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白鴎大学ラミレス・レンソ 指名漏れのくやしさ糧に2年後「同じ舞台へ」

2019 11/17 17:00永田遼太郎
野球_白鴎大学_ラミレス・レンソ選手ⒸSPAIA
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ⒸSPAIA

攻守で光る"猛肩ラミレス"

遠投125m。厳しいと思われるタイミングからもバズーカのような"猛肩"でアウトにしてみせる。

白鴎大学のラミレス・レンソは、その肩の強さでスタンドをどよめかせる選手だ。

「自分は阪神に行った大山(悠輔)よりも能力が高いと思っています。あの肩は大山にはないですもん。大山の肩がいくら良いと言ったって、ラミの方が絶対いい。やっぱりモノが違います」

白鴎大・黒宮寿幸監督は、2017年にドラフト1位で阪神へ送り出した、かつての教え子を引き合いに出して太鼓判を推す。

ボテボテのゴロや、三塁線を襲う痛烈な打球にも反応して、幾度もチームを救った。これほどの三塁手が味方にいれば投手も気楽に放れるのではないかと感じてしまうほどだ。

特筆すべきは守備だけではない。攻撃面でも十分アピールできる能力を持つ。身長は173㎝とやや小柄だが、ツボにハマれば外野の頭を軽く超えて行く長打力も秘めている。今秋の関甲新学生野球のリーグ戦では4本塁打を放ってそれを証明。多くのアマチュア野球ファン、関係者からも、その行方が注目された。

しかし、2019年10月17日。運命のドラフト会議。ラミレス・レンソの名は、最後まで呼ばれることがなかった。プロの1軍の即戦力と期待するにはまだ及ばないと、各編成陣から判断されたのだ。

一言で言えばまだ雑

ふと昨年秋、黒宮監督がラミレスについて、こう話していたのを思い出した。

「ただ、本当にこれからですよね。あの子はもっともっと練習をしなければいけないし、きめの細かいところをもっともっと詰めていかなきゃいけない。そこの土俵に乗せるまでの作業をここまではしてきました」

技術面でいえば、ポテンシャルが高いがゆえに基本を疎かにする節も見られたという。

黒宮監督がこう続ける。

「一言で言えばまだ雑なんですね。日本でいうともっと腰を割って、膝を落として、グラブを下から出すという指導があるじゃないですか。だけど彼の場合は『グラブの中に入れば』って考えがどこかにあると思うんです」

中南米出身のメジャーリーガーのプレーに憧れ、目指す目標が高い分だけ、上を見過ぎたきらいがあった。

「アメリカの野球だって基本はしっかりしているし、見えないところで基本的な指導は徹底していると思うんです。動画サイトとかメディアではひょいと捕って、ひょいと投げるってプレーが取り上げられますが、アメリカのAAAよりもっと下のAA、Aなんかは徹底して基本を刷り込んでいると思うんですよね。ようやく彼もそういったものに気付き始めて、今、一生懸命、膝を割って、グラブを地面に付けてという練習をしている。そこに辿り着いたところなんです」

大学生活の集大成として臨んだ今秋の横浜市長杯(関東地区大学野球選手権大会)準々決勝の城西国際大戦では、0対0で進んだ8回表に三遊間寄りの緩いゴロを深追いして、ショートを守る保立凌と衝突。相手チームが均衡を破るきっかけを作った。

ゲームも終盤、チーム内に動揺が広がると、そこから味方野手が次々と失策を重ねて3失点。結局、これが致命傷となった。

黒宮監督が言う。「ああいうミスが出るってことはどこかでメンタル的な弱さがまだあるのかなあって、ところですよね」

二遊間も守れるラミレスと、2年生の中山誠吾をあえて三塁と一塁に配置し、一年半をかけて鉄壁の内野陣を構築してきた…はずだった。

しかし、勝負所で生まれた致命的なミス。

「せっかくいいチームになったなあと思ったんですけどもね。もう一回チームを作り直さなきゃいけないですね。出直しです」

やり場のない怒りをぐっと噛み殺して。黒宮監督は無理やりにでも視線を前へ向けた。

来春は社会人野球、2年後は「必ず」

打撃面でもまだ不安が残る。

大学4年時の成績を見てほしい。

2019年春 打率2割6分7厘
2019年秋 打率1割8分4厘

アピールの場となるはずの大学4年時の打率は低迷を続けた。前述の横浜市長杯(関東地区大学野球選手権大会)準々決勝でも、2三振を含む4打数0安打。4回裏の先制機も、ラミレスがショートゴロに倒れ、流れを自軍に引き寄せることが出来なかった。

ラミレスがこう振り返る。

「(調子は)悪い方じゃなかった。けれど色んな想いがあって、気持ち的にもごちゃごちゃだったというか、あまり余裕はなかったです」

"指名漏れ"から約2週間。気持ちの整理がつかなかったというのも正直な部分だろう。ならば白鴎大の主将として、せめて「大学日本一」の座だけは譲れないと、熱い気持ちを持って臨んだが、結局それが空回り。調子の波を引き起こした要因にもなった。

ラミレスの想いを代弁するかのように共に汗を流した大下誠一郎がこう言う。

「この一年、一番(チームのことを)考えて、一番苦労した人間だと思うので上出来ですよね。本当はもう少し(大学野球を)やりたかったんですけど、思い切りやって負けたので、しょうがないなって思います」

大下はそのリーダーシップを買われ、大学2年時に白鴎大の主将を務めた。黒宮監督によれば、チーム内の誰よりもラミレスの存在に一目置いていた選手。今秋は白鴎大で唯一、オリックスの育成6位として指名を受けたが、だからこそ2年後、「また同じ舞台で」とラミレスにエールを贈る気持ちもあるだろう。

ラミレス自身もこの1年の不振についてこう振り返る。

「ドラフト前は結果を出そう、出そうと、その想いが強過ぎて、空回りしてしまった部分があったんですけど、ドラフトが終ってから、多少荷が下りたというか正直、精神的にも楽になりました」

卒業後は栃木県小山市の社会人企業チーム・エイジェックに進む予定になっている。白鴎大OBも多く在籍する地元の企業チームで2年後のプロ入りを目指す。

「次こそはって気持ちはありますし、社会人で野球をやって2年後は『必ず』って」

そんなラミレスに、そして彼と同じようにプロや社会人野球に進んでいく4年生数名に向けて、黒宮監督も次の言葉で送り出す。

「大学野球はこれで終わりですけど、銘々は上でやるので引退って感じではないですよね。だから『お疲れさん』と言うよりも、今は叱ってやりたいって気持ちです。ここで『お疲れさん、良くやったよ』と言ってしまったら、プロに行って、社会に行って、いい思い出になってしまうじゃないですか。今日の試合は、けっしていい思い出ではないから。もう一回自分を作り直して、次のステージで、こういう試合にならないように頑張ってもらいたいと思っています」

厳しい言葉の中にどこか温かさを感じる師の言葉だった。