判定に。

今年、独立リーグのアトランティック・リーグやウィンターリーグのアリゾナ秋季リーグでは試験的にいくつかの新ルールが導入された。マカッチェンが皮肉ったロボット審判もその一つ。そこで今回はロボット審判とは一体なんなのか、評判や課題なども含めて紹介していきたい。

「ロボット審判」とは 20年から米マイナーで導入予定

「ロボット審判」と通称で呼ばれる試みは、正確には“automated ball-strike system”や“electronic strike zone”などと呼ばれている。つまり、コンピューターを使って判定されるのは、ストライクゾーンのみであり、チェックスイングやファールチップなどは含まれていない。ピッチャーが投げたボールはトラッキングシステムによってどこを通過したか特定され、主審に取り付けられているイヤホンに判定が伝えられる。

AP通信によると、メジャーリーグ機構と審判員組合は5年間の労使協定に合意し、早くも2020年からシングルAで、2021年シーズンからトリプルAでロボット審判が導入される予定である。

「ロボット審判」の評判と課題

ロボット審判の評判はどうだろうか。マカッチェンがツイートした“疑惑のストライク”と同じ動画が、マイナーリーグ情報に特化したMLB公式サイト「パイプライン」のインスタグラムに上がっているが、そのコメント欄でマイナーリーガーたちが批判の声を上げている。インディアンス傘下のブロック・ハートソンは「これはロボット審判を導入すべきではない十分な証拠ではないか」と疑問を呈し、マリナーズ参加のフリオ・ロドリゲスはシンプルに「やめにしよう」と反応。ドジャース参加のジョサイア・グレイに至っては、もっとシンプルだった。「Yikes(マジ!?)」

ただ、ロボット審判に対し好意的な意見を持っている人物もいる。例えば、野球殿堂入り選手であるマイク・シュミット氏はAP通信に寄稿し「(ロボット審判は)試合を良い方向へ変えるだろう。人間の欠点をなくすための試みは続く」と記した。また、アトランティック・リーグの審判で実際にロボット審判を経験したフレディー・デヘスース氏はCBSスポーツでこう語っている。「(ロボット審判は)野球を次のレベルに引き上げるものと見ています。これは球界により大きなことをもたらすためのチャンスです」

もちろん、ロボット審判には課題もある。前述したキャッチャーが膝をつくほどの低いカーブがストライクだったように、弧を描くような変化球の高低の判定はまだまだ発展途上と言われている。一方でインサイドとアウトサイドの判定には定評がある。おそらく、これはルール上のストライクゾーンと経験的なストライクゾーンに乖離があるためと思われる。物議を醸した疑惑の判定もおそらくストライクゾーンをかすめていたはずだ。ただ、いままで人間の審判はそれをボールと判定してきたのだ。

また、コールまでにほんの少し時間がかかるというのも課題だろう。トラッキングシステムがコースを特定し、主審のイヤホンに判定が伝えられてから実際にコールするまで数秒のタイムラグがある。いままでも、いわゆる“レイトコール(際どい判定のときに、審判のコールのタイミングがずれること)”には違和感があったが、アトランティック・リーグなどで試験的に導入された際はそれが頻発した。ロボット審判はフィールドにいる人間以外に、野球を見ている人間にもその違和感に慣れてもらう必要がありそうだ。