復帰後先発2戦目は左SBで出場し、ブラジル代表を完封
アーセナル(イングランド1部)で右SBの定位置を掴んでいた冨安健洋を、怪我が襲ったのは1月20日のことだった。
そこから約3カ月。プレミアリーグ第35節、ウェストハム戦で復帰した冨安だったが、後半32分に足の違和感を訴え途中交代。出場が不安視されているなか迎えた第36節、リーズ・ユナイテッドとの試合で、冨安はなんと加入後初となる左SBの位置にいた。
この試合で与えられたタスクは、リーズ最大の武器を抑えることだった。右WGのブラジル代表・ラフィーニャ。バルセロナ(スペイン)やバイエルン・ミュンヘン(ドイツ)などが獲得を目指しているといわれるこの選手の特徴は、なんといってもドリブルだ。
抜群のスピードからカットインする彼を止めるのは非常に難しく、アーセナルのアルテタ監督はそれを対人守備に長けた冨安に託したのだった。
60分間プレーしたラフィーニャだったが、ドリブル成功数は0。完璧にタスクをこなすと同時に、先制点の場面では冨安が高い位置でプレスをかけ、ボールを後方に戻させたことが最終的に相手のミスへと繋がった。
アタッキングサードでのパス成功率は、驚異の100%。慣れない位置でも見事に監督の期待に応え、アーセナルの勝ち点3獲得に貢献してみせた。
この勝利で4位アーセナルは、5位トッテナム・ホットスパーズとの勝ち点差を4に。その後、12日に行われた延期分の第22節、両者が対決したノースロンドン・ダービーはアーセナルに退場者が出たこともありトッテナムが3-0で完勝したが、前節の貯金が効いてアーセナルが4位を守っている。
スピードでも高さでもない、冨安最大の武器
リーズとの試合で自らの価値を改めて示した冨安は、目の肥えたイングランドのサッカーファンをも唸らせている。右SBでの活躍ですでに対人守備、スピード、空中戦の強さとDFとして必要な能力を備えていることはわかっていても、慣れない左SBでここまでのプレーをするとは考えていなかったのだろう。
だが、アビスパ福岡のU-18に所属していた頃から現在までのポジション遍歴を見ると、納得できるのではないか。アビスパ福岡のU-18から昇格した際の主戦場はボランチ。プロ入りしてから主に4バックのCBへと仕事場を変えた。
また初の海外でのプレーとなったシント=トロイデン(ベルギー)では、3バックのCBも経験。続いて所属したボローニャ(イタリア)では、主戦場を右SBに移す。アーセナルでもこの位置でのプレーが多いが、見比べてみると確実に守備能力が向上している。そしてリーズ戦で見せた左SBでの安定感あるプレーは必然と言えるだろう。
2019年から主力に定着した日本代表では、常にCBとして安定したプレーを続けている。どの位置でも求められていることを理解し、冷静に対応してみせるサッカーIQの高さこそが冨安の最大の武器なのだ。
冨安がステップアップを焦らないであろう理由
昨今のサッカーでは、SBの重要性が高まっている。ボールの逃げ場所になりやすいこのポジションの質が、攻守の質に直結するようになっている。だからこそミスが極めて少なく、プレーの精度が高い冨安の評価はより高くなり、多くのクラブが動向を注視しているようだ。
だがおそらく、冨安は早期の移籍は考えていないのではないか。これに関しても、これまでの足跡を振り返ってみるとわかりやすい。アビスパ福岡ではJ2リーグに降格しても1年間プレーし、1年目から移籍が噂されたボローニャには丸2年所属した。
クラブの選択も思い切った挑戦をするのではなく、一歩一歩ステップアップ。移籍し、求められるものを理解し、試合に出場して成長し、そして移籍する。この循環を繰り返すことで、何人もの日本人選手が所属しながら誰も成し遂げられなかったアーセナルでのレギュラーを手にしたのだ。
だからこそ、メガクラブへの移籍のチャンスがあっても、冨安はきっと焦らない。アーセナルで現状への感謝を忘れず数字を残し、自らの成長を実感して初めて、次のことを考えるはずだ。
アビスパ福岡で10代にして「おじいちゃん」と呼ばれたほどの落ち着きは、自らが積み上げた自信があってこそ。23歳にしてアーセナルの中心選手という、大きな夢をみせてくれている冨安健洋。活躍すればするほど報道が加熱するのは世の常だが、どういったクラブ名が挙がっても彼は慌てることなく、じっくりと、「その時」を見極めるに違いない。
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