‶ドラフト1位候補″立野和明
これが本来の姿だろう。
マウンドで躍動する彼を見て、‶ドラフト1位候補″の声に恥じないポテンシャルの高さを感じることが出来た。
2019年7月25日、東京ドーム。第90回都市対抗野球決勝戦。トヨタ自動車の補強選手・立野和明は、3点をリードされた4回裏1死1、2塁の場面から登板すると、打者13人から5つの三振を奪うなど、誰一人、外野に打球を飛ばさせない圧倒的なピッチングを披露して、今年の都市対抗野球最後の登板を終えた。
「中継ぎは気持ちで投げる部分もあるので、そっちの面はしっかりしていこうと思ってマウンドに上がりました。結果、打たれても、打たれなくても、気持ちの面だけは『強気で』と考えていたのでその部分は出せたんじゃないかと思います」
この試合、最初に対峙したJFE東日本の4番・平山快にはカウント3-2からの6球目のストレートをインコース低めにズバッと決めて空振り三振。5回には今川優馬、峯本匠といった中心打者に対しても最後はストレート勝負を選択していずれも空振り三振を奪った。
球速こそ自己最速の152キロに届かなかったが、キャッチャーの構えたミットに質の高いストレートを連発した点、カーブ、スライダー、カット、スプリットといった多彩な変化球も有効に使って、相手打者に自分のバッティングをさせなかった点は高く評価出来た。
中部大第一から東海理化に進んで、今年で社会人3年目の21歳。伸びしろもまだまだ十分だ。
「チームで都市対抗に出た選手の方が凄い」
今季は、都市対抗野球予選前に打球を足に当てた影響もあって、思うような結果を残せずにここまできた。都市対抗野球東海地区2次予選第1代表決定トーナメント1回戦のトヨタ自動車戦では、2点リードをもらった3回に3失点して逆転を許すと、中盤なんとか立ち直るも7回に再び3失点して降板。精彩を欠いた。
その後、チームは第3代表決定トーナメントの1回戦でHonda鈴鹿に、第5代表決定トーナメントの2回戦で再びトヨタ自動車に敗れて予選敗退。自チームに良い流れを引き寄せることが出来なかった責任をどこかで感じていた。
一方で同じ高卒3年目で、互いにしのぎを削って来たJFE西日本の河野竜生(鳴門高卒)や、JR東日本の太田龍(鹿児島れいめい高卒)、西田光汰(大体大浪商高卒)、山口裕次郎(履正社高卒)らが、自チームで本戦出場を果たしているのも知った。
JFE西日本は準々決勝で東芝に、JR東日本は3回戦のNTT西日本に敗れ、共に姿を消したが、「自チームで出た選手の方が、補強で出た準優勝よりも凄いかなと思いますね」と彼らの戦いに脱帽。同時に自チームで本戦に出られなかった悔しさも滲ませた。
それでも持ち前の明るさで再び前を向くと、こうも呟いた。
「ただ、(トヨタ自動車の補強選手で)良い経験が出来たかなとは思いましたけどね。太田とかよりも良い経験が出来たんじゃないかなと…」
1回戦では補強選手としての参加ながら、トヨタ自動車の初戦の先発を任されるなど貴重な経験を積んだ。その後の日本生命戦で再度先発。そして決勝のJFE東日本戦ではもう後がないという戦況の中でマウンドを託された。こうした経験はけっして無駄じゃないし、今後の彼の野球人生においてもきっと糧になっただろう。
「初戦も違うし、3回戦も違うし、決勝も違う。いいっすね都市対抗は」
悔しさの中にどこかサッパリとした表情も見せ、再び前を向いた。
高校卒業から社会人野球を経て
その経験と想いの全てを9月7日から岡崎市民球場で始まる社会人野球日本選手権大会東海地区予選にぶつける。
立野は過去3年間の都市対抗野球の戦いを振り返りながらこう言う。
「1、2年目とあまり良い結果が残せなくて、3年目もけっして良い結果と言えるほどではなかったんですけど、(チームの)全5試合中3試合に投げられたというところは今後に繋がるといいますか、次の日本選手権予選に繋げていけるのかなと考えています」
補強選手での参加とは言え、社会人生活3年目の都市対抗野球は過去最高位まで達した。決勝で自分のピッチングが出来たのも、もちろん自信になったし、この良い流れを秋の大一番に繋げようと考える。
近年、高校卒業から社会人野球を経て、プロで羽ばたくケースが増えている。
2016年のドラフト1位でオリックスに入団し、今季すでに10勝を挙げている山岡泰輔を筆頭に、2017年のドラフト1位で同じくオリックスに入団した田嶋大樹、2016年のドラフト4位で千葉ロッテに入団した土肥星也。こうした流れに今年は立野が乗る。
この秋、最注目の社会人野球右腕だ。
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