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陸上男子100メートル五輪代表は「6強」の争い、3枠に残るのは?

2021 6/23 06:00鰐淵恭市
2018年アジア大会に出場した山縣亮太、多田修平、桐生祥秀、ケンブリッジ 飛鳥Ⓒゲッティイメージズ

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6月24日から大阪・長居で日本選手権

東京五輪の陸上日本代表を決める日本選手権が6月24日に大阪・ヤンマースタジアム長居で開幕する。

注目は史上まれにみる激戦となっている男子100メートル。これまでの実績から「6強」の争いとみられ、そのうち10秒05の五輪参加標準記録突破者は5人、自己ベストが9秒台の選手は4人いる。一方で五輪出場枠は「3」。日本最速、そして、五輪切符を手にするのは誰だ。

6強の成績


「6強」は五輪参加標準記録を突破している山縣亮太(セイコー)、サニブラウン・ハキーム(タンブルウィードTC)、小池祐貴(住友電工)、桐生祥秀(日本生命)、多田修平(住友電工)の5人に加え、2016年リオ五輪代表のケンブリッジ飛鳥(ナイキ)を入れた6人になる。彼らの説明をする前に、まずは陸上の五輪代表選出方法をおさらいしたい。

最も優先順位の高い選考基準は、参加標準記録突破者が日本選手権で3位以内に入ること。これをクリアすれば代表に即内定する。現在、参加標準記録を突破している5人は、3位以内に入れば代表権を得ることができる。日本選手権で参加標準記録を突破しても同様の扱いだ。

選考基準で次に優先されるのは、日本選手権3位以内で、各大会の結果を元に算出したワールドランキングで五輪参加資格を得た選手が選ばれる。ただ、現状ワールドランキングで選ばれそうな日本選手は見当たらず、五輪参加標準突破者による代表争いという構図が濃厚だ。

絶好調の山縣燎太、ポテンシャルのサニブラウン・ハキームは順当に代表入りか

優勝候補の筆頭は、6月6日の布勢スプリントで、サニブラウンの持つ日本記録を0秒02更新する9秒95をマークした山縣ではないだろうか。

過去2年はケガで思うような結果が出なかったが、五輪直前になって一気に復活を遂げた。山縣の強さは本人もこだわる「再現力」。調子のばらつきが少なく、いつもアベレージの高い走りを見せることにある。スタートダッシュが圧倒的に速く、ほかの選手の走りに左右されないことが大きいだろう。

そして、大一番での強さ。これまで12年ロンドン五輪で10秒07、16年リオ五輪で10秒05と、当時の自己ベストを大舞台で出してきた。気持ちのコントロールと調整力の高さは随一だ。

「記録を狙う気持ちを持ちつつ、3位以内に入ることが一番重要。代表権をとりにいく。簡単ではないが、自信を持って臨みたい」と意気込む。

ポテンシャルでナンバーワンは前日本記録保持者のサニブラウン。彼が普通の調子なら、山縣とともに代表入りに最も近い存在だと言える。スタートは得手とはしないが、先行されても焦らず、持ち前の後半の爆発力で一気に抜き去ることができる。後半の伸びで言えば、サニブラウンに勝てる日本選手はいないだろう。

ただ、サニブラウンの調子については未知数の部分がある。1年7カ月ぶりの出場となった5月のレースでは追い風参考でも10秒25と記録はのびなかった。昨年から練習拠点をフロリダ大からタンブルウィードTCに移し、9秒77の自己ベストを持つトレイボン・ブロメル(米国)らとトレーニングを積む22歳は、日本選手権が今季2戦目。「いかにほかの選手にとらわれずに自分の走りができるかを試せる機会だと思います」と話している。

多田修平のダッシュ力に桐生祥秀の精神力が勝てるか

山縣、サニブラウンに、潜在能力や実績で引けをとらないのは桐生になる。順当にいけば、この3人が代表になると言いたいが、ここにきて3人目はこのスプリンターになるかもしれないと思わせる選手がいる。山縣が日本新を出した布勢スプリントで、自己ベストを0秒06縮める10秒01をマークした多田だ。

2017年世界選手権で準決勝まで進んだ経験を持つ多田の特長は、山縣をも上回るダッシュ力。布勢スプリントでも、60メートル付近まで山縣に先行していた。スタートの速い選手が周囲の走りに影響されにくいことは山縣のところで説明したが、多田にもそれは当てはまる。4年ぶりの自己ベスト更新し、勢いに乗る多田は「今年こそは優勝したい」と力を込める。

この多田の好調のあおりを受けるかもしれないのが、桐生だ。

通常の力通りなら、山縣やサニブラウンにも負けない桐生には弱点がある。多田、山縣のようなダッシュ型の選手に先行されると、走りが硬くなって力を出し切れないことだ。4位に終わり、世界選手権代表入りを逃した2017年日本選手権もそうだった。この弱点は、大一番で弱いと言われる精神面の弱さと表裏一体のものであるかもしれない。

ただ、吹っ切れて、ポテンシャル全開の時の走りは圧巻である。2016年リオ五輪の400メートルリレーの走りはまさにそうだった。布勢スプリントでは予選のみの出場で、追い風参考ではあったものの10秒01で走るなど、調子は悪くない。1児の父親になった25歳が代表入りするには、持ち味の暴れるような走りが必要だ。

上がってこない小池祐貴とケンブリッジ飛鳥

今大会は「6強」の争いと言われるが、これまで紹介した4人と比較すると、残りの2人はいささか厳しい状態にある。

桐生とならび、日本歴代3位の9秒98を持つ小池だが、昨年、今年と10秒0台で走っていない。布勢スプリントでは山縣、多田の直接対決にも敗れ、2位の多田とは0秒12の大差をつけられて3位だった。好調時のキレがなく、このままでは3枠に入るのは厳しい。

同様に厳しいのが、2016年リオ五輪に出場しているケンブリッジ飛鳥(ナイキ)だ、昨年は自己ベストを10秒03にまで縮めたが、五輪参加標準記録対象外期間のレースだったため、まだ標準記録を突破できていない。

さらに、今季はまだいいレースができていない。今年のベストは10秒28。5月の五輪テスト大会は左足の違和感で決勝を欠場した。その後の復調具合がわからないが、このままでは2大会連続の100メートルの代表入りは難しいと言わざるを得ない。持ち前の勝負強さを土壇場で発揮できるか。

雌雄を決する男子100メートル決勝は、6月25日午後8時半にスタート予定だ。

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