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ラグビーのルール解説「インテンショナルノックオン」と「ハイタックル」

2022 8/11 11:00江良与一
リーチマイケル,Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

非紳士的プレーとして厳しく罰せられる「インテンショナルノックオン」

ラグビーは紳士のスポーツとされている。一つ間違えば、相手を死に至らしめるような危険と隣り合わせの競技ゆえ、プレーヤーには高潔な人格を備えていることが求められるからだ。たとえレフェリーや他の人に見えないところでもルールを遵守し、正々堂々戦うことこそが「紳士」の定義である。

そして「紳士」にふさわしくない反則は、ここ数年で特に判定が厳しくなり、罰則も重くなった。重罰化された二つの反則について解説する。

インテンショナルノックオン(Intentional knock-on)とは直訳すれば「意図的なノックオン」という意味。通常のノックオンはボールを前に落としてしまうという反則であり、相手ボールのスクラムで試合が再開される。

「インテンショナルノックオン」とは、攻撃側のプレーヤーが放ったパスを守備側のプレーヤーが意図的にはたき落としたと判定された場合に宣告される。攻撃側がパスを成功させていたら、大幅にゲインされたり、トライにつながるなどという場合に、守備側のプレーヤーが犯してしまうことが多い。

こうしたピンチにおいては、一か八か、相手のパスを奪い取るインターセプトで局面の打開を図ろうとする意思が働くためである。首尾よくインターセプトに成功すればそれこそ大逆転に結びつくことすらあるのだが、失敗してインテンショナルノックオンを犯すとその局面だけでなく、試合全体に響くほどのピンチを招いてしまう。

インテンショナルノックオンの判定が下った場合、最低でも攻撃側にはペナルティーキックの権利が与えられる。もしそのパスが通っていればトライが成立したとレフェリーが判断すれば、認定トライが与えられる場合もある。

また、このインテンショナルノックオンが度重なったり、明らかに最初からボールをはたき落としにいったように見えるなど、悪質と判断された場合にはイエローカードが提示され、インテンショナルノックオンを犯したプレーヤーは10分間の一時退場を命じられる。チーム全体にとっての危機を招く、危険な反則なのである。

このプレーは、非合法的に相手の正当なプレーを邪魔したという意味で「非紳士的」なプレーとみなされ、厳罰化されるようになった。近年ではTMO(テレビジョン・マッチ・オフィシャル=ビデオ判定)の普及により、一旦はプレーを続行させても、その後の映像確認により、特にこの反則はしっかりと取られるようになった。

TMOの映像がTVの画面に写されることも多くなってきたので、その際はぜひノックオンを犯した選手の手のひらに注目していただきたい。手のひらが上を向いていれば、ボールを取りに行ったとみなされ、手のひらが下を向いていればボールをはたき落としに行ったとみなされる。

ただのノックオンなのか、インテンショナルノックオンなのかはさすがに一番近いところにいるはずのレフェリーですら判断は難しい。TMOという技術の進歩がもたらしたルールの変化の一つである。

相手の肉体に重篤なダメージを与える「ハイタックル」

危険なプレーで相手の肉体を傷つけない、というのも「紳士」に求められる規範の一つである。相手の下半身に猛烈なタックルを見舞って、仰向けにひっくり返すのはルールに則った激しいプレーだ。

しかし、肩から上にショックを与えるような方法、つまり「ハイタックル」で相手を倒すのは、非常に野蛮な行為として最も重い罰則を課せられる。

ハイタックルの場合、相手チームにペナルティーキックが与えられるのは試合再開上の一つの手続きに過ぎない。ハイタックルを犯した選手は最低でもイエローカードを出されるし、危険度が高いと判断されれば、レッドカードを出されて退場処分を受けることもある。さらに、リーグ戦などではその後数試合にわたって出場停止が言い渡される場合もある。

世界のラグビーを統括するワールドラグビーは首から上、特に頭部へのダメージを防ぐために、かなり神経質になっており、HIA(Head Injury Assessment=脳震盪を起こしていないか否かを10分かけて判断する制度)を採用し、脳震盪を起こしたと判断された場合はその後3週間は試合に出られないなどのルールも決めている。

「安全な激しさ」を求めるのが現代ラグビーの潮流

こうした流れの中で「ハイタックル」の定義も変わってきている。従来は、肩から上に腕を巻きつけるようなタックルが主なペナルティーの対象だったが、例えば、肩と相手の顔面がぶつかってしまった場合などは攻撃側、守備側にかかわらず、肩を当ててしまった方が反則を取られる。

ボールを持った選手と1対1の場面だけでなく、密集の中でも、相手の首や顔面に肩や肘、腕などが当たってしまった場合は反則を取られる。また、密集においては、密集に参加している敵側の選手の首に腕を巻きつけて密集から引きはがそうとする行為(ネックロール)なども重い反則を取られる。

故意の危険なプレーなどもってのほかで、非紳士的行為として罰を与えられるが、さらにそれ以上に安全に十分配慮した上で、激しさを追求しようとしているのが現在のワールドラグビーの潮流だ。

一見矛盾しているようだが、反則は技術の未熟さと非紳士的な心持ちによって起こるもので、どんな場面でも正しいプレーができる技術と、不正を働かない克己心があれば、安全にラグビーの激しさを味わうことができるというのが、ワールドラグビーの理屈であり、理想でもある。

我々としては、一つの反則で選手が一人退場してしまった瞬間に勝負の趨勢が決まってしまうような試合が減ることを願うのみである。

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