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プレミアリーグ最下位で緊急登板、今回の“ニンジン”はピザならぬハンバーガー
日本代表FW岡崎慎司が所属するレスター・シティをイングランドプレミアリーグ初優勝に導き、ミラクルレスターを演出したクラウディオ・ラニエリ（67歳）が、同リーグで最下位に低迷するフルハムの監督に就任することが発表された。
スラヴィシャ・ヨカノヴィッチ氏指揮の下、プレミア昇格を果たしたフルハムだが、12試合で31失点し勝利はわずかに1試合で勝点5という惨状だ。
団結し絶え間なく戦い無失点に抑える、レスター時代と同じアプローチを採用
就任に際しラニエリ新監督は、「失点が多い。イタリアでは、無失点に大きな意味がある。残留できるクオリティーはあるが、ファイティングスピリッツも必要。海賊の様に愚直に戦ってもらいたい」と述べ、イタリア伝来の1－0勝利の哲学を植え付ける意向を示している。「こうなっては、ピザでは十分でないから、もっといい物を約束したい。大きなハンバーガーをおごるよ」と続け、ご褒美もしっかり用意しておりラニエリ流は健在だ。
これは、レスターで行ったのと同じアプローチだ。レスターでは、無失点だったらピザをおごると選手達に約束した。イタリア人の指揮官らしいが、億単位の年俸をもらっている各国代表クラスの選手が、ピザ一枚のために本当に奮い立つのかという疑いを持つ者もいた。
2015－16シーズンに優勝したレスター・シティに、主要ブックメーカーが5000倍のオッズを付けたことからも分かるように、財力、過去の実績、チーム戦力は圧倒的に不利で、優勝は不可能だと思われていた。それをよそに、レスターは最後まで快進撃を続けた。その戦法こそ、まさに岡崎慎司のプレースタイルが象徴するような、泥臭く戦い続ける姿勢だった。
ピザというのは、ラニエリの心意気を目に見える形に表しただけで、選手達にとってピザの金額は問題ではなかった。ラテン系特有の陽気で人懐っこい人柄で、チェルシー時代には、采配が冴えないことから、いじくり過ぎて逆に悪化させてしまう下手な職人という意味の「ティンカーマン」というあだ名を付けられたが、怒るどころか逆に喜んで自ら使ってしまうほどノリがいい。
しかし難しいチャレンジは、ラニエリも承知の上だ。「レスターのことはおとぎ話で、もう忘れた。私はクレイジーだが、馬鹿ではない。フルハムは最下位で厳しい時にある。クラブ、選手、ファンが一体となって来たる戦いの備えをしたい。奇跡が起こるとは考えないことこそ重要だ」と、運命を自らつかみ取るハードワークを強調する。
イングランドサッカーのサポーターはクラブに対する姿勢が厳しく、歓声はすぐにブーイングに変わる。スタンドの心をつかむことが出来るかも鍵を握る。ラニエリは、フルハムと同じくロンドン南西部のチェルシーを指揮したこともあり、今でも当時の家を所有している。この地域にある家を手放さなかったという事実は、地元ファンを味方に付ける要素にもなる。
忘れがたき戦友の事故死を乗り越え、深み増す采配に注目
レスターのことを忘れると戒めるラニエリだが、実は絶対に忘れることができないことがある。足しげく試合に通い、レスター・シティが優勝したシーズンも、笑顔でチームをサポートし続けたヴィチャイ・スリヴァッダナプラバ会長（享年60歳）が、事故で急逝したのだ。
イギリスの航空事故調査局(AAIB) の調査結果によると、英国時間2018年10月27日午後8時37分、レスター・シティのキング・パワー・スタジアムのセンターサークルから上昇した5人を乗せたヘリコプターは、430フィート（約131メートル）から急降下を始め、ほぼ直立のままスタジアム隣の駐車場に墜落し、倒れる間もなく炎上した。
ブラックボックスのデータを解析したところ、操縦士のペダルコマンドが左を意図したのに反して、機体は右に振れていたといい、墜落の原因は機体の不具合だった。これを受け、全ての類似モデルのヘリコプターのテールローターシステムを点検するように通達が出ており、まさに不慮の死だった。
優勝時には、チームをタイ旅行に招待する太っ腹だった同会長について、ラニエリは「いつも笑顔でポジティブな姿勢で、勇気づけてくれた。控え室に来ると、とがめることは言わずに、いつも優しい言葉をかけてくれた。私の誕生日には、会長が大きなケーキを持って控室に来て、皆で歌を歌ってくれた」と回顧する。この2人のコンビあっての快挙だった。
人生の悲喜こもごもを経験し、白髪が目立ち老将の域に突入しているラニエリ。もう一度、偉業を成し遂げることができるか、一挙手一投足に注目が集まる。