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【ラグビーW杯】自滅した日本代表に予選突破の望みはあるのか?次戦サモアの実力は

2023 9/19 06:00江良与一
イングランドに敗れた日本代表,ⒸJRFU
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ⒸJRFU

要所でミスが目立ったジャパン

ラグビー日本代表(以下ジャパン)は17日、ニースでイングランド代表とワールドカップ予選プール第2戦に臨み、12-34で敗れた。

ラグビーのルーツ国であるイングランドは11日現在の世界ランク8位(ジャパンは同14位)と格上で、ワールドカップ優勝1回、準優勝3回を誇る強豪。ジャパンは過去10回のテストマッチで一度も勝ったことのない難敵で、予選突破、さらにチームとして目標に掲げた優勝を果たすためには是非とも勝ちたい相手だった。

試合内容は点数ほどの差はなく、善戦と言える一戦ではあったが、相手のわずかな綻びを確実に得点に結びつけることができるか否かが明暗を分けた。

試合の流れを変えてしまった大きなミスが三つあった。最初の大きなミスは前半24分、自陣ゴール前5メートル地点でのマイボールラインアウト。ラインアウトに関して課題があることは再三指摘してきたが、その不安が悪い方に的中してしまった。復調なった松田がPGを2本決めて逆転した後だっただけに、余計に悔やまれるミスだ。

逆転を許しただけでなく、ジャパンに傾きつつあった試合の流れを自ら手放す形になった。この試合、マイボールラインアウトは12回あったが、そのうち4本を相手に取られた。今後のジャパンの強化を考える際の最重要課題になるだろう。

二つめは、後半16分にコートニー・ローズに許したトライ。ジャパン陣ゴール前の密集から出たボールを受けたSOフォードのパスが乱れて受け手のFBスチュワードが受け損ね、そのボールがライン参加していたPRマーラーの頭に当たり、前方に転がったところをローズが拾い上げて奪われた。

ジャパンの選手はマーラーのプレーがノックオンだと判断し、誰もローズを止めに行かなかった。一連の流れの中でのプレーなので判断が難しい場面ではあったが、少なくともレフェリーは笛を吹いていない。ここはセルフジャッジせずに、ローズを止めてほしかった。

三つめは、後半20分過ぎのヴァルアサエリのノックオン。このミスは、松島のカウンターアタックで敵陣深くまで攻め入って、いいテンポでボールが出た瞬間に起きた。最も相手ゴールに迫った場面でのこのノックオンで、ジャパンは完全に試合の流れを手放してしまった。

その後は防戦一方となり、最終的に2トライを追加されてボーナスポイントまで献上してしまったのだ。相手チームからの強烈なプレッシャー、汗で滑りやすくなっていたボールなどの悪条件が重なったこともあるが、ここはつないでほしかった。

ミスして攻撃権を放棄してしまうか、攻撃を連続させて得点につなげられるかが強豪チームと下位チームの差。ほんの紙一重だが、その紙一枚を破るのは非常に難しい。

キック処理も課題

また、キック処理も課題の一つとして挙げられる。イングランドは身長196センチのFBスチュワードを軸に、再三ハイボールを蹴り込んで、競り合いを挑んできたが、ジャパンはその競り合いにはほとんど勝てなかった。

競り合いに負けることは織り込み済みだったようで、ボールを相手に取られた後のディフェンスで粘ったので、直接失点に結びつくようなことはなかったが、本来ならボールをしっかりキャッチして、松島、マシレワ、ナイカブラといったスピードあるランナーのカウンターアタックにつなげたかったところだ。

マシレワは前半早々負傷で退場したが、代わりに入ったレメキ、後半から登場したライリーを含め、バックスリーのスピードでディフェンス網を切り裂いた場面もあったので、キックのカウンターのみならず、もっと、自分たちの仕掛けでバックスリーのプレーヤーにボールを持たせたかったところでもある。

敗戦の中の光明

とはいえ、光明もある。まず一番目についたのはスクラムの安定だ。世界屈指の強さを誇り、昨年秋のテストマッチではジャパンのスクラムを粉砕したイングランドに対し、ジャパンは一歩も引かなかった。

ロックの一方を「本職」ではないファカタヴァが務めるという不利な状況下での互角の戦いは、安定した球出しとともに、FWの気持ちを奮い立たせる効果もあった。スクラムで士気が高まったFWは、後半の最後の最後で力尽きるまで、ブレイクダウンで互角以上に渡り合い、後半20分までの僅差の戦いを演出した。

SO松田力也のキックが好調なのも明るい材料だ。この試合では4本のPGを決め、チームの全得点を叩き出した。本戦に入って失敗が一本もない松田はイタリア戦とはまさに別人の趣がある。現在の安定性が持続すれば「スーパーブーツ」の称号で呼ばれる日が来るかも知れない。

ファカタヴァの好調さも目立った。この試合、アタックではさほど目立たなかったが、特筆すべきはカバーリングディフェンス。本職が第三列であるファカタヴァは、「普通のLO」であれば、絶対にカバーできないエリアまで相手のBKを追いかけていき、止め切ってしまう嗅覚とスピードを持ち合わせている。

この試合でも2回、相手WTBをライン際で止め、チームの窮地を救った。懸念されたスクラムもまったく問題ない。世界を見渡してみても、これだけの機動力と活動量を誇るLOはいないだろう。

次戦サモアはどんな相手?

予選突破に向けて、もう一つも星を落とせないジャパンの次の相手はサモア。現在の世界ランクは12位とジャパンよりも上で、サマーネーションズシリーズでは22-24と敗れている相手だ。

W杯直前のテストマッチでは世界ランク1位のアイルランドに13-17とくい下がり、9月16日に行われた予選プール初戦ではチリを43-10で一蹴して勢いに乗っている。

協会代表チーム資格規定の変更により、元豪州代表のSOリアリーファノや元NZ代表のPRファウムイナなどの強力なプレーヤーが加入してチームが一皮むけた。チリとの試合でも先制トライこそ奪われたが、あわてず騒がずリアリーファノのPGで確実に3点を積み上げて逆転し、その後は隙の無いゲーム運びで5つのトライを奪い、ボーナスポイントまでしっかり取って勝ち切った。

強力なフィジカルを前面に出して暴れまくり、トライを量産する反面、粗いデイフェンスで失点も多い上に、反則も数多く犯して自滅するというガキ大将のようなチームから、しっかりと規律を守り、PGのチャンスでは確実に3点を取っていく大人のチームに変貌を遂げたと言える。

ただし、ジャパンとしてはおとなしくなったサモアの方がやりやすいのではないか。手堅く守りを固めて相手の焦りを誘うという戦い方ならジャパンのほうが一枚上だし、キッカーを務めることになるであろう松田も絶好調だ。

そろそろバックスリーの選手も思い切った攻撃を仕掛けていい頃合いになった。組み合わせの関係で2週間しっかり休養が摂れることも追い風だろう。

有利な点が多々あるとはいえ、現在のランキングではサモアの方が格上なのだから、ジャパンとしては、次の次のアルゼンチン戦のことはひとまず脇において、しっかりとサモアに勝つことだけを考えて戦いに臨むべき。別の敵に気を取られたままで勝てるほどサモアは甘い相手ではないが、集中して結果を出せばまだまだ希望はある。

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