慶應大学・木澤尚文「どこまでも伸びる奥行きのあるストレートを」 2020ドラフト候補に聞く

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「一球、一球が勝負球」

「一球、一球の積み重ね。目の前の一球、一球が勝負球」

慶應大学・木澤尚文は、その言葉をいつも念頭に置いて投げている。

ひとつひとつのボールにこだわりを持ち、その積み重ねで目標地点に辿り着く。自分が放る全ての球に意味を持たせるということだ。

「今年も一球、一球を費やして、一人一人というのは変えないで行くつもりです。その中で出して良いフォアボールや、ここは(走者を)出しちゃいけないってところで配球を少し変えて行く。その感じになると思います。球の力加減ということではなく、配球や球種でその都度、ピッチングを変える。そうすることで、長いイニングを投げていく形に出来ると考えています」

自身でも納得が行った試合がある。昨年の6月2日、東京六大学野球春季リーグの対早稲田大学2回戦。この日、先発した木澤は7回1/3、打者27人を相手に被安打3、奪三振10、自責点0という完璧に近い投球を見せ、数字以上の何かを掴み取った。

「あのときは、その前(5月19日)の明治大学戦でリリーフをやって1イニングだけ投げたんですけど、凄く感覚が良くて、慶早2回戦のときもその感覚で投げました。そうしたら8回途中までああいうピッチングが出来たので……」

この日、木澤のストレートは最速で154キロを計測。自己最速を更新した。さらには切れ味鋭いカットボールとのコンビネーションで終始、相手打線を圧倒。スタンドの観客、ネット裏に陣取るプロのスカウト達を唸らせた。

「球がキャッチャーの前で死んでいる」

昨冬オフは、その自慢のストレートの精度と再現性を高めるため、投球練習にある工夫を凝らした。バッテリー間を通常の18.44mにするのではなく、25m間まで距離を伸ばし、奥行きのあるストレートを投げようと試みたのだ。

「キャッチャーが構えるミットより奥に投げようという意識です。これは大学1、2年生の頃に前助監督の林(卓史)さんにもよく言われたことなんですけど『木澤の球はキャッチャーの前で死んでいる』と。これまでとは違うストレートを投げたいのであれば、18.44mを過ぎても衰えない強い真っ直ぐを目指せば良いのではないかと。そう思って練習を始めました」

いざ、キャッチャーを7m奥に構えさせると、自分のボールにこれまでは目で見ることがなかった悪癖があることに気付かされた。

「18.44mで投げているときに、キャッチャーの収まりが良くて『ナイスボール』とか言われていたボールも、そこから先で構えたら、ムチャクチャ、シュートしていたりするのを確認出来たんです。そのボールをなくしたくて、今年は18.44mより先に行っても、ずっと真っ直ぐに伸びていくボールを投げる。奥行きのあるストレートを投げたいと思ったんです。

上にホップする感じのボールではなく、どこまでもスーッと伸びて行く真っ直ぐ。それを右打者のアウトコースにビシッと投げられるようにしたいというのが昨冬オフの課題にありました」

理想は広島・森下暢仁も「自分のスタイルを崩さずに」

この話を聞いて、ピンと来る男がいた。

昨年、明治大学のエースを務め、全日本大学野球選手権優勝に導いた現広島東洋カープの森下暢仁のことだ。

森下もベース板上でも衰えない力のあるストレートを求め、バッテリー間に約25mの距離を置く投球練習を以前取り入れていた。木澤も当然そのことを知っており、彼の名前を出すと相槌を打つようにこちら側を見た。

「昨年の森下さんは『モノが違うな』って目で春のリーグ戦を見ていました。カーブで緩急が付けられて、チェンジアップでもカウントが獲れるし、三振も獲れる。さらに真っ直ぐは強弱が付けられて、内外関係なく投げ分けられる。まさにピッチャーの理想ですよね。あれが出来たら良いですけど…」

昨年夏の日米大学野球では大学日本代表の大黒柱を務め、その後プロの世界でも活躍した先輩投手の背中に羨望の眼差しを向けた。

しかし、自身の投球の話になると一転。気持ちを切り替えるようにこう言葉を続けた。

「でも僕は森下さんのようなタイプではないので…。あのまま綺麗にまとめあげる投球は僕のスタイルではないので。長いイニングを投げるプランは同様に持ちつつも、僕は打者一人一人に真っ向から立ち向かっていくスタイルで、そこは背伸びしないで自分のスタイルを崩さずに行きたいと思います」

その言葉に、彼なりのプライドを覗かせたように見えた。

やりたいことは「野球が終わってからで良い」

昨秋はリーグ戦の開幕を前に右肩を痛め、不完全燃焼のままシーズンを終了した。チームがリーグ優勝、その後の明治神宮大会で日本一に登りつめた中、自身は複雑な胸中を抱え、その瞬間を迎えた。

「自分が戦力になれないまま優勝が決まった歯がゆさはもちろんありました。チーム全体としての目標が達成出来た嬉しさと、自分自身が戦力になれなかった不甲斐なさ。それを感じてしまう幼さがあったと言いますか、正直、複雑な心境でした」

だから大学生活の最終学年を迎えた今季は、人一倍、野球と貪欲に向き合った。グラウンドにいるときは野球、グラウンドにいないときも動画サイトで野球の動画を見たり、日々感じたことを野球ノートに書き記したり、気が付けば野球のことだけを考える生活になっていた。今ではそれがすっかり彼のスタンダードにもなっている。

「興味があることはたくさんありますよ。やりたいこともたくさんあります。けれど野球が終わってからで良いかな、って考えています。僕は基本、多趣味ですし、何事も気になったら調べてしまうタイプの人間なので、ニュースを見ても『へえ、そうなのか……』って調べたりもして、ただのミーハーかなって思いますけども(笑)。なんだかんだやっぱり野球が好きですからね」

新型コロナウイルスの感染拡大の影響で開幕を延期していた東京六大学野球春季リーグは8月10日に開幕を予定している。当初の予定より約4カ月遅らせた形でリーグ戦を開催。通常のリーグ戦よりも試合数も縮小して、日程も8日間の集中開催でギュッと凝縮されている。木澤が言う。

「優勝したいです。優勝しかないです。優勝するために僕がどう働くかだと思っているので、個人の目標もありますけど、それは優勝するために僕がしなければいけない数字だと考えています。この先の進路についても、僕が優勝にどう貢献出来るかだと考えていますし、やることは変わらないと思います。チームが優勝するために、自分がピッチャーとしてどう機能し、成長していけるか。そこにかかっていると思います」

視線の先にあるのは春秋リーグ戦優勝。秋の明治神宮大会連覇も見据える。今はその二点に全神経を注ぎ込む。

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