13秒16はリオ五輪銀に相当の好タイム
今季限りで引退し、東京五輪を集大成として歯科医を目指す陸上男子110メートル障害の金井大旺(ミズノ)が4月29日、織田記念国際(エディオンスタジアム広島)で13秒16の日本新記録を樹立した。
追い風1.7メートルの好条件下、高山峻野(ゼンリン)が持っていた2019年の日本記録を0秒09縮め、日本歴代2位だった自己記録を0秒11更新して東京五輪参加標準記録(13秒32)を突破。条件が異なるとはいえ、13秒16は2016年リオデジャネイロ五輪で銀メダル、2019年世界選手権(ドーハ)で銅メダルに相当する好タイムだ。
五輪、世界選手権とも過去に日本選手の決勝進出は出ていない種目。最初で最後の大舞台、東京五輪で日本人初のファイナル進出の目標、さらにメダルという夢も現実味を帯びてきた。
実家が歯科医、函館ラサール高出身の25歳
北海道函館市生まれで小学校3年から陸上を始めた25歳。函館の実家が歯科医で、進学校の函館ラサール高出身の金井も五輪を一区切りに歯科医を目指すためスパイクを脱ぐと決めている。
だからこそ、冬場のトレーニングでウエートを週4回に増やして極限まで追い込んで筋力アップを徹底した。体重は1キロほど増加。179センチ、73キロとスリムな体格ながら、世界も一目置く卓越したハードリング技術が筋力強化でさらに磨かれた。
スタートから飛び出すと、上体が浮かずに低い姿勢で入れた1、2台目で早々と体一つ前に出て、さらに加速。一歩ずつの出力が上がり、インターバル間の刻みも速くなったことが勢いを生み、10台目までスピードは鈍らなかった。2位に0秒17の大差をつけてゴールし、記録を確認すると、普段はポーカーフェースのクールな男にもさすがに笑みがこぼれた。
福岡堅樹は医師の道を優先、五輪は最後の花道と決意
もともと高校卒業後は歯科大へ進む予定だったが、全国高校総体で不本意な結果だったこともあり、競技継続を決意した。法大進学で支持したのが苅部俊二氏。新たな知識を吸収し、強い探究心で日本のトップアスリートに駆け上がってきた。
2018年に13秒36の日本記録(当時)を樹立。しかし、翌年はタイムを落としたことで走力アップに取り組んだ。自ら動画で動きをチェックしながら、踏み切る位置やパワーの伝え方も変化を加え、高めた走力にハードリング技術がかみ合うようになってきた。
ラグビー7人制の福岡堅樹は医師の道を優先し、五輪を断念。金井は競技を継続する今も受験に備え、競技の間は勉強中の身だ。東京五輪の機運が盛り上がらない中でも、競技人生を完全燃焼させる覚悟で日々鍛練を積んでいる。
東京五輪は最後の花道。6月下旬の日本選手権で3位に入れば日本代表に決まる立場となった。今後は日本選手権と今夏の東京五輪にピークを合わせるつもりだ。
世界陸上では400メートル障害の為末大、200メートルで末続慎吾がメダルを手にしている。金井も全盛期にある今の走りを再現できれば、日本ハードル界の歴史が動く。
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