著書『「一生懸命」の教え方』刊行
日大三高・小倉全由監督の著書『「一生懸命」の教え方』(日本実業出版社)が、7月3日に刊行された。
昨年、新型コロナウイルスの影響で、夏の甲子園予選がなくなってしまったときに選手たちに語りかけたこと、選手を指導する際に最も大切にしていること、思い出に残る名将とのエピソードなどについて、3回の連載に分けてお伝えしていく。
日大三高・小倉全由監督の著書『「一生懸命」の教え方』(日本実業出版社)が、7月3日に刊行された。
昨年、新型コロナウイルスの影響で、夏の甲子園予選がなくなってしまったときに選手たちに語りかけたこと、選手を指導する際に最も大切にしていること、思い出に残る名将とのエピソードなどについて、3回の連載に分けてお伝えしていく。
「センバツ出場は逃しましたが、その悔しさをバネにして、冬から春、さらに夏の直前まで非常にいい練習を重ねていくことができました。この夏の選手たちの戦いに期待したいです」
そう語る小倉監督。昨年の秋の東京大会では、決勝で東海大菅生に1対6で敗れ、今年の1月29日にセンバツ落選の報を受けてから、「最後の夏に全力を出し切ろう」と考えを切り替え、苦しい練習を重ねてきた。
そうして迎えた春の東京大会では決勝まで進んだものの、またもや関東一に0対5で敗れ、夏に向けての課題が残った。
それでも「1年前のことを思えば、こうしたことを考えられるだけでも幸せですよ」と小倉監督は話す。
1年前の2020年5月20日、日本高校野球連盟(以下、日本高野連)から「第102回全国高等学校野球選手権大会を中止する」という発表があった。
「甲子園出場」を掲げて日々の練習を積み重ねていたにもかかわらず、新型コロナウイルスという得体の知れない疫病によって、その夢に挑戦することができなくなってしまった選手たち。
とくに当時の3年生は、その2年前の18年の夏、西東京の代表として甲子園に出場し、ベスト4まで勝ち抜いた先輩たちの雄姿を見ている。
スタンドで応援していた当時1年生だった彼らが、「自分たちも先輩たちと同じ舞台に立って勝ち抜いていきたい」と意気込むのは当然のことだった。
けれどもその夢が無残にも崩れ去り、選手たちも内心は絶望の淵に立っていたに違いない。
このとき小倉監督が真っ先に考えたのは「憧れの甲子園への出場を懸けた戦いに挑戦できなくなったからと言って、無意味な3年間だったと彼らに思わせてはいけない」ということだった。
日本高野連の発表から4日後、部員全員を緊急招集してグラウンドのバックネット裏で、小倉監督は緊急ミーティングを行った。
小倉監督は開口一番、「みんなも知っての通り、夏の甲子園大会は中止になった」
そう切り出すと、3年生部員は全員、目に涙を浮かべた。
無理もない。指導者である小倉監督自身も初めての経験で、やり場のない気持ちを持った3年生部員の心情をおもんばかっていたのだ。
小倉監督もあふれる感情をグッとこらえ、こう続けた。
「でもな、『自分たちの3年間は何だったのか』って考えるのはナシにしよう。『無意味な3年間だったんじゃないのか』と考えた時点で、これから先の人生で負い目を作ってしまう。
高校野球を終えたときに、『自分たちが高校野球に捧げた3年間は間違っていなかったんだ』って強く思えることが大事なんだ」
コロナ禍で夏の甲子園大会が開催できない状況になったのは、後にも先にも彼らだけの世代になるはずだ。彼らの高校野球をどう終わらせるか、小倉はミーティングを行うまでの数日の間、必死になって考えていた。
この時点では、西東京独自の代替大会が開催されることは決まっていなかったが、小倉監督はあえて選手たちにこう言った。
「帝京の前田(三夫)監督、二松学舎大学付属の市原(勝人)監督、早稲田実業の和泉(実)監督に頭を下げてお願いするから、4校で対抗戦を開催しよう。
もし『コロナの感染リスクがあるから無理です』と言われたら、チーム内で紅白戦を開催しよう。
紅白戦も学校から『無理だ』って言われたら、残りの期間、オレが心血を注いで指導するから、『3年間やり切った』という達成感を共有しようじゃないか」
このとき、3年生の目の色が変わったことを小倉監督は見逃さなかった。
夏の甲子園大会がなくなってしまったという現実を変えることはできないが、これから先の未来は自分たちの力で切り開いていくことができる。
後ろに向いたままの3年間で終わらせるべきか、前を向いて必死に未来に向けて一歩一歩進んでいく3年間で終わらせるのか――。
小倉監督は後者であってほしいと願っていた。
後日、東京都の高野連から東京の独自大会を東西に分けて開催されることが発表された。
いつもの夏と同じ気持ちでこの大会に臨みたい――。小倉監督の偽らざる心境だった。
Ⓒ日本実業出版社
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