人情味ある指揮官のもと奮闘
東京都にある社会人クラブチーム、REVENGE99。チーム創設は「リベンジ」という言葉が世に流行した1998年の2月で、全足立リベンジの名前で誕生した。
その3年後の2001年2月に、現在のチーム名「REVENGE99」に変更。地域名の「足立」ではなく「リベンジ」の方が継承されるという不思議なこだわりを持つクラブだ。「REVENGE『再び挑戦する』」を合言葉に野球を愛する男たちが集い、日々汗を流している。
チーム名のインパクトは絶大なわけだが、代表兼監督を務める浅古純一監督に会うと、そのチーム名からは想像も出来ない気さくさと、腰の低さに驚かされる。
試合後の質疑応答でも選手のミスを口にしないし、むしろ選手たちの健闘を称える。とても人情味のある監督さんなのだ。
たとえば今年5月19日に行われた都市対抗野球大会東京都代表決定戦1回戦の鷺宮製作所戦の試合後も、その日6つ記録したエラーについての言及をさけ、浅古監督はこう答えている。
「企業チームが一番嫌がるところって、しっかり守られて、盗塁もさせてもらえないところだと思うんです。ですから今回もバッティング練習の時間を割いて、守備練習を多めにして準備してきたんですけどね。力が及びませんでした」
選手個々に生活がある社会人クラブの多くは、試合での連携ミス、守備の乱れがわりと多くみられる。それを認めた上で、選手たちは戦い、首脳陣は最大限の策を練る。
だからなのか、出た結果については試合後につべこべと言うことはない。やれることをやって失敗したのなら、それでいい。取材の中で浅古監督のこだわりが一瞬、垣間見えた気がした。
「ただ、守備で良い面も見られましたし、バッテリーも盗塁を刺してくれたりしたんでね。そこは良しとしましょうよ!」
大会前、練習で取り組んできた最小限のプレーは見せることが出来た。終盤、再逆転を許したレフトフライの捕球ミスについても、守っていた選手の本職が投手であること、試合中に主軸に故障者が出てしまったことをこちら側に伝え、失敗をした選手をやり玉にはあげない。
「打球が高く上がった分だけ、風に当たっている時間が長くなってしまって、最初はスタンドに入ってファールと思った打球が風でだいぶ戻されてきましたよね。実際、難しかったと思いますよ。ただ、守っていた選手もきっちり期待に応えて同点タイムリーを打ってくれましたし、その結果がこれなんでね。本当に鷺宮さんを相手に選手たちはよく戦ったと思います。ヒット数もそんなに変わらなかったでしょ?これも試合の流れですからね。仕方ないです」
そう言って、次の試合、次の大会を見据えた。
元プロ3人を軸に企業も舌を巻く実力
そんなREVENGE99には3人の元プロ野球選手(NPB経験者)が現在、在籍している。
昨年までオリックスに籍をおき、社会人(NTT東日本)時代にはプロの若手が主体となった2013年の侍JAPANにも選出された高木伴。創価大時代は小川泰弘(現東京ヤクルト)とバッテリーを組み、大学ナンバーワンキャッチャーとして名を馳せた元千葉ロッテの寺嶋寛大。中日の育成選手として2016年の1年間だけ所属し、怪我の影響で志半ばチームを離れた中川誠也。その三人がそれぞれチームの重要なパーツを担っている。
中川は球速140キロを超える速球とスライダーを武器に、主に先発を任されている。この中川が主戦となってゲームを作り、北川尚由、瀬尾真平らが繋ぎ、最後は高木が締める。これが必勝パターンだ。
この継投について浅古監督に質問をすると、4日間で決勝までの4試合を戦う全日本クラブ選手権の本戦を見据えたものであることを明かした。
短いイニングの継投で、投手一人一人の負担を最小限に抑え勝ち上がる。これが限られた戦力で戦う自分達の戦法だと考えているようだ。
一方の野手陣だが寺嶋はむしろ下位打線を固める存在。中心は2000年夏の甲子園で東海大浦安の準優勝メンバーだった森拓也が担っている。
打順も当時と同じ4番を務め、スタメン中最年長の35歳はチームのポイントゲッターとして働く。そんな彼の前後を、昨年まで敬愛大でプレーし、長打力も秘めている三井直登や、主将の久保師摩らが固めている。寺嶋を下位におくほどの打線の破壊力は企業チームも舌を巻くほどだ。
実際、5月19日に行われた都市対抗野球東京都二次予選でも、鷺宮製作所を相手に0対3で劣勢だったゲームを7回表にまず1点、8回表に3点を奪って一度は逆転して見せており、その力を証明した。
人生の「リベンジ」へ挑戦は続く
彼ら選手の多くは、REVENGE99のサポート企業「ジェイファムコーポレーション」に勤務し、トレーナーとしての経験と勉強を重ねながら現在、野球を続けている。高木、寺嶋、中川の元NPB経験者三人も同社の所属だ。
さきの全日本クラブ選手権では、それぞれに持ち味を発揮した三人だが、1回戦のビッグ開発クラブ戦で3安打を放った寺嶋に話を聞くとNPB復帰はもう考えていないという。
高木についても、さきの全日本クラブ選手権で140キロ台後半のボールを連発し、輝きを取り戻しつつあるように思えたが、今秋のプロ野球合同トライアウトには今のところ参加しない予定。この先、野球を続けるかについても現在検討中なのだという。
唯一、NPB復帰を考えているのは三人の中で年齢的にも24歳とまだ若い中川ただ一人。中川にその話題を振ると「もっと練習して出来次第で」と条件をつけながらも、トライアウト受験を考えているようだ。
トレーナーとして、社会人野球の選手として、はたまたNPB復帰で、再起を狙うそれぞれの道。彼らの人生の「リベンジ」が、どこかで叶うことを願う。