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JFE東日本・落合監督「新人ではなく経験者」 就任2年目で都市対抗野球初Vの起用術

2019 7/30 06:00永田遼太郎
都市対抗野球初優勝を喜ぶJFE東日本硬式野球部のメンバーⒸSPAIA
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ⒸSPAIA

グラウンドでは新人もベテランも関係ない

7月25日、第90回都市対抗野球決勝戦。JFE東日本が初の栄冠を勝ち取ったその日、スタメンの1番から6番に名を連ねたのは22歳から25歳までの若い選手達だった。

JFE東日本・落合成紀監督は、入社1年目から3年目までの社歴の浅い選手達を積極的に起用し、出場23回目にして初の都市対抗優勝へと導いた。

「野球の厳しさは、高校、大学、社会人と、アマチュアのどこも変わらないと思います。その厳しい状況下で、(彼らは)しっかりやって来た選手ですから新人を出しているつもりは全くありませんでした。(今日も)先発メンバーを見たときに1番から6番まで全部3年目以下の選手が並んでいましたが、(彼らを)中堅とまでは言わないですけど、(十分な)経験者として、送り出したつもりです」

グラウンドに出れば新人もベテランも関係ない。監督自身が、彼らを「新人」とは見ないことで、若い選手達の自覚、自主性を促した。

2017年の8月に監督に就任してから間もなく3年目。社会人野球に新たな名将の誕生を予感した。

とにかくバットを振って

ベンチでは「楽しくやろう!」と明るく選手達をグラウンドへ送り出した。バッターが三振でベンチに帰っても、ピッチャーが失点をして戻っても態度は一切変えない。

選手達、特に若い野手陣に対してはいつもこう伝えて来た。

「とにかく積極的にバットを振って行こう!」

それはチームの合言葉のように選手全体に浸透した。

落合監督が掲げる「超攻撃的野球」。その旗手とも言うべき入社1年目の今川優馬はこう話す。

「(JFE東日本は)能力が高い選手が揃っているのであとはメンタルだけという感じで…。『受け身にならずに、どんどん積極的にストライクを振って行こう』と、監督の方針として話していました。それを最後まで貫けたのが優勝出来た要因のひとつだと思います」

上からだけでなく選手間でも積極的に意見

過去の失敗や経験を糧に、今季はよりポジティブな野球を展開しようと試みた。バッターが打席で消極的な姿勢を見せれば、監督、首脳陣からだけでなく選手間でも自然と声を掛け合っていく。

たとえば準々決勝のパナソニック戦でのこと。前の試合(明治安田生命との2回戦)で4打席無安打だった今川に、チームの4番を打つ同じ入社1年目の平山快がこんな声をかけた。

「今日は(重心が)後ろに残り過ぎているんじゃないの?」

試合で結果を求め過ぎて受け身になっていた自分に、今川はハッとなったと言う。

「僕の持ち味は『前に、前に』と積極的に行く感じですが、そこで受け身になっている自分に気付きました。上手く修正出来たかなって思います」

監督やコーチなど上からの意見だけでなく、選手同士の横のつながりでも意見をどんどん言い合う。これこそが監督が求める形だった。

このアドバイスが功を奏して、今川はパナソニック戦で4打数3安打の猛打賞。続く準決勝の東芝戦でも1本塁打含む5打数2安打、決勝の4打数1安打2打点の活躍をして、都市対抗野球の新人賞にあたる若獅子賞を手にした。

激しいチーム内競争で切磋琢磨

今シーズン、落合監督は都市対抗野球南関東予選の初戦(対オールフロンティア)から、本大会決勝(トヨタ自動車戦)に至るまで、2番・今川優馬、3番・峯本匠、4番・平山快といった3人の新人達が並ぶよう打順を固定して試合に臨んだ。

とはいえ選手側からすれば、安住の地などどこにもない。

入社2年目でチームの主将を務める鳥巣誉議(たかのり)でさえ、スタメンから外れるほどチーム内競争は激しかった。当然、峯本もそうした緊張感の中で日々戦っている。

「(初戦は)チームの3番を打たせてもらっているのもありますし、硬さやプレッシャーもある中で、自分のスイングが出来なくて途中で代えられてしまったんですけど、次の試合では『なんとしても打たないと』と、考えていて、いかに(周りに)調子を落としている風に見せないかを考えてプレーしました。

JFEは僕が打てなくても、代わりに活躍が出来る選手がたくさんいるチームです。その悪い状態から、どれだけ(自分を)上げて行けるかがポイントだといつも考えています。そこは練習からだいぶ意識してやりましたし、2戦目の明治安田生命戦で2本ヒットを打てた。あれでだいぶ波に乗れた感じはありました」

入社1年目から3年目の若い選手達を意識させることで切磋琢磨に繋げる。そこも監督の狙いのひとつにあるようだ。

「ライバル心と言いますか、2回戦(明治安田生命戦)で、他の新人3人が打っているのに、僕だけ打てなくて『あ~あ…』ってなっていたことがあったんです。だけどその後、自分も結果が出せたので、そうやって切磋琢磨しながら刺激し合いながら出来ているのがこのチームの強い要因なのかなって思います」(今川)

一方で峯本はこう言う。

「刺激にはなっていると思いますが、自分はあえてそれを言わないようにしています。言い過ぎると逆に意識し過ぎちゃうところもあるので、『あいつが打ったから次は俺も打たなきゃ』って思ったら、逆に力が入って打てなくなってしまうかなって思うんです。だからこそそこは切り離して、普段からあえて口にしないようにしています」

三者三様、十人十色。自身の性格に合わせて、互いの存在を意識し合い、そして認め合う。今回の若手選手の飛躍にはそんな背景もあったようだ。

最高の結果で監督に感謝を

今川と同じく若獅子賞を手にした峯本は今回の都市対抗野球をこう振り返る。

「1回戦の大阪ガス戦の途中で代えられたりもしたので、代えられた時点でこういう賞はないかなと思っていたんですけど、試合を重ねるにつれて自分の良さも出てきて、今日(決勝)の結果で狙えるんじゃないかなと。そんな雰囲気はありました」

若獅子賞を獲得しインタビューに答える峯本匠ⒸSPAIA

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峯本は、大阪桐蔭高の出身で、3年夏には現千葉ロッテの香月一也らと共に全国制覇を経験した。立教大学時代も3年秋からレギュラーを任されるなど「打って、守れる」二塁手としてプロのスカウトからも注目される存在として活躍したが、ドラフト指名には至らず、更なる成長を求めて今季からJFE東日本に籍をおいている。

「大学時代、不甲斐ない結果で終わっている中で1年目から3番を打たせてもらい試合にも出させてもらっている。そこは落合監督に感謝の意味もあります。自分らが感謝を伝えるには勝利をプレゼントするしかない。それが今回、最高の結果(優勝)で示せたのは本当に良かったなと思っています」

育成しながらも勝負にはこだわる

落合監督が感慨深げにこう言う。

「今年のチームが優勝出来たのは間違いなく新人4名が打線の中に入って来たことが全てだと思っています。それはチームとしても分かっていることなので、そこは自信を持って『こいつらでこけたらしょうがない』という想いですよね。自分は信頼して送り出しました」

今川優馬、峯本匠、平山快、岡田耕太。

今回の都市対抗野球でもチームの中心として活躍した入社1年目の選手達は、いずれも落合監督が自ら足を運び、引き受けた最初の選手達だ。

「育成しながらも勝負にはこだわる。それを今年、自分自身のテーマにおいてやって来たつもりです。『お前ら結果出せよ』『そんなに甘いものじゃないぞ』というところは、こちら側から言わなくても、分かっている選手でしたし、だからこそこういう結果も出たんじゃないかなって思います」

落合監督も誇らしげに話す新人達。彼らの存在がこの数年間、予選突破も厳しかったチームを劇的に変えた。