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トゥロウィツキーやマッキャン… 2019年で現役を退いた大リーガーたち

2020 1/8 11:00棗和貴
2019年に引退したトゥロウィツキーとマッキャン
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Ⓒゲッティイメージズ

イチローのいないメジャーリーグ

2019年3月21日、イチローが引退を発表した。東京ドームで行われたシアトル・マリナーズとオークランド・アスレチックスの開幕第2戦、9番ライトで先発出場したイチローは、4打数無安打に終わる。これが日米通算4367安打を誇る稀代のヒットメーカーの最後のボックススコアとなった。「後悔などあろうはずがありません」試合後の会見でイチローはそう語った。

イチローがいない2019年シーズンには、彼のほかにも数々の名プレイヤーが現役を退いた。日本人にとってはイチローほどではないかもしれないが、メジャーリーグを彩った思い出深い選手たちを紹介したい。

トロイ・トゥロウィツキー

トロイ・トゥロウィツキーは、コロラド・ロッキーズやトロント・ブルージェイズなどで活躍し、守備の名手として名を馳せた。長年背負っていた背番号2はヤンキースの“永遠のキャプテン”であるデレク・ジーターに憧れていたため。「僕が子供のころからデレクは試合に出ていた。彼を見て、彼と試合をして、彼みたいになりたいと努力し続けた」トゥロウィツキーはそう語る。

ジーターのようにトゥロウィツキーも優れたリーダーだった。ブルージェイズ時代には、チームが違うにもかかわらず、フランシスコ・リンドーアやカルロス・コレアといった若い遊撃手に快くアドバイスを送った。その理由はシンプルだった。ショートというポジションが好きだから。

2019年シーズンが始まる前、ブルージェイズからFAになったトゥロウィツキーを獲得したのは、なんとジーターが活躍したヤンキースだった。背番号は彼のアイドルよりも1桁多い12番。だが、開幕早々に負傷し、わずか5試合に出場しただけで、そのまま引退することになった。

「I'm saying goodbye to Major League Baseball, but I will never say goodbye 2 the game I love.(メジャーリーグからは退くが、私が愛した野球とはサヨナラしない)」 これがトゥロウィツキーの引退の言葉だった。“to”が“2”になっているが、理由は言うまでもない。

ブライアン・マッキャン

ブライアン・マッキャンは、ポジションごとの最強打者に贈られるシルバースラッガー賞を6度受賞した強打のキャッチャーとして知られている。アトランタ近郊の町に生まれ、地元の高校を卒業し、アトランタ・ブレーブスにドラフト2位で入団した。2014年からはヤンキース、2017年から18年まではアストロズでプレーするが、最終年にはブレーブスに復帰。「この町で育って、この町で野球選手としてのキャリアをスタートさせた」マッキャンは引退を決めたとき、そう言った。「上出来だったと思う。長いキャリアだった。15年間、毎日ボールを受けてきた。それを私の故郷ですることができたんだ」

ブレーブスというチーム名にふさわしく、マッキャンは勇敢な選手だった。思い出すのは2013年9月27日のブリュワーズとの一戦だ。ブリュワーズのカルロス・ゴメスがボールを仕留めた瞬間に雄叫びをあげ、乱暴にバットを放り投げた。ホームランを打ったとき、投手を侮辱するほど大きなリアクションを取ることはMLBの不文律に反する行為だ。ダイヤモンドを回るゴメスにブレーブスの一塁手が抗議するも、ゴメスの興奮は収まらず、暴言を吐き続ける。実は数ヶ月前、ゴメスは同じ投手から死球を受けていた。「お前が俺に当てた。だから俺はお前を打った」

ホームランだったにもかかわらず、ゴメスはすんなりとホームインできなかった。キャッチャーがブロックしていた、つまり、マッキャンが三塁線上に仁王立ちしていたのだ。乱闘が勃発した。「ゴメスはチーム全員を侮辱した。だから、あの状況でどんなキャッチャーもするであろうことをしたまで」とマッキャン。彼は間違いなく誰よりもチームを愛していた。

デビッド・フリース

セントルイス・カージナルスやロサンゼルス・エンゼルスなどで活躍したデビッド・フリースは、勝負強いバッティングの持ち主という印象が強い。メジャー11年間通算の得点圏打率は.288、代打での打率は.296と数字はそこそこだが、フリースの勝負強さを決定づけたのは、カージナルス時代の2011年、レンジャースとのワールド・シリーズ第6戦だった。

2勝3敗とレンジャースに王手をかけられていたカージナルス。しかも9回2アウト、あと1アウトで本拠地で相手に世界一を許すという屈辱を味わうところまで追い込まれていた。ランナーを二人置いていたものの、スコアは5対7。打席に立っていたのはフリースだ。1ボール2ストライク、あと1球で試合が終わってしまう。レンジャースの抑えが投じた4球目は、バットに当たった瞬間、ライトフライのように思えた。ただ、打球はグングン伸びていく。フェンス直撃。ボールが転々と転がるあいだに、ランナー二人が生還。三塁まで進んだフリースを大歓声が迎えた。

奇跡はまだ終わらない。10回表にレンジャースにホームランで再び勝ち越しを許すも、その裏の攻撃で同点に戻す。11回裏、先頭打者はフリースだった。「夢が叶ったんだ。言葉なんてないよ」フリースはのちにそう語る。フリースの打球は放物線を描いてバックスクリーンへと飛び込んでいった。カージナルスはそのサヨナラホームランで3勝3敗と逆王手をかけ、次の第7戦で世界一に輝いた。

イアン・キンズラー

レンジャースの一員として、デビット・フリースの奇跡的な活躍をダッグアウトの反対側から眺めていたイアン・キンズラーも2019年を最後に現役を退く。

キンズラーは強打の二塁手として知られている。通算ヒット数は1999本。節目の数字まであと1本での引退だった。またキンズラーといえば、大谷翔平の兄貴分としても日本人には馴染み深い。2018年、エンゼルスに所属していたキンズラーはオープン戦で大谷翔平が不調にあえいでいたとういう質問を一蹴した。「その質問は馬鹿げている!」そして、大谷がホームのエンジェルスタジアムでメジャー第1号を放ち、サイレント・トリートメントを受けたとき、沈黙を破ろうとまず飛びついたのもキンズラーだった。

最終年となった2019年は、サンディエゴ・パドレスに所属。そこでもフェルナンド・タティス.jrやクリス・パダックといった若手有望株の良き手本となった。「私の誇りは途中で投げ出さず、全力で野球に取り組んできたことだ」「持っているものは全て与えてきた。次の行動を起こすときが来たのだ」キンズラーはそう語る。

そんなキンズラーは、引退後も現役と似たような役回りを求められることになるだろう。パドレスは顧問としてキンズラーに球団に留まってもらうことを決めた。