「スポーツ × AI × データ解析でスポーツの観方を変える」

【ラグビー】格上フランスと戦って見えたジャパンの光明と課題

2022 7/4 06:00江良与一
フランス戦でタックルする稲垣啓太,Ⓒゲッティイメージズ
このエントリーをはてなブックマークに追加

Ⓒゲッティイメージズ

「前半は健闘した」という歴史の繰り返しではあったものの…

7月2日に行われたラグビー日本代表(以下ジャパン)対フランス代表のテストマッチ第1戦は23-42でフランスが勝利した。

前半は13-13のタイスコアで、ボールの支配率に関してはややジャパンが上回っていたため、アップセットへの期待は大いに高まったが、残念ながら過去何度となく繰り返された「前半は互角に近い戦いを見せたものの、後半ギアを上げてきたフランスに引き離されて敗戦」という展開をなぞった残念な結果となった。

ただし、今回の敗戦に関しては「残念さ」のレベルが違う。以前の敗戦はフランスが「普通に」ラグビーをやり始めた途端に手も足も出なくなるという、明らかに大きな実力差を露呈したものだった。今回は最後の最後まで心を折られることなく食い下がった。

特に最後の最後でスクラムを圧倒し、そのままトライを奪ったことが大きい。文字通りのモメンタムとして試合の流れを大きく変えた。このモメンタムがあと10分早く発生していたら試合の行方は、気まぐれな楕円球の一転がりで決まるような息詰まるものになっていただろう。

収穫は試合の中でのデイフェンスの修正とボールを保持する技術の向上

開始早々フランスのキックオフボールを保持しながらその後の展開で奪い返されて、膠着状態の後フランスボールのスクラム。フランスBK陣の巧みなデコイランでディフェンスのマークをずらされ、あっさりとトライを奪われた。これまでの3試合のBK陣とは段違いのラインのスピードと個々のスキルの高さをいきなり見せつけられたのだ。

低迷期のジャパンであれば、このトライで心を折られてしまうところだったが、ティア1の一角として認められた現在のジャパンは逆に目を覚ました。生命線であるダブルタックルと素早いリサイクルを作動させてディフェンスを固めたうえですぐさま反撃に転じた。

山沢拓也(埼玉パナソニックワイルドナイツ、以下埼玉WK)の欠場により急遽SOとして先発出場した李承信(コベルコ神戸スティーラーズ)のPGで3点を返すと、ペネトレーター役を任されたNo.8テビタ・タタフ(東京サントリーサンゴリアス)がフランスのディフェンスをぶち破ってトライを挙げ、逆転したのである。

フィジカルの強さだけなら世界でも一流レベルであると証明したようなこのトライは、本人の自信にも、チームとしての戦い方のオプションを広げることにもつながった。ただ、タタフはこの試合もノックオンなどの細かいミスが目立ち、まだ絶対的なレギュラー選手としての信頼を得るまでには至っていない。

このトライの後、前半終了まではジャパンのボール保持率は非常に高かった。被タックル後のボディーコントロール、FW・BKを問わず2人目、3人目の選手の密集への働きかけが有効で、フランスにターンオーバーを許さなかったのだ。残念ながら有効なラインブレイクは少なかったが、「あと一歩」というプレーは随所に見られた。

また、試合全般を通じ、前3試合ではほとんど見られなかった外への展開も何度かあった。前3試合は、FBやWTBといった「外側」の選手で何かを仕掛ける前の段階で相手のディフェンスが崩れてしまったため、悪く言えば「結果オーライ」のトライばかりだった。

相手のミスを突いて得点するのは好ましいことではあるが、世界の一流チームは、ミスの数が極端に少ない。ミスを待っているだけでは得点のチャンスが限られてしまうため、能動的なムーブメントで隙を作り出すことが必要となる。フランスのディフェンスラインを突破するためにさまざまな仕掛けを試みたことはチームとしての貴重な経験となっただろう。

9日の最終戦で解決すべき課題

相変わらずラインアウトが安定しない。この試合では前半に坂手淳史(埼玉WK)が2回、後半に橋本大吾(東芝ブレイブルーパス東京、以下BL東京)が1回スローを失敗した。この3回とも相手ゴール前という大チャンスだったが、みすみす相手にボールを渡してしまうことで自ら攻撃のいい流れを断ち切ってしまう結果となったのが痛かった。

ただ、坂手は2回の失敗にもめげずに、コントロールの難しいロングスローに挑戦し、2度マイボールキープに成功しており、決して研鑽を怠っているわけでも、失敗を恐れて縮こまっているわけでもないというのは伝わってきた。

また、リーチマイケル(BL東京)が相手ボールをスチールしたことも大きい。スチールの危険性があると思わせるだけでも相手の選択肢を狭めることができるし、何よりFWを鼓舞することにつながる。

フランスのBK陣に後半だけで3本のトライを許したジャパンのBKのデイフェンスも大きな課題を残した。FWを軸にしたダブルタックルが決まっているうちはいいが、FWが追いつけない外側でBK同士が1対1になった場合は、どうしてもパワーで見劣りする。

後半のフランス2本目のトライはCTBのヨラム・モエファナにタックルに行った李が見事に吹っ飛ばされて突破を許したことにより奪われたもの。6本のキックの機会のうち5本を決めるなど、一定の存在感を示した李だが、ディフェンスに関しては力感不足は否めない。

彼個人のフィジカル、スキルアップももちろん必要だが、チームとしてSOを「守る」システムの構築とそれを可能にするフィットネスのより一層の向上も必要だろう。

フランスの後半最初のトライは、SOがステップワークでラインブレイクし、ブラインドサイドのWTBがフォローして挙げた鮮やかなもの。こういう攻撃こそジャパンが仕掛けるべきものであり、この試合では度々見られはしたものの、まだまだWTBにボールを持たせる機会が少ない。この課題も依然として解消されていない。

残されたテストマッチは9日(国立競技場)の1試合だけだが、ジャパンとしては一つでも多くの課題を解決する場としたいところだ。特に攻撃のオプションは一つでも多い方がよく、ハプニングではない、意図した仕掛けをぜひフランスにぶつけてほしいものだ。

【関連記事】
ラグビーフランス代表の強みと弱み、肉弾戦もできるニュージーランドキラー
【ラグビー】ウルグアイとの実力差の割に物足りなさが目立ったジャパンの勝利
2023ラグビーワールドカップフランス大会日程、日本代表のスケジュール