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大阪ガス主将・青柳「最高でした」 最後まで機動野球貫き都市対抗V

2018 8/6 17:15永田遼太郎
東京ドーム,ⒸShutterstock.com
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「絶対に黒獅子旗が欲しい」

悲願の黒獅子旗を受け取ると、大阪ガスの主将・青栁匠は、一塁側応援席に向かって、高く、誇らしげに、それを掲げていた。

「最高でしたね。黒獅子旗は主将である僕しか受け取れないものなので……。主将をやるなら絶対あれが欲しいと、思っていましたからね」

入社7年目、28歳。重責を果たした安堵感からか、ゲームセットの瞬間、自然と涙がこぼれていた。

ここまでたどり着くのに人一倍、苦しみを味わった。

主将を任されたのは、3年前の秋。2015年の都市対抗野球準優勝後、「悲願達成」とともに先輩から託されたものだった。

しかし、主将として初めて臨んだ2016年の都市対抗野球は本大会出場こそ果たしたものの1回戦で西濃運輸に0対2と敗戦。翌2017年は、近畿地区2次予選の1回戦、大和高田クラブに1対4で敗れ、その後の敗者復活でなんとか上がってきたものの第4代表決定戦でパナソニックに1対4、第5代表決定戦では三菱重工神戸・高砂に2対3で敗れてよもやの予選敗退を喫し、自身の主将としての在り方に迷いも生じていた。

さらに今大会では、チームが前年度優勝のNTT東日本を準々決勝で破る快進撃を続ける中で、ひとりだけ準決勝まで15打数1安打、打率.067の大不振。侍JAPAN社会人代表にも名を連ね、右方向にも左方向にも、はじき返すシュアなバッティングこそが、彼本来の姿だが、準決勝のJR東日本戦では5打数0安打と一度も出塁出来ないまま終わり、主将としても、1番打者としても波に乗り切れない自分に憤りを感じていた。

準決勝が終って宿舎に戻ると、深いため息をついてベッドに横たわった。

「何しとるんや、自分……」

責任感の強さから、自分をさらに追いこんだ。しかし、ベッドの上で、いくら考えを巡らせても出てきた答えは、これまでと何も変わらなかった。

「選手としてはこれまでどおり〝やれることをやる″しかない。あとはキャプテンとして、先頭に立って声を出すだけか」

答えは単純だったかもしれない。しかし、決勝まで来て、やれることと言ったら所詮限られる。連戦の疲れをリフレッシュして、あとは気持ちを奮い立たせることくらい。気持ちを新たに主将として、1番打者として、積極性だけは失わないようにと心に決め、いざ決戦の舞台へ向かった。

「とにかく走って得点圏へ」

決勝は大阪ガスの温水賀一と、三菱重工神戸・高砂の守安玲緒の息詰まる投手戦となった。

「決勝は守安さんが万全の状態で来るのが分かっていたので、なかなか点は取れないだろうと……。だから自分が塁に出たら、とにかく走って、得点圏に進めればと……」(青栁)

その準備だけは怠らなかった。

試合は、互いに一歩も譲らないまま0対0で8回を迎えた。

先に動いたのは大阪ガス。8回表、一死二塁の窮地を迎えると、橋口博一監督は、すかさず好投の温水を代えて二番手に緒方悠をマウンドへ送った。

この積極的な采配が、結果として自軍を勇気づける。緒方は相手チームの後続二人をピシャリと抑えて、自軍に流れを引き寄せた。

すると、その裏、先頭打者だった青栁が、この日2本目のヒットを中前に放って出塁。絶好のチャンスを迎えた。

試合も終盤、虎の子の一点が欲しいところ。本来ならこの場面、送りバントが定石だ。しかし、大阪ガスは違った。

2番・小深田大翔の3球目、青栁は二塁ベースめがけて敢然と走った。

「そうやって我々はずっとやってきたんでね。そこでスタイルを変える必要もないし」(橋口監督)

これまでと違う野球をすることで守勢に回るのを嫌った。しかし、結果はファール。

「送っても良かったんですけど、送ってワンアウト二塁になっても、あんまり点が入らへん感じやったし、いつもどおりでええかなって……」

続く4球目、青栁が再び走る。結果は小深田のサードゴロで二塁に進塁。犠打ではなく、ランエンドヒットの形で一死二塁の場面を作ったわけだが、結果は同じでも内容は違っていた。緩まない空気を作り、流れを相手チームに渡さない。大阪ガスの作戦勝ちとも言えるシーンだった。

その後、3番・峰下智弘の中前安打で、二塁から青栁がホームイン。これが決勝点となった。

「重みを感じた」

この決勝戦に代表されるように、今大会、大阪ガスは積極的な野球を仕掛け続けた。
盗塁数は大会新記録となる13個。準々決勝では同じく積極的な機動力野球を仕掛けるNTT東日本を相手に、僅差ながら5対4で競り勝った。

「どの試合も苦しかったですけど、昨年優勝のNTT東日本戦は大きなヤマだとは思っていましたね」(青栁)

二回戦、準々決勝、準決勝と共に1点差ゲーム。勝敗を分けたポイントは、決勝でも見られた橋口監督の積極的な采配と、それを遂行した選手達の意識の高さだった。

試合後、応援してくれた社員、そしてチーム関係者、そしてファンの人達の前で喜びを分かち合った大阪ガスの選手達。なかでも青栁は、これまでの苦労を思い出したのか、とても嬉しそうだった。

「やっぱりこれを目指して、ずっとやって来ていましたから…。(黒獅子旗を)もらったときは重みを感じましたし、歴代のOBの方々も、それを目指してやって来て、獲れていなかったことが2回もあったので、そういう先輩方のためにも絶対に獲りたいなという想いで試合に臨みました。実際に獲ることが出来て本当に良かったと思っています」

秋には地元・大阪市(京セラドーム大阪)で日本選手権が待っている。

こちらも1991年、2003年、2004年と3度にわたって準優勝に終わっている。「シルバーコレクター」という有難くない愛称とおさらばした今、二冠達成を目指したい。