相手の強みを消すことに成功したゲーム運び
6月18日に行われたラグビー日本代表(以下ジャパン)対ウルグアイ代表(以下ウルグアイ)の第1戦は34-15でジャパンが勝利した。点数で19点、トライ数で5-2、そして常に1トライ1ゴール差以上の点差を保った試合運びと、快勝と言ってよい一戦だった。
勝因は何と言っても、複数人数による速いタックルと、迅速なリサイクルを繰り返し続けたディフェンスだろう。もはやジャパンのお家芸と言ってもよく、同時にジャパンの生命線とも言えるディフェンスは、個々のフィジカルの強さを前面に打ち出したいウルグアイの力強い突進を止め続けた。
世界ランキング10位でティア1、すなわち世界レベルでも最強グレードの一角と認められたジャパンのディフェンスは、ウルグアイの、力強くはあっても直線的で、オプションのあまりない突進をダブルタックルの餌食にし続けた。
後半に2本のトライを奪われてしまったことは反省すべき点ではあるが、あの2本はジャパンのタックルに真正面から挑み続け、ついに突破することに成功したウルグアイの執念を褒めるべきだろう。
ペネトレーター、テビタ・タタフの効果と課題
この試合はNo.8としてフル出場したテビタ・タタフ(東京サントリーサンゴリアス、以下東京SG)のペネトレーター(突破役)としてのテストの場でもあった。
セットプレーでも、アンストラクチャーなラインでも、まずはタタフにボールを持たせることがチームとしての決まり事。世界レベルでも通用するとされている彼のフィジカルを目一杯活かす道を探る試みは、この試合に関しては効果的に作用した。前半終了間際には、ラインアウトからの球出しでボールを受け、そのままディフェンスを突き破ってトライを挙げた。
また後半最初のトライは密集から一人の選手を経てタタフがボールを受けることで、密集近辺にいた相手のマークをずらした。ずらした位置で再度マークを集中させることで自身のまわりにギャップを作り出し、FL山本浩輝(東芝ブレイブルーパス東京)のゲインから堀越康介(東京SG)が決めたもの。必殺のトライパターンがあれば、その裏パターンもまた有効に作用するという、アタックの教科書のような二つのトライだった。
ジャパンには世界レベルのパワープレーが可能な選手の出現が久しく待たれていたが、タタフはその有力候補に名乗りを上げたと言ってよい。彼に今後求められるのは被タックル後のボール扱いの丁寧さと、味方に確実にボールをつなぐためのボディーコントロールだろう。
この試合でもノックオンや、被ジャッカルなどで相手にボールの支配権を渡してしまうケースが散見された。ウルグアイにこうしたミスを突いてくる緻密さがあれば、勝敗が逆になっていた可能性もあった。世界ランキングの上位国は、こうしたミスを決して見逃しはしないだろう。
幸いなことに、タタフはパワー任せのアタックだけでなくタックル回数も多く、ジャッカルを試みる場面も多々あった。攻守ともにタックル後のシチュエーションを数多く経験し、「勘所」はしっかりつかんでいるはずなので、ジャパンの首脳陣の指導の下でしっかりとエクササイズに励んでほしい。
課題山積のセットプレー
6月11日のトンガサムライフィフティーン(以下TGA)とエマージングブロッサムズとの試合でHOを務めた堀越がこの試合も先発し、ラインアウトのスローワーの任を与えられていたが、この試合も2回失敗した。
前半開始早々の相手ゴール前では列の前の方に投げるショートスローを、前半26分のやはり相手ゴール前の場面では列の後ろの方の選手に合わせるロングスローをそれぞれ1回づつ失敗したのだ。相手ゴール前に攻め込んでいながら自らのミスで相手にボールを渡してしまうのは「逆モメンタム」、すなわち自軍の士気を下げることにつながる。
ラインアウトを起点にした場合、個々人の強さでは劣るものの、ここ一番の集中力では世界屈指の強さを誇るジャパンの切り札の一つ、モール攻撃も選択できるし、BKもサインプレーを仕掛けやすい。マイボールのラインアウトは確実にキープすることが勝利の必須条件である。
しかもこの日のウルグアイは積極的にボールを取ろうとはして来なかった。すなわち国際試合にしては珍しいくらいにプレッシャーがかかっていない状態だったのである。
フィールドプレーでは豊富な運動量で存在感を見せつけている堀越だが、フロントローの選手はまずセットプレーが安定しないと国際試合には起用しづらい。彼の今後のためにも、ジャパンの今後のためにも早急な対応が望まれる。
少なすぎるバックスの攻撃機会
後半になってフロントローの選手が総入れ替えになった後に2回の反則を取られたスクラムも気がかりだ。「チーム」としての成熟度が低かったが故のミスであろうとは思うが、いかに個々の力が優れていても、8人すべての息が合わないと、押されるか反則を取られるかしてピンチを招くことになってしまう。
2015年、2019年の躍進を支えた要因の一つが安定したスクラムであったことを考え併せても、「一体感」の醸成は急務だ。誰が出ても同じような安定したスクラムが組めるという状態に仕上げておかないとチームの根幹が揺らいでしまう。
TGAとの試合ではBKの攻撃の機会が少なく、もっとWTBをうまく使うゲームメイクが必要だと感じたが、この試合でもBKの攻撃は少なかった。先制トライこそ、素早い球回しと、ロングパスの組み合わせで、左WTB根塚洸雅(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)が挙げたが、その後は右WTB竹山晃暉(埼玉パナソニックワイルドナイツ)が細かいステップワークで相手を二人かわしたムーヴメントが観衆を沸かせた程度。
WTBのスピードは、数少ないジャパンのストロングポイントであり、SOに入った田村優(横浜キヤノンイーグルス)、インサイドCTBラファエレ・ティモシー(コベルコ神戸スティーラーズ)には、WTBに、走り切るに十分なスペースを与える仕掛けをもっとどんどん試してほしかった。
この試合は、図らずもFW近辺の攻防で勝り、それをトライにまで結びつけることに成功していたが、2週間後の対戦相手フランスのFWはジャパンのFWとBKのフロントスリー(SOと2人のCTB)を自由に動きまわらせるほど甘くない。
ギリギリの攻防が続く中でいかにWTBに有効なラストパスを通すことができるか。25日に行われるウルグアイとの第2戦では、ぜひBKが躍動する姿をみたいものだ。
【関連記事】
・【ラグビー】ジャパンの強みと弱み浮き彫り、辻雄康ら期待の選手も
・ジャパンラグビーを進化させるリーグワンの激闘、2023年W杯への光明と課題
・ラグビーリーグワン「府中ダービー」でBL東京はなぜ東京SGに完勝できたのか