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父とのタッグで復調の大坂なおみ 進化のために必要なことは?

2019 10/8 06:00橘ナオヤ
女子テニスプレーヤーの大坂なおみⒸゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

復活の要因は父レオナルド

東レ・パンパシフィック選手権に引き続き、中国オープンでも優勝と復活を印象付けた躍進の大坂なおみ。2大会連続優勝は日本人女子シングルスでは初の快挙。また上位8人にしか許されないWTAファイナルズ出場権確定させ、WTAランキングも3位に上げた。

今年に入り、半年あまりで2度もコーチを変えた大坂。2月にサーシャ・バインとの師弟関係を終えた。その後に契約したジャーメイン・ジェンキンスだったが、解任したとの発表が9月13日にあった。ディフェンディングチャンピオンとして臨んだ全米オープンを4回戦敗退で終えた矢先のことだった。

現在は父レオナルド・フランソワが暫定コーチを務めている。これまでも大坂陣営に姿を見せており、中国オープン決勝でも1セットを落として意気消沈する大坂にやさしく声をかける姿がとらえられている。

テニスでは珍しくない短期間でのコーチ交代。今回のように調子が上向くこともあるため「有効な手段」とも言えるが、今回の交代劇はあくまでも暫定的。アジアシーズンでの好調も来季に向けての好材料になるものの、彼女が進化したとは言い難い。

感情型なのは変わらず

大坂のテニスの実力は申し分ないが、それを引き出すためのメンタルコントロールが問題だ。トップに立つには、フィットネスとメンタルのバランスが取れた選手の方が有利だからだ。感情を表に出す大坂のような選手にとっては、なおさら精神面の安定がパフォーマンスを左右する。過去にもネガティブな気持ちに支配され、自身で試合を壊してしまったことが何度もあった。

しかし、感情的になることは悪いことではない。マリア・シャラポワやセリーナ・ウィリアムズらも怒りや喜びといった感情を自分でコントロールし、「強さ」というエネルギーに変えた。大坂も今回、ある程度のコントロールができたため、苦手としていたキャロライン・ウォズニアッキやアシュリー・バーティを相手に勝利を収め、2大会連続優勝できたのだろう。

では、大坂がセリーナのように完全に感情をコントロールできるようになったのかというと「NO」だろう。父エドワードによる舵取りがあってこそ、と見るのが妥当だ。

セルフコントロールできないツケ

昨シーズンから今季の全豪まで快進撃を続けた大坂。それには、バインによるメンタル面のコーチングが大きく影響していた。練習のみならず試合中にもメンタル面のコーチングを施すことで、弱音を吐く大坂の心の火を消さずにとどめる、そんな場面がいくつも見られた。

感情の起伏を落ち着かせる役をバインに任せきりだった大坂は、自分でコントロールする術を身に付けていない。そして、ジェンキンスはテニスコーチとしては良いが、バインほどメンタル面の指導に長けていない。ジェンキンスのもとでパフォーマンスが上向かず、タイトルがひとつも取れなかったのはそのためだろう。大坂はバインのもとを離れる前に、メンタルコントロールを自分のものにすべきだったのではないか。

父の舵取りでアジアシーズンは成功

ジェンキンスを解任してからは、日本と中国で勝利。この復活は、父が彼女のテニスを知り、彼女が求めるスタンスを理解してくれているからだろう。

バインとのコーチ関係を解消した2月、WTAに大坂はコーチについて求める条件を語っている。それは①前向きな気持ちの持ち主であること、②直接物事を言ってくれること、そして③話すことに躊躇しないことだ。

17年冬にバインを迎えるまで、大坂のコーチを務めていたのは誰であろう父レオナルドだ。元コーチでもある父は、娘のテニスを理解し、彼女が必要とするスタンスでポジティブな言葉をかけることができる。

また、シーズン終盤戦で暫定コーチを迎える場合は、更なるレベルアップを狙って新コーチを選ぶ場合と異なる役割もある。それは、シーズンを適切な形で締めくくるということ。大坂の場合、それは順位を落とさずにWTAファイナルズ出場を果たすことだった。そのため、彼女に適切な距離感と方法でアプローチできる人間が適任となる。父レオナルドはその資格を満たしていた。

来季“進化”するため、セルフコントロール習得が不可欠

テニス未経験のレオナルドが、バインやジェンキンス以上にテニスの技術やフィジカル面のコーチングに長けているかはわからない。だが、大坂の感情のコントロールができることは、この2大会で証明された。しかし、彼はステップアップするためのコーチではない。それは、更に上のレベルに進むため、17年冬にバインと契約したことからも明らかだ。

来シーズン、大坂が進化を目指すなら、新コーチを招聘するだろう。バインやレオナルドのように舵取り役を担える人材が望ましいが、メンタル面をコーチに任せきりにするままでは女王の座に居続けることは難しい。このことは彼女自身がよくわかっているはずだ。

確かに感情のコントロールは簡単なことではない。だが自身でコントロールする術を身に付けなければ、群雄割拠の女子テニス界で抜き出ることは難しいだろう。