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サニブラウン世界での立ち位置は? 日本新でも全米大学選手権3位

2019 6/14 11:00鰐淵恭市
東京五輪へ期待が高まるサニブラウンⒸゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

9秒97は今季世界6位タイ

男子100メートルでサニブラウン・ハキーム(フロリダ大)が、日本人2人目の9秒台となる9秒99をマークしてから約1カ月後。朗報が再び、海の向こうからもたらされた。

6月7日に行われたアメリカの学生ナンバー1を決める全米大学選手権で、サニブラウンが、2017年に桐生祥秀(当時東洋大、現日本生命)が樹立した日本記録を0秒01更新する9秒97(追い風0.8メートル)をマークした。20歳のこの走りが快挙であることは間違いない。ただ、このタイムを持って、サニブラウンは東京五輪で活躍できると言えるのだろうか。

サニブラウンのタイムは今季世界6位タイ(6月10日現在)と、世界のトップレベルにある。ただ、9秒97をマークしたレースでも優勝はできず、3位だった。全米大学選手権がいかにレベルの高い大会とはいえ、学生のレースで3位である。あまり浮かれすぎて考えるのは良くない。活躍の観点を「ファイナリスト(決勝進出者)」と「メダル獲得」の二つに分けて考える必要があるだろう。

準決9秒台なら88年ぶりファイナリスト圏内

五輪や世界陸上で男子100メートルに出場できるのは1カ国最大3選手になる。短距離王国アメリカやジャマイカといえども、それ以上は出場できない。なので、東京五輪でファイナリストになれるのかと言えば、現時点でも十分に可能性はあると言える。

どれくらいのタイムを出せば、五輪、世界陸上のファイナリストになれるのだろう。最近の五輪、世界陸上の決勝進出者の中で、準決勝時のタイムが最も遅かったものを表にまとめてみた。

五輪、世界陸上の決勝進出ラインⒸSPAIA

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2015年北京世界陸上が最もレベルが高く、準決勝で9秒99以内でないと決勝に進めなかった。逆に言えば、準決勝で9秒台をマークすれば、ファイナリストにグッと近づくことになる。

サニブラウンは今回の全米大学選手権の準決勝で、追い風2.4メートルの参考記録ながら9秒96で走った。レベルの高いタイムで2本そろえるのが、ファイナリストへの条件となるが、サニブラウンはその力を備えていると言える。

ちなみに、日本選手で五輪、世界陸上の男子100メートルでファイナリストになったのはたった1人しかいない。1932年ロサンゼルス五輪で6位に入った吉岡隆徳だけである。サニブラウンが決勝に進めば、吉岡以来88年ぶりの快挙となる。

ロンドン五輪は9秒79で「銅」

ただ、活躍の観点が「メダル獲得」となれば、かなり話は難しくなってくる。

今季の世界ランク1位のタイムは9秒86。5月18日のダイヤモンドリーグ上海大会でライルズとコールマン(ともに米国)がマークし、全米大学選手権で優勝したオドゥドゥル(ナイジェリア)もこの記録で走った。サニブラウンとオドゥドゥルの差は0秒11で、距離にして約1メートル。かなりの差をつけられている。

過去のメダルのタイムはどれくらいだったのか。2008年北京五輪以降の五輪、世界陸上でのメダルのタイムを表にまとめてみた。

五輪、世界陸上の金銀銅タイムⒸSPAIA

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ウサイン・ボルト(ジャマイカ)がフライングで失格となり、向かい風1.4メートルという悪条件だった2011年大邱世界陸上は銅メダルが10秒09と特別遅い。ただ、その大邱世界陸上を除けば、最も遅い銅メダルのタイムは2013年モスクワ世界陸上、2017年ロンドン世界陸上の9秒95である。一番速いのは2012年ロンドン五輪の9秒79。

やはり、現時点のタイムだけ見れば、メダルを獲得できる力があるかと言えば、「否」と答えるしかない。

今後の成長次第で9秒8台も

ただ、サニブラウンはまだ20歳である。188センチの長身をいかしたダイナミックな走りは、未だ発展途上。9秒97のレース後にも「スタートから60メートルぐらいまではよかったと思うのですけど、ちょっとストライドが伸びてしまったところがあった」と語っているようである。サニブラウンの中では、日本新のレースも完璧ではなかった。まだまだ伸びる要素がある。

サニブラウンの2016年からの自己ベストの推移を見ると、2016年10秒22、2017年10秒05、2018年10秒46、2019年9秒97。右足付け根を痛めて、まともにレースができなかった2018年を除けば、見事なまでに右肩上がりである。ケガも癒え、フロリダ大で学んだ走りを発揮できるようになったのは今年になってから。そう考えれば、彼の走りが磨かれていくのは、これからである。

今回の9秒97は追い風0.8メートルの中でだった。公認ぎりぎりの追い風2.0メートルまで吹けば、9秒9台前半をマークする力はすでにある。来年には9秒8台をマークする力をつけても不思議ではない。そうなれば、東京五輪でのメダル獲得も夢物語ではなくなってくる。

サニブラウンは6月下旬に福岡で開かれる日本選手権に出場予定。前日本記録保持者となった桐生祥秀も出場する。日本選手権では史上初の9秒台でのワンツーフィニッシュが見られるかもしれない。


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