展開を決めたアドマイヤズーム
NHKマイルCトライアルのニュージーランドTは、イミグラントソングがGⅠ馬アドマイヤズームをとらえ、勝利。3着にはコートアリシアンが入った。
朝日杯FS覇者アドマイヤズームの登場で一気にメンバーレベルが上昇。結果もその通り、近年でも類をみないハイレベル決着になった。勝ち時計1:32.4は速く、中山芝1600mの2、3歳限定戦でみると、1986年以降のデータで2位タイの好記録。1位はレースレコードでもある2002年タイキリオンが叩き出した1:32.1で、今回と同タイムだったのが昨年12月ひいらぎ賞。デンクマールが2歳コースレコードを樹立した。
無敗で皐月賞戦線に挑む予定だったデンクマールは故障でスプリングSを回避し、残念な結果に終わったが、そのひいらぎ賞2着が今回、アドマイヤズームを破ったイミグラントソング。2着に終わったひいらぎ賞の記録は1:32.5であり、今回の1:32.4は不思議でもなんでもない。返す返すもデンクマールの離脱は残念でならない。
好記録の立役者は間違いなく好位にいたアドマイヤズームだ。好スタートからいち早く理想的な好位のポジションを確保したため、末脚勝負を嫌い、前で勝負したい馬たちはペースをあげざるを得ない。2コーナーから向正面あたりで先頭は8馬身ほどのリードで、序盤600m34.3と速く、その次も11.4を叩き、800m通過は45.7。ハイペースで注目を集めた、エリカエクスプレスの制したフェアリーSが800m通過45.5とほぼ同じペースだった。
ニュージーランドTでは歴代3位タイ。レコード勝ちの2002年タイキリオン(44.7)、12年カレンブラックヒル(45.6)に次ぐ記録で14年ショウナンアチーヴ(45.7)と並んだ。後半800mは12.0-11.9-11.2-11.6の46.7。前半が速くても、後半も速く、前後半の落差は1.0秒にとどまった。これ以上後半がかかれば、ハイペース判定だが、後半をまとめたことで前半が速くてもペースはミドルペース判定。これも好位にいたアドマイヤズームが後半を引っ張ったことが大きい。
好調な辻哲英厩舎
アドマイヤズームは4コーナー手前から外を早めに進出し、直線入り口では先頭に立つ積極的な立ち回りによって、残り400-200m11.2を叩き出した。ここで力が足りない先行勢は脱落し、圧勝するかとみられたが、急坂を上がったゴール前100m少々でアドマイヤズームの脚色がわずかに鈍り、イミグラントソングの差しが決まった。アドマイヤズームの2列後ろに位置し、早めの仕掛けにも慌てず、余裕ある態勢で射程圏に入れ続けた。速い時計への対応力が最後の場面で生き、アドマイヤズームをとらえた。
前走は東京マイル(1勝クラス)で3着に敗れ、瞬発力勝負での分の悪さをみせたが、中山だと急坂を上がる姿に迫力を感じる。とはいえ、記録した上がり600mは33.1と速く、瞬発力で劣るわけではない。東京特有のスローペースでなければ、速い上がりにも対応できるので、例外的に持続力勝負となりやすいNHKマイルCなら東京だから合わないとはいえない。アドマイヤズームに先着した事実、1:32.4という記録のどちらをとってもGⅠ最有力に躍り出たといえる。
辻哲英厩舎といえば、先日の毎日杯を圧勝したファンダムもいて、この世代が絶好調。2頭のローテーションからも目が離せない。どちらも高速決着に強く、末脚を武器にする似たタイプであり、辻厩舎の得意パターン。終いを伸ばせるのは前半、リラックスして走れるからであり、ウッドコースで長めから丁寧に調教した成果だろう。今後も注目したい厩舎だ。
マイルなら世代上位のコートアリシアン
2着アドマイヤズームは敗れたが、休み明けとしては文句なし。最後は早めに抜け出した分、気を抜いたか、休み明けの影響か。どちらにしてもレベルが上がる本番なら、解消されるだろう。中山も難なく攻略したようにコース経験をカバーできるセンスが強み。東京コースでも問題なさそうだ。
3着は牝馬コートアリシアン。出走できるか微妙な桜花賞ではなく、ニュージーランドTへ。最近は2023年2着ウンブライル、2024年2着ボンドガールなどこのパターンが着実に結果を残す。早めの方針転換が好結果につながった。勝負所で内を通り、若干走りづらかったようだ。桜花賞馬が誕生したハイレベルなクイーンCの4着であり、今回も1:32.6で乗り切った。マイルなら着実に世代上位の力がある。

《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『オルフェーヴル伝説 世界を驚かせた金色の暴君』(星海社新書)に寄稿。
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