「スポーツ × AI × データ解析でスポーツの観方を変える」

本田圭佑は特異な例 ジダンにもあったライセンス制度に起因する矛盾

2019 1/24 15:00Takuya Nagata
本田圭佑,Ⓒゲッティイメージズ
このエントリーをはてなブックマークに追加

欧州でも日本と同じ「無免許指導」問題が発生

前回、日本サッカー界で起こったライセンス制度に起因する矛盾について取り上げたが、これは世界的に普及しているシステムだ。211の国と地域のサッカー協会が加盟する巨大な官僚組織FIFA(国際サッカー連盟)の指針に従い、日本サッカー協会はライセンス制度を運用している。海外でも今回、日本代表で起こったことと同じ問題が発生している。

レアル・マドリーのジダンが3か月資格停止でフランスに帰国

現在は、指導者として押しも押されぬ名声を誇る元フランス代表の司令塔ジネディーヌ・ジダン。彼は、2013年当時カルロ・アンチェロッティ監督の指揮するレアル・マドリーでアシスタントコーチとしてベンチ入りしていた。

そこにいるだけでスター選手たちの背筋が伸びると高い評価を得て、その後2軍に相当するレアル・マドリード・カスティージャのコーチを務めたが、必須のレベル3ライセンスがないにもかかわらず、事実上監督として振る舞っていると指摘され、監督登録されていたサンチアゴ・サンチェス共々、3か月の資格停止処分を受けた。

当然ながらこの実態は、チーム内では全く問題視されていなかったが、スペインサッカー連盟(RFEF)に通報があり、大会実行委員会のフランシスコ・ルビオは、規定に従い厳格な処分を下した。

処分された当時、不満を述べたジダンだが、仕方なくライセンス取得のためにフランスに帰国した。その後、レアル・マドリーのトップチームの指揮官として華々しい成果を出したのは、誰もが知るところだが、これだけ有能な人材のキャリアに3か月の空白期間が生まれたことは、本当にサッカー界のためになったのか疑問が残る。

グローバルなはずのサッカーに、ライセンスという高い国境の壁

ジダンがフランスで取得したライセンスはそのままスペインでも使用できる。現在、欧州サッカー連盟(UEFA)は、欧州で統一基準のライセンスシステムを有している。欧州のUEFAプロライセンスは、日本サッカー協会の最高位ライセンスS級に該当する。暫定監督として一時的にライセンスなしで指揮することもできるが、長期的に監督を務めるためには必須となる。

つまり、Jリーグで監督を務める外国籍指揮官はUEFAプロライセンスを取得していれば、そのまま日本の資格は必要とせずに指揮することができる。一方で、何年もかけて大変な思いをして取得した日本のS級ライセンスは、日本の指導者が欧州で監督を務めたくても、受け付けてもらえない。

UEFAプロライセンスを取得するには、何年もかけて欧州で行われるカリキュラムを受講し、合格しなければならない。また日本協会のライセンス同様、取得後も講習に参加し更新する必要がある。つまり、その領域に住んでいない人が取得するのは、相当の時間と費用を投入する必要があり、極めてハードルが高くなっている。

グローバルな言語であるサッカーは、FIFAにより世界的な組織になっているはずだが、ライセンスは必ずしもグローバルになっておらず、この様な障壁が存在する。サッカーのライセンス制度は、近年に見る英国のEU離脱方針(ブレグジット)や保守的な入国管理と保護貿易を推進する米国第一主義のような、排他的な要素が一部にあると言わざるを得ない。

ライセンスを取得したからと言って、強豪クラブの監督になるのは簡単なことではない。その判断は各クラブに委ね、ライセンス制度の国境の敷居を下げ、国際的な交流を促すべきだ。

カンボジア代表の本田圭佑は特異な例、無免許で事実上の監督

ライセンスについて非常に特異なケースが、カンボジア代表チームの本田圭佑だ。オーストラリアリーグのメルボルン・ビクトリーFCで現役選手を続ける傍ら、カンボジア代表のゼネラルマネージャー(GM)を務める。

必要とされるコーチングライセンスがないため、GMという肩書になっているが、自身は事実上の監督だと公言している。ジダンの事例に照らすと、これは厳密には問題視されうる発言で、ドキッとしてしまう。だが、現役選手であり、代表の活動に参加できない時期もあり、常任の監督ではないと判断され、おそらくお咎めはないだろう。

本田圭佑は指導に正解は無く、基本的なことが分かっていればS級ライセンスを発行すべきだとしている。分母を増やすことで競争が増し、サッカー界が活性化されるというのが本田の持論だ。