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強すぎる青森山田の弊害、高校サッカー界は「無敵の1強」より底辺拡大を

2021 11/14 11:00中島雅淑
イメージ画像,Ⓒromakoma/Shutterstock.com
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25年連続の選手権出場

全国高校サッカー選手権大会青森県予選決勝で青森山田が野辺地西を5-1で下し、難なく25年連続の全国切符を手にした。これで四半世紀もの間、県内の覇権を牛耳っていることになる。この「独裁政権」には様々な懸念が見え隠れしていないだろうか。

今回、同校は高円宮杯U-18プレミアリーグと日程が重なったため、「スーパーシード」として予選準決勝から参戦。その準決勝で弘前中央になんと22-0で圧勝した。

様々な考え方はあるだろうが、高校サッカーの存在意義はプロ選手を輩出することだけではないので、1つの高校を特別扱い(わずか2勝すれば全国大会出場)する状況下に置くことには賛否が分かれるところだ。

青森県では突出した力を持つ同校が存在するため、選手権の出場枠を勝ち得るために有力な選手たちが県外の高校へ進学するという流れが出来つつあるという。地域密着を基本とする部活動の根幹を揺るがすような事態に陥っており、大会運営を含め、県サッカー協会のやりくりにも疑問は残る。

高校サッカーはあくまで教育の一環であるということを考えれば「大義のために苦労を伴う」といったことや「楽して結果は得られない」ということを学ぶことも重要なはず。強化に力を入れる学校と、頂点を目指す指導者や選手たちの努力は否定されるべきではないが、現在の状況が青森県、ひいては日本のサッカー界のためにはなっているとは思えない。

長崎サッカーの裾野を広げた小嶺忠敏氏

ここで参考にしたいのは、かつて長崎県内で無類の強さを誇り、選手権最多タイ6度の優勝を誇る名門・国見高校だ。過酷なトレーニングや数々の卒業生がプロ入りしていることでも知られるが、現在は県サッカー協会会長を務める小嶺忠敏氏の存在なしに長崎のサッカーの歴史を語ることはできないだろう。

自身も長崎県出身の同氏は、母校でもある島原商業から監督キャリアをスタートさせた。そして、国見高校へ活躍の場を移すと全国大会の常連に。総監督という立場になってもその影響力は絶大で、通算6度の選手権制覇を果たした。

小峰氏が考えたのは地元長崎県全体のことである。様々な事情やタイミングもあっただろうが、無類の強さを誇る国見を離れ、長崎総科大付属高校という無名校で新たなチャレンジを始めることになった。

前評判を覆し第91回高校選手権に初出場を果たすと、現在までに通算7度の全国大会の舞台を踏んでいる。

「プロ養成学校」の使命?

高校サッカーは3年間で必ず選手が卒業して入れ替わっていくという、ある意味特殊な環境だ。いつまでも同じ強さを維持することは並大抵のことではない。指導者の力が成功を収めるための大きなポイントだ。小峰氏が別の高校を指導するチャレンジをしたことにより、長崎の勢力図は変わっていっている。

とはいえ、かつての盟主、国見の権威が堕ちてしまったわけではない。近年は全国大会出場こそないが、県大会出場まであと一歩というところまで来ており、プロへの内定者も輩出している。こうした裾野が広がることこそが、地域、ひいては日本サッカー界全体の強化へとつながっていくのだ。

サッカー強豪校といえどすべての選手がプロになれるわけではなく、目指す進路も違う。どこからどんなスター候補性が出現するかわからないというのは過去の事例が証明している。

多くの若者たちにチャンスを与えるためにも、特定の学校だけに戦力が偏る状況は改めた方がいいように思う。申し分のない練習環境、全国から選手をスカウトし寮も完備、指揮するのは名将。そんな私立高校が栄華を極めるのは当然だろう。

全国から選手が集まってくるのもカリスマ性を持った指導者がチームを率いているからだ。高校生年代では指導者の影響力は非常に大きい。現在、青森山田を率いるのは就任して27年になる黒田剛監督。日本サッカー協会公認S級ライセンスの保持者でもある。

確かに「プロ養成学校」と化している同校の門を叩いた以上、教え子を完成品として市場に出すのが同校と同監督の使命のひとつかもしれない。ただ、あまりに環境が整いすぎている現在の状況が本当の意味で選手やサッカー界のためになっているか、と考えるとどうも腑に落ちない。

市立船橋からJクラブ監督を歴任した布啓一郎氏

黒田監督や学校の内部事情までは分からないが、県全体のレベルアップという視点に立って考えたとき、今の状態は決して望ましいとは言えないだろう。

今の青森山田と同じように幾多の栄冠を勝ち取り、プロにも多くの卒業生を送り込んでいる市立船橋を長きにわたって指導した布啓一郎氏は同校での指揮の後、若年層の日本代表の監督を経て、Jクラブの監督を歴任した。しかし、監督の交代により市船の競争力が落ちることはなく、今も千葉県は高いレベルで争いが続いている。

これほどまでに実績を出している黒田監督には次のステージが用意されるべきだ。実際、若年層の代表監督やJクラブのオファーがあったとしても驚けない。いずれにしても、青森県内の均衡が保たれる方が健全ではないだろうか。

今大会で100回目を迎える高校サッカー選手権。次の100年に向け、サッカー界のさらなる発展に向け、「無敵の1強」をつくり上げるのではなく、底辺を広げる方が大切ではないか。予選で敗退したチームはすでに101回大会に向けて新チームを発足させている。

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