「スポーツ × AI × データ解析でスポーツの観方を変える」

グリーズマンを巡りバルサとアトレティコに新たな因縁

2019 7/23 15:00橘ナオヤ
バルセロナに移籍したアントワーヌ・グリーズマンⒸゲッティイメージズ
このエントリーをはてなブックマークに追加

Ⓒゲッティイメージズ

グリーズマンの移籍における2つの問題

7月12日、アトレティコ・マドリーのFWアントワーヌ・グリーズマンが、バルセロナに移籍した。今夏の移籍マーケットで、スペイン国内最大のニュースはこれでほぼ決まりだろう。FWリオネル・メッシ、FWルイス・スアレスとの強力で魅力的な3トップが実現するのは楽しみだ。だがこの移籍は穏便なものではく、クラブ間に禍根を残した。

この移籍には、大きな2つの問題がある。

ひとつは、違約金が発生する時期、もうひとつはバルサのグリーズマンへの接触はアトレティコへの敬意を欠くものだったことだ。

アトレティコは、バルサが優勝を争うシーズン佳境の時期にグリーズマンに接触したことを非難。さらに、選手とバルサとの合意形成が7月1日以前になされていたとし、7月以前に設定されていた違約金を支払うべきだと主張している。

グリーズマンのバルサ移籍の経緯

状況をおさらいする。グリーズマンのバルサ移籍は2017年、18年からささやかれていた。

17年の12月、バルサ幹部がグリーズマンの家族に不正に接触。これに対してアトレティコがFIFAに提訴する事態となり、移籍は先延ばしとなった。

その半年後の18年夏も移籍濃厚と言われたが、グリーズマンはバルサDFジェラール・ピケが代表を務めるコスモス・グループのメディアチームから、「アトレティコに残留する」というメッセージ動画を発信した。

2019年になって事態は再度一変する。グリーズマンとアトレティコの契約は2021年6月末まで残っていたが、5月14日、彼はクラブに退団の意向を伝えたのだ。

実際には3月にはバルサがグリーズマンに個人的に接触し、合意を取り付けていたと言われている。グリーズマンは退団意思を伝えた時点で移籍先については明言せず。バルサも契約を結ぶことは無かったが、選手とバルサの接触は明白だったとアトレティコは主張する。

その後、7月6日にアトレティコがクラブ公式声明を発表した。バルサによる3月時点での接触を非難するとともに、グリーズマンは現時点ではアトレティコの選手であるとして、プレシーズンの練習への参加を命じた。これに対してグリーズマンは練習参加を拒否、事態はますますこじれていく。そして12日、バルサはグリーズマンの移籍を発表した。 何故、退団の意向を伝えた時期と、バルサの移籍発表の間に約2カ月もの空白期間が発生したのか。この点がアトレティコに疑心を抱かせることとなった。

違約金額の見解の相違

2021年6月末までだったグリーズマンとアトレティコの契約には、契約解除金が設定されており、その額は7月1日までは2億ユーロ(約244億円)、7月1日以降は1億2000万ユーロ(約146億円)に引き下げられることになっていた。

バルサは7月12日時点でグリーズマンと契約を発表しており、移籍金は1億2000万ユーロだとしているが、アトレティコは同日これに対する声明を発表。3月時点で事実上の合意があったのは明白であり、その時点の違約金2億ユーロを支払うべきだとして、バルサの3月時点での接触を非難するとともに、FIFAに提訴する意向を示している。

違約金条項に発生時期の定めはなし

ここで欧州サッカーにおける移籍のルールをおさらいしよう。Aクラブに所属する選手Xと、Xが欲しいBクラブがあるとする。Xの移籍については、基本的にはAとBが交渉し合意に至らなければいけない。たとえ選手XとBクラブが合意に至っていても、所属クラブAが首を縦に振らなければ、移籍は不成立となるのだ。

ただし、クラブ間の合意が不要なケースがある。契約満了まで半年を切っている場合か、違約金を支払った場合だ。アトレティコとグリーズマンの契約は21年まであるため、今回は後者の問題となる。

違約金は契約解除金、移籍金とも言われる。違約金条項とは、契約時に合意の上で定められた額の違約金を支払えば、選手XかクラブBが契約を解除できるというものだ。違約金条項があれば、選手X個人、あるいは他クラブBが支払うことで、所属クラブAと交渉し合意を取り付けずとも移籍ができる。バルサとグリーズマンは、この違約金条項を用いて移籍を実現させた。

所属クラブに筋を通さないとトラブルも

違約金条項を用いる場合でも、所属クラブの了解を得ずに選手に直接接触することは禁じられているが、それは形骸化しており、現実的にはクラブ間で合意を取らずに選手に直接接触することが常態化している。とは言え、多くの場合は事前に所属クラブに選手と交渉することを伝える。要するに筋を通すわけだ。

だがバルサは、アトレティコに礼儀を通さずに個人交渉した。それも2017年の接触をFIFAに提訴され手を引いたにも関わらずだ。これが問題を深刻にしてしまった。 似た事例が過去にある。現リヴァプール(レッズ)のフィルジル・ファンダイクの移籍騒動だ。2017年、当時所属していたサウサンプトンの許可を得ず、レッズはファンダイクと直接交渉した。サウサンプトンは不正をFA(英国サッカー協会)に提訴。レッズは謝罪することになり、17年夏の移籍市場での移籍はとん挫した。

アトレティコとバルサの因縁に

アトレティコとグリーズマンとの契約は解除され、バルサとの新契約は結ばれたので移籍は成立している。アトレティコもこれを無効とはしていない。 だが今回の移籍騒動、とくに違約金を巡る争いはおさまりそうにない。

バルサは1億2000万ユーロの違約金を分割で支払うとの提案をしたが、アトレティコはこれを拒否。またグリーズマンもアトレティコ首脳陣の態度に反発を続けており、アトレティコがFIFAに提訴すれば相応の手段を講じると対立の姿勢を見せている。

17年12月に続き、今回も同じ選手を巡る対立が再燃した。レアル対バルサ、レアル対アトレティコほど険悪な間柄ではなかったアトレティコとバルサだが、これがこじれれば、新たなクラブ間の因縁となりかねない。