ザ・ラグビーチャンピオンシップは4チームとも2勝2敗の大混戦
8月中旬から始まった南半球の強豪4か国(南アフリカ、ニュージーランド、オーストラリア、アルゼンチン)によるザ・ラグビーチャンピオンシップは、第4節までに各チームが4試合づつを行い、全チームが2勝2敗で並んでいる。
2012年から昨年まで同大会で9回中7回も優勝しているニュージーランド(以下オールブラックス)の意外な苦戦とアルゼンチンの大健闘が、現在の珍しい大混戦をもたらしている。
8月中旬から始まった南半球の強豪4か国(南アフリカ、ニュージーランド、オーストラリア、アルゼンチン)によるザ・ラグビーチャンピオンシップは、第4節までに各チームが4試合づつを行い、全チームが2勝2敗で並んでいる。
2012年から昨年まで同大会で9回中7回も優勝しているニュージーランド(以下オールブラックス)の意外な苦戦とアルゼンチンの大健闘が、現在の珍しい大混戦をもたらしている。
オールブラックスは第1節では南アフリカに完敗したものの、第2節では力強く隙のない、「絶対王者」にふさわしい勝ち方でリベンジを果たし、意気揚々とホームでの第3節を迎えた。相手は過去32回対戦して1回しか負けていない「お得意様」のアルゼンチン。オールブラックスが勝利を収めて当然と見られた一戦は、予想に反して25‐18でアルゼンチンが勝利した。
オールブラックスは、南アフリカとの第2戦からFWの力強さと素早さが復活しており、この試合も序盤から早々に得点を重ねた。最初から相手を圧倒し、大きく得点差をつけて相手の戦意を削ぐという展開は、まさにオールブラックスが絶対王者だった時代の「王者の戦い」だった。
しかし、アルゼンチンも第2節でオーストラリアに48-17という大差で4年ぶりに勝利しており、自分たちのプレーに自信があった。素早い集散でしつこくオールブラックスの攻撃を止め続け、ついには反則を誘う場面が多々見られた。しかもそこで得た4回のPGのチャンスを、この日右WTBに入ったエミリアノ・ボフェッリ(エディンバラ)が確実に決め、前半で大勢が決まってもおかしくなかった試合を12-15の接戦で折り返したのである。
「王者の戦い」が通用しなかったオールブラックスは、後半、反則を繰り返してはボールの支配をアルゼンチンに渡すという典型的な「自滅」で逆転され、そのままアルゼンチンのディフェンスを崩せずに敗れた。アルゼンチンが負ける時のパターンを、オールブラックスが見事にコピーしてしまったのだ。
アルゼンチンは元々個々のプレーヤーの能力は高いが、一方でチームとしての活動期間が限られるが故にプレーヤー同士の連携に常に問題があり、また反則も多いチームだった。
しかし、この日の試合のような規律正しさでプレーされたら、ワールドカップ予選プールで対戦するジャパンにとっては付け入る隙がなくなるのではないか、という不安が募ってきた。10月以降の秋のテストマッチで、ジャパンはじっくりと候補選手の能力を見極め、その上で選抜された選手としっかりと対策を練っておく必要がある。
翌週に行われた第4節の試合では、オールブラックスが前節の歯痒さを払拭するかのように前半から攻めに攻め続け、「王者の戦い」で53-3とアルゼンチンをノートライに押さえて圧勝した。
調子のいい時は圧倒的な強さを見せるが、調子が悪いと焦って反則を繰り返して自滅する……。往年のフランスや、ちょっと前までのアルゼンチンを思わせるような気まぐれさである。別にニュージーランド人がラテン気質の悪いところに影響を受けたわけではない。世界中のチームがオールブラックスの戦術を研究し、その対策を精緻に積み上げたうえで戦いに臨むようになったということだ。
いかに強者ぞろいのオールブラックスといえど、個々人のスキルや能力頼みでは簡単に勝てなくなった。新しい戦術なり強化方針なりを打ち出さない限り、今回のザ・ラグビーチャンピオンシップの優勝もおぼつかなければ、来年に控えたワールドカップの覇権争いでも遅れを取ることになる。
ザ・ラグビーチャンピオンシップで優勝したとしても、ワールドカップには参加4か国よりさらに世界ランキング上位のアイルランド(1位)、フランス(同2位)も出場するし、前回のワールドカップで敗れたイングランドも控えている。その辺のいらだちはイアン・フォスターHCに向けられ、ニュージーランド国内では指導者交代を望む声が大きくなりつつあるようだ。
以前、筆者が旧知のトップリーグ経験者から「ワールドカップ1年くらい前の試合は実力のすべてを見せつける必要はない。すべての手の内をさらしてしまうと、対戦国からのマークがきつくなり、対策も十分に練られてしまうから」と聞いたことがある。
今回のザ・ラグビーチャンピオンシップにおいて、オールブラックスは4試合すべて同じ先発メンバーで臨んでいる。代表スコッドの選手の入れ替えも一切なし。例えば年内はどんな結果に終わろうとも、同じメンバー、同じ戦術で臨む、という方針をひそかに決めているのではないか。そして、ワールドカップイヤーになれば一気に新しい選手を選び、新しい戦法を出す。そんな可能性だってあるかもしれない。
9月15日、24日のオーストラリア戦、そしてジャパンとの対戦を含む10月以降のテストマッチと併せ、オールブラックスの戦いぶりから目が離せない。
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