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東京五輪1.4兆円、招致段階から2倍増で2030年札幌招致にも影

2022 6/24 06:00田村崇仁
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国と都の公費負担は55%、3兆円の試算も

新型コロナウイルスによる史上初の1年延期を経て昨夏に開催された東京五輪・パラリンピックの組織委員会は6月21日、総額1兆4238億円に上る大会の開催経費を最終報告した。

延期やコロナ対策で追加経費が生じた中、組織委は「東京モデル」と呼ばれる「簡素化」で来日する五輪関係者を4分の1以下にするなどコスト削減を徹底したものの、招致段階の2013年に東京都が国際オリンピック委員会(IOC)に提出した「立候補ファイル」で公表した試算7340億円からは2倍近い規模となった。

一方、五輪経費の全体像は線引きが難しく不透明のままで、暑さ対策や輸送インフラ、既存施設のバリアフリー化など東京都や国が賄ったグレーゾーンの「関連経費」も含めれば、実質的な経費は2~3兆円を超えると試算されている。

東京都の小池百合子知事がかつて「1兆、2兆、3兆って。お豆腐屋さんじゃないんだから」と皮肉った五輪経費。「赤字」も懸念された組織委は最終的に「収支均衡での着地」と胸を張ったが、開催経費の負担は東京都が5965億円、国が1869億円で公費による負担割合は全体の55%となり、世論の「逆風」となっているコスト増大や不信感は札幌市の2030年冬季五輪招致にも影を落としている。

誤算は無観客、チケット収入900億円見込がわずか4億円

最大の誤算はやはりコロナ禍で大半の会場が無観客となり、900億円を見込んでいたチケット収入がわずか4億円に落ち込んだことだろう。

期待されたインバウンド(訪日客)や経済効果は大きく失われた。招致決定後に建築資材や人件費も高騰。新型コロナ対策費には363億円が充てられた。成功例と言われた2012年ロンドン五輪も当初の見込みから3倍近い2兆1000億円に膨らんでいるが、巨大イベントの経費は依然として不透明な印象を残しており、その意義や効果が問われそうだ。

東京の開催経費は支出の内訳では会場関係が8649億円を占め、国立競技場や東京アクアティクスセンターなど恒久施設の整備に3491億円。運営関係は5236億円を要し、民間警備会社による会場警備に309億円、輸送用のバスは156億円、乗用車は118億円。選手村の運営は164億円、開閉会式には153億円という巨費が投じられている。

7月から清算段階に移行する組織委は、予期せぬ訴訟対応の費用などとして144億円を残した。

札幌招致「原則税金は投入しない」と明記も膨らむ懸念

2030年札幌冬季五輪招致は開催経費を2800億~3000億円とし「冬季五輪は夏季の5分の1程度の予算規模。コストを最小限に抑えるため、既存施設を最大限に活用する」と意気込む。

現段階で「札幌優位」とされ、2030年度末を目標としている北海道新幹線の札幌延伸や温室効果ガス削減などの街づくりを進める手段としても関係者の期待は高いが、市民の熱気は乏しく、懸念されるのはやはりコストの増大だ。

1972年札幌冬季五輪で使われた会場など既存施設を最大限活用。更新・改修といった施設整備費として約800億円を見込む。一部会場は市外に分散し、スピードスケートは帯広市、アルペンスキーはニセコ地区、ボブスレーやスケルトンなどのそり競技は長野市で行う。

約2000億~2200億円と試算する運営費は大会組織委員会が集めた収入で賄い「原則税金は投入しない」と明記。市は大会を機に冬場の観光客をさらに呼び込み「北海道を世界屈指の一大リゾートエリアへ発展させることが期待される」としている。

だが東京大会でもコロナウイルスが襲いかかったように不測の事態はいつ起こるか分からない。収入の柱とするスポンサー集めが難航したり、追加支出が発生したりする可能性も否定できない。地元支持率の低さも大きな課題だ。

東京大会は開催経費だけでなく、数々の運営面のトラブルも起こり、五輪ブランドを低下させたとも指摘される。業務を終えた組織委は6月末で解散となるが、札幌への機運につながるレガシー(遺産)は何が残せたのか。しっかりした検証が求められそうだ。

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