「真っ直ぐは回転とか切れとか球質も自信があります」
福岡県の公立高校に、スケールの大きなサウスポーがいる。東筑高校の髙﨑陽登投手(3年)。身長1メートル87センチ、体重82キロの堂々とした体躯から、最速146キロの直球を軸に、カーブ、スライダー、スプリットを操る。
今春の福岡県大会、北部Bパート決勝の小倉工業戦で9回に逆転を許し、1-3で負けこそしたが、14三振を奪っての完投に、大学やプロも注目し始めた。
「(小倉工業戦は)真っ直ぐで押せましたけど、9回に大事に行き過ぎました。真っ直ぐは数字だけじゃなくて、回転とか切れとか球質も自信があります。総合力で成長はしていると思うので、そこを見てほしいなと思います」
中学時代から注目株も敢えて公立進学
遠賀南中時代は八幡南ボーイズに所属し、3年時には2019年夏の全国大会に出場。1回戦の三州ボーイズ(愛知)戦で、5回1失点完投、8-1コールドで初戦突破に大きく貢献した。
当時から身長が1メートル82センチ、直球の球速も130キロを越えており、高校からも注目されたが、「九国(九州国際大付属)など私立を抑えたい」と、地元の公立進学校である東筑高校への進学を決断。「東筑の1学年上の先輩から、考えて練習をやる高校だということを聞いたので、他人に決められるより、自分で考えてやった方が成長できると思って東筑に決めました」
東筑高校は多い時で7時限目まで授業があるため、練習開始が夕方頃になることも多く、午後8時には部活動生も含めた全生徒が完全下校しなければならない。歴代のOBたちは、限られた練習時間を有効に使いながら、2017年夏、2018年センバツと2季連続で甲子園に出場するなど、文武両道を体現してきた。
1年夏の福岡県独自大会からベンチ入りも…遠かった背番号1
髙﨑も2020年春からその環境下に身を置き、自分に足りないところを補うための練習メニューを考えながら消化してきた。入学から2年あまり、コロナ禍の影響を受け、学校や部活動が中止となることも少なくなかったが、1年夏に行われた福岡県独自大会で早くもベンチ入り。中学時に65キロだった体重は3年間で17キロも増え、球速も10キロ以上増した。
だが、1年秋の県大会で痛めていた左肘をかばいながら投げていた影響で、完治後もフォームや制球に微妙な狂いが生じた。「2年生の1年間、ずっとコントロールが悪かったです。(青野浩彦)監督さんに『ストライクを入れろ』と言われながら全然入らなくて…」
直球は140キロを計測するまでに成長していたが、新チームとなった2021年秋も背番号1はもらえず、11を背負うことになり「悔しかった」と話す。
年が明けて2022年。休み期間中にフォームチェックを重点的に行った。そこで、軸足である左足の重心バランスを少しだけ変えたことが、その後の飛躍のきっかけとなる。
「自分は軸足の重心がつま先の方なので、つま先方向に体重をかけていたら、膝が抜けて、股関節が抜けて、体が流れていたんです。それで、休み明けのキャッチボールから、かかと側に重心を落とすイメージでやっていたら、コントロールがよくなって、球速も上がってきました。体の使い方がよくなって(制球もスピードも)一緒にどんどんよくなっていった感じです」
小倉高校との定期戦で2回1失点2奪三振「甲子園で勝利したい」
3月の練習試合解禁後も結果を残し、春の福岡県大会で念願の背番号1を獲得。4~5月に行われた北九州市長杯では5試合中4試合に登板し、優勝に貢献した。
そして6月7日、3年ぶりに開催された小倉高校との定期戦では1点リードの7回裏から登板。2者連続三振に仕留めるなど、三者凡退に退けた。2点リードとなった8回裏、内野ゴロの間に1点こそ失うが、2回を1失点に抑え、北九州市長杯準決勝に続き、宿命の公立ライバル校を返り討ちにしてみせた。
青野監督は「まだまだ球数を少なくしていかないと夏は勝てない。ゲームを作れる投手になってほしい」と手厳しいが、それも期待の表れ。今春センバツ8強の九州国際大付属や、今春九州大会準優勝の西日本短大付属など、強豪ひしめく福岡を勝ち抜き、5年ぶり夏の甲子園出場を左腕に託す。
髙﨑は「甲子園出場だけじゃなくて、甲子園で勝利したい。ベスト16以上に行きたいです」と1996年夏以来の聖地勝利、そしてその先を見据える。
同校から投手として直接プロ入りとなれば、1985年ドラフト1位で近鉄に入団した桧山泰浩さん以来となる。近い将来、憧れの早川隆久(楽天)と同じプロの舞台に立つべく、最後の夏にアピールを続けていく。
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