「スポーツ × AI × データ解析でスポーツの観方を変える」

93年ぶり快挙の21歳・田中希実、今後の軸足は1500mか5000mか

2021 8/11 06:00鰐淵恭市
田中希実,Ⓒゲッティイメージズ
このエントリーをはてなブックマークに追加

Ⓒゲッティイメージズ

トラックでは25年ぶり入賞、中距離では人見絹枝以来93年ぶり!

日本の陸上女子中距離界の歴史に、21歳が新たな1ページを刻んだ。東京五輪女子1500メートルで田中希実(豊田自動織機TC)が8位入賞を果たした。「日本選手初」「○年ぶり」を連発した田中。その偉業を振り返る。

女子1500メートルで日本選手が五輪に出場したのは、今回の田中と卜部蘭(積水化学)の2人が初めてである。中距離(800メートル、1500メートル)は日本女子が最も世界との差が大きい種目だった。五輪のスタートラインに立つだけでも快挙だった。

そして、田中の記録だ。予選で4分2秒33、準決勝で日本選手初の3分台となる3分59秒19と、いずれも日本新をマークした。田中がこの種目で日本新をマークしたのは2020年で4分5秒27。中距離にも関わらず、1年で6秒以上タイムを縮めている。

そもそも、田中が更新するまでの日本記録は同郷(兵庫県小野市)の小林祐梨子が持っていた4分7秒86で、それを14年ぶりに塗り替える快挙だった。田中はこの1年で世界レベルの記録が出せる選手に成長した。

決勝では日本記録を更新できなかったものの、タイムは3分59秒95で、2レース続けて3分台をマークした。田中も「4分を2回切れたのは、すごく価値のあること」と語り、自身の評価が高いことをうかがわせる。

8位までが入賞となる中、田中はぎりぎり入賞に滑り込んだが、これも快挙だった。

田中がレースを終えた時点で、日本女子のトラック種目での入賞は1996年アトランタ五輪(5000メートル4位の志水見千子ら)以来25年ぶりのことだった。

さらに、中距離での入賞は、1928年アムステルダム五輪女子800メートルで銀メダルを獲得した人見絹枝以来。実に93年ぶりの快挙でもあった。

とにかく、快挙づくしの走りだったのだ。田中もこう語っている。「今回の(1500mの)3つのレースで、今までの常識を覆すというか、自分のなかの常識を覆すことができた。こんなに早く(4分を)切ることができると思っていなかったので、本当にオリンピックという舞台であったことが大きかったかなと思う」

大学の陸上部にも実業団にも所属しない

田中は走り以外でも、日本陸上界の歴史を作ってきた選手と言える。

同志社大学スポーツ健康科学部の大学4年生でありながら、大学の陸上部には所属していない。所属先である豊田自動織機TC(トラッククラブ)は実業団チームではなく、元陸上選手の父親の指導を受ける。

よく似たパターンとしては、前日本記録保持者の小林の例がある。小林は岡山大学に通いながら、実業団の豊田自動織機に所属したが、大学生での実業団登録が認められず、実業団駅伝には出られなかった。

田中の場合はトラッククラブにしたことで、最初から実業団の選手にはならなかった。故郷の先輩をまねしつつも、進化させている。

スプリント力を高めるのか、スタミナをつけるのか

田中が1500メートルを主戦場にして戦い続けるのか、軸を5000メートルに移していくのかが、今後の興味である。

東京五輪では、どちらかというと、5000メートルに照準を合わせていたのだという。予選では自己ベストで日本歴代4位となる14分59秒93をマークしながらも決勝に進めなかった。この辺りをどう判断するのか。

1500メートル決勝では世界のトップのスパートにはついていけなかったものの、後半途中まではメダルを狙える位置をキープし続けた。

スプリント力を高め、1500メートルを極めていくのか、スタミナをつけながら、1500メートルのスピードをいかして5000メートルで勝負するのか。練習後の気持ちの切り替えは読書で、児童書を好むという21歳の判断が注目される。

【関連記事】
東京五輪を狙う女子陸上界の「異端児」田中希実の可能性
ママさんハードラー寺田明日香が夢の五輪へ、引退、出産、ラグビー転向…高校3冠から14年の回り道
嫌いなことで日本記録を樹立した「猛獣」新谷仁美が調教師と挑む2度目の五輪