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94回目の箱根を制するのはどこか 有力校、注目選手をさぐる(5)

2017 12/28 00:52きょういち
マラソン
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Photo by ChiccoDodiFC/Shutterstock.com

94回目の箱根を制するのはどこか 有力校、注目選手をさぐる(4)

 昨季の大学駅伝3冠ながら、今季はいまだ優勝がない青山学院大。軸となるのは田村和希、下田裕太の両エースだが、箱根4連覇には3年生の力は欠かせない。特に注目するのは、森田歩希、小野田勇次の2人だ。

 森田と小野田は昨年の全日本大学駅伝でともに区間賞を獲得(小野田は5区、森田は6区)。森田は大会の最優秀選手(MVP)に選ばれた。

 森田は中学時代から注目された選手である。茨城・御所ケ丘中時代に、5000メートルで14分38秒99の中学日本記録(当時)を樹立した。その後、茨城の竜ケ崎一高へ進学。だが、高校時代は中学時代ほどには結果を残せなかった。

 だが、青山学院大にきて、再び力を発揮し始めた。その特長は、エースで4年生の田村同様、駅伝を外さないところである。過去3度、3大駅伝に出場しているが、区間賞が1回、2位が1回、3位が1回と安定感があるのが売りだ。

 5000メートルの自己ベストは13分58秒18とチームのトップ10には入らないが、1万メートルは28分44秒62でチーム5番目の記録を持つ。決してずば抜けたスピードを持つわけではないが、ほかの青山学院大の選手にもあるように、ロードが強いタイプの選手だ。

 今回の箱根では、前回区間2位だった4区での起用になりそう。もしかしたら、エースの田村からたすきを受ける配置になるかもしれない。

 小野田は愛知の強豪、豊川高出身。5000メートルの自己ベストは13分46秒93でチーム2位だが、1万メートルは29分59秒31で、どちらかと言えば遅い方である。

 小野田の特長は同学年の森田と同じように安定感にある。3大駅伝には過去5度走り、区間賞が1回、2位が3回、3位が1回である。今季は出雲で区間2位、全日本で3位。小野田も失敗しないのである。

 だが、小野田の特長はその安定性以外のところにもある。その部分が彼の本当の持ち味である。

 小野田は箱根の6区、山下りのスペシャリストなのである。

 山上りの5区とまでは言わないが、下りの6区も走るのが難しい区間である。20・8キロで800メートル以上を駆け下りる。いかにブレーキをかけずに走れるかが問われるし、ブレーキをかけなさすぎるとカーブで転倒することもあり得る。下りだから、膝や膝上の筋肉への負担もかかるが、日本のほかのレースでここまで激しく、長く下るレースはなかなかない。だから、育てるのが難しい。

 上りではあるが、ここ10年あまりは、「山の神」と称された選手が3人も生まれ(順天堂大・今井正人、東洋大・柏原竜二、青山学院大・神野大地)、その山の神を擁したチームが優勝していることから分かるように、タイム差が最も出る山を制することが箱根を制する図式になっている。

 その意味では、小野田という下りのスペシャリストがいるのは大きい。

 3年生には、前回の箱根1区4位の梶谷瑠哉や、今季力を伸ばしている橋詰大慧もいる。あとは、原晋監督の腕の見せどころだろう。

箱根のジンクスは

 今や大学駅伝界の顔となった原監督は、名門の広島・世羅高出身。大学は中京大に進み、中国電力へ就職した。今でこそ中国電力は強豪であるが、当時は違った。原監督が主将の時に全日本実業団駅伝に初出場。ただ、原監督はケガの影響もあり、20代で引退した後は営業マンなどで働いていた。そういった経歴があるから、指導者の中では異質な感じに映るのである。

 陸上の長距離選手にはストイックな自己管理が必要になる。あの細い体を見れば分かると思うが、大学ではどうしても選手を管理する方向に走ってしまう。

 だが、社会人経験が豊富な原監督は締め付けすぎず、緩ませすぎずの「手綱さばき」がうまい。締め付け一辺倒ではないから、雰囲気もよくなり、いい選手が高校から入るようになる。

 レース前には今や恒例となった原監督のコメントもある。いつも「○○大作戦」と銘打つのだが、今季は出雲で「青山祭大作戦」、全日本で「陸王大作戦」を掲げたものの、いずれも不発に終わった。今回の箱根はいかなる大作戦をぶちまけるのだろうか。

 さすがに出雲、全日本と連続で優勝を逃し、原監督の表情も厳しさを増しているが、やはり選手層の厚さ、ロードや駅伝への強さ、そして何より一区間20キロを走るという箱根への適性は、今季も青山学院大が一番ではないかと思われる。

 箱根のジンクスも青山学院大を味方する。箱根の連覇記録は中央大の6、日体大の5、日大、順天堂大、駒沢大の4があるが、3という連覇記録はない。これは、3連覇したチームは全て4連覇以上に記録を伸ばしているということだ。青山学院大は現在、3連覇中。ジンクス通りいけば、今回も青山学院大が勝つことになる。


(続く)