サモアの終盤の猛攻凌ぎ切って28-22
ラグビー日本代表(以下ジャパン)は9月29日、キャンプ地でもあるトゥールーズでサモアとワールドカップ予選プール第3戦に臨み、28-22で競り勝って予選突破へ望みをつないだ。
9月25日現在の世界ランキングではサモアが12位で、同13位のジャパンより格上。ここ数年の対戦では分がよかったものの、7月に行われたテストマッチでは22-24で敗れており、通算でも5勝12敗と負け越している相手だ。
代表資格の規定変更によって豪州やNZなど強豪国の代表経験者がメンバー入りしており、ジャパンが勝ち続けていた頃のチームとは別物の「強いチーム」になっていた。
負ければ予選突破の望みがほぼ断たれる背水の一戦。前評判ではジャパン不利と予想する声も多かったが、序盤からリードを保ち、終盤のサモアの猛攻を凌ぎ切った。
明暗を分けた立ち上がりとキックの成功率
この試合の明暗を分けたのは立ち上がり。前半開始2分、ハーフライン自陣側でペナルティーを得たサモアは、PGを狙って来た。落ち着いた試合運びをするようになったサモアを象徴するような選択だ。
キッカーはCTBレウイラ。前試合のアルゼンチン戦でキックが不調だったSOリアリーファノに代わってのキックだったが、ボールはゴールポストを外れ、サモアは先制機を逃した。
ここはタッチに蹴り出されて、自陣内深くでのラインアウトからの攻撃を仕掛けられる方がジャパンとしては嫌だったのではないか。そこからトライでも奪われれば文字通り波に乗らせてしまうところだったが、サモアの「慎重さ」に救われた形となった。
逆にジャパンは前半13分のマイボールスクラムからの展開でこの日FBとして先発したレメキが相手を弾き飛ばしてゴール前まで迫ると、最後はラブスカフニが飛び込んで先制トライを獲得。左隅からの難しいコンバージョンもスーパーブーツ松田が難なく決めて7点を奪った。ジャパンの弱点の一つである立ち上がりの悪さをこの試合では見事に克服してみせた。
松田のキックはこの試合でも絶好調と言ってよく、コンバージョンキックを1本外しただけで5本のキックを決め、13点を叩き出した。最終スコアからみても、松田のキックは勝利に大いに貢献したと言えるだろう。
前半早々に先手を取り、その後も1トライ1ゴール差以上の点差を長く続けられたことは勝因の一つだ。開いた点差はリードする側に余裕を、リードを許している側には焦りを生む。
サモアは規律を守るチームに生まれ変わりつつあるとはいえ、まだまだ冷静な試合運びには不慣れだ。実際にこの試合でも、強引な突破から、無理な体制で放ったオフロードパスがつながらないという場面が多々見られた。
逆に言えば、ジャパンのディフェンスがフィジカル的にも心理的にもサモアに余裕を持たせない厳しいものだったことがうかがえる。
次戦に向けての光明と課題
松田のキックの好調さと、最後まで大崩れせずに守り切った組織的な守備力は心強い。1回だけ押し負けたものの、それ以外は安定していたスクラムも好材料。流の負傷で急遽先発出場となった齋藤も落ちついたボールさばきでゲームの流れを相手に渡さなかった。
先に述べたように、終始セーフティーリードを保った展開でもあったせいか、観衆のため息を誘うようなつまらないノックオンもなく、サマーシリーズから続いた試合の中でもチリ戦に次ぐ安心感のある試合だった。
しかし、課題も少なくはない。まずはラインアウト。この試合も、前半にマイボールラインアウトで2本スチールを食らった。マイボールを確実にキープする技術をモノにしない限り、今後世界を相手に勝ち続けることは難しい。チームとしての課題がこの試合でも露わになった。
次戦のアルゼンチンは、積極的に相手ボールをスチールに来るチームだ。残る日程でどうにかなるものではないとは思うが、できうる限りの修正を試みてほしい。
ラインアウトに関しては、1本しっかりとしたモールを組まれてトライを奪われた場面もあった。逆にラインアウトのモールからトライを取る場面もあったが、初戦のチリ戦からモールが今一つ安定していない印象がある。
パックを固めて押し込んでいくというのはFWの密集戦の基本の基本だ。これも残された時間は少ないが、FWはモールの際の意思統一を図るエクササイズが必要だろう。
キック処理も大きな課題だ。前2試合同様、ボール獲得には至らないケースは多かった。競り負けた後に致命傷になるようなミスがなかったことは評価できるが、競り勝ってボールを獲得し、ビッグチャンスにつながるシーンもなかった。
スピードと決定力を持ち合わせたナイカブラ、松島、レメキのバックスリーが、相手のキックチェイスにばらつきがある状態でボールを獲得できればトライにつながる可能性は高いので、意欲的なチャレンジを期待したい。
最後の難関、アルゼンチンはどんな相手?
アルゼンチンの9月25日現在の世界ランクは9位。毎年、ザ・ラグビー・チャンピオンシップでNZ、豪州、南アと覇を競っている強豪国だ。今年のザ・ラグビー・チャンピオンシップではNZにこそ12-41と少々差をつけられたが、南アとは21-22の大接戦を演じ、豪州には34-31で勝利している。
今大会では初戦のイングランド戦に10-27で敗れ、2戦目のサモア戦は19-10の辛勝だったため、今一つ調子が上がっていない印象はあるが、間違いなく強い相手だ。
プレースタイルとしては、サモアをより洗練させて落ち着かせたようなイメージになるだろうか。強いフィジカルを前面に出した攻撃と、反則を得た際の正確なプレースキックで得点を積み重ねていくのが特色だ。
ジャパンとしては、力負けする可能性の高い1対1のディフェンス場面をなるべく作らないようにすることがカギになるだろう。ジャパンの生命線である、素早いリロードをしつこく繰り返し、相手の焦りを誘って接点での反則を数多く犯させたい。
アルゼンチンは強豪国との数多い対戦から、規律を守ることの大切さを学んではいるが、まだまだ反則の多いチームである。イングランド戦ではもろにその弱点を露呈し、7本ものPGを献上した。
特に注意すべき人物は、主に14番を背負うことが多いエミリアノ・ボフェッリだろう。自陣で反則を犯せば即座に3点を失う、飛距離が長く正確なプレースキックはアルゼンチンの強力な武器だ。
キックのみならず、数多くのトライシーンに絡む走力も持ち合わせている。サモア戦ではチームの危機を救う好ディフェンスを何度も見せた。193センチの長身で、日本の弱点の一つであるであるハイボールの競り合いにも長けている。ジャパンとしてはなるべく彼にボールを持たせないような展開に持ち込みたい。
勝った方が予選を突破する一戦。ジャパンにとっては、まさに歴史的な大一番になる。ジャパンが2015年の南ア戦勝利、2019年のアイルランド戦勝利をしのぐ巨大な衝撃を世界に与える姿を期待して、10月8日を待ちたい。
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