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【クイーンC回顧】エンブロイダリーがレースレコード更新の快勝 類まれな持続力発揮、懸念は“反動”

2025 2/17 11:22勝木淳
2025年クイーンカップ、レース結果,ⒸSPAIA

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レースレコード更新

桜花賞へ向けた注目の一戦はエンブロイダリーが勝利。2着マピュース、3着エストゥペンダと続き、1番人気マディソンガールは6着に敗れた。

勝ち時計1:32.2は2016年にメジャーエンブレムが記録した1:32.5より速いレースレコード。レコード更新の要因は前半のペースにある。

序盤の600mが34.2、前半800mは45.7。12.3-10.8-11.1-11.5と中盤にかけてラップが落ちない厳しい流れになった。この45.7もクイーンC歴代最速タイで、ミヤマザクラが勝った20年と並ぶ急流だ。

ちなみに、ミヤマザクラもエンブロイダリーと同じく2番手から粘り込んだが、後半800mは48.3とかかり、前後半の差2.6秒と大きく、勝ち時計は1:34.0と今年より遅かった。

つまり、今年は前半45.7と速いペースで進みながら、後半800mも11.5-11.5-11.6-11.9の46.5でまとめた。さすがに加速ラップを描くことはできなかったが、終盤までほぼ一定のラップを刻んだからこそ1:32.2のレースレコードは生まれた。

中盤までは中団に控えた馬たちにとってかっこうの流れだったはずだが、最後の直線は止まりそうで止まらない。ひたすらエンブロイダリーのしぶとさが目立った。


結果にこだわったエンブロイダリー

C.ルメール騎手はなぜ、速い流れだとわかっていながら、後ろを意識せず逃げるロートホルンを追ったのか。

ロートホルンの能力を買っていたともいえるが、それ以上にエンブロイダリーの長所をいかすためだったのではないか。

ベストはレコード勝ちした夏の新潟未勝利戦。このレースは頭数と相手関係を踏まえてあえて逃げ、後続に1.2秒差の圧勝。重賞挑戦に際し、お行儀よく溜めて末を伸ばす形より、強気に前から攻めてねじ伏せる形を選んだ。

幸い、逃げ馬が速い流れを演出し、2番手でも後ろから絡まれることなく気分よく進んだ。もう少し遅かったら、ティラトーレら3番手以下もかぶせにきたかもしれない。3歳牝馬は些細なことで気持ちが切れる繊細な心の持ち主。かぶされて止めても不思議ではない。

キャリアが浅い若駒にとって、実戦は教育の場であるが、まずは長所をのばし、最大限に能力を引き出すことも大切。クラシックは賞金を加算しないと先に進めない。結果に重きを置いたことで、最高の形になった。

一方で、上述したミヤマザクラはクイーンC以降、未勝利に終わり馬券圏内すらなかった。約2年間の長期休養もあり、クイーンCで出し切った感すらあった。このレースではそんな戦歴をたどる勝ち馬が思いのほか多い。

3歳馬にとって、東京マイル重賞での激走は反動をもたらす。ひたすら強さが際立ったからこそ、エンブロイダリーもこの点が心配だ。今春の飛躍のために、心身のケアがカギを握るだろう。

だが、その点は堀宣行厩舎の番頭格として、サリオスなどを担当した森一誠調教師だけに余念がない。類まれな持続力があり、なんとか軌道にのってほしい。

前から押し切るスタイルは、父アドマイヤマーズやその父ダイワメジャーと重なる。母ロッテンマイヤーは16年のクイーンC3着馬で、その父クロフネから持続力を受け継いだ。母系はアーデルハイト、ビワハイジと続く。

近親には春牝馬二冠ブエナビスタにアドマイヤオーラ、アドマイヤジャパンなど賑やか。持続力を伝えるビワハイジの血と父系がエンブロイダリーの原動力だ。ぜひとも桜花賞でみたい。


持続力なら負けないマピュース

2着マピュースは中団の前で流れに乗り、インでしっかり脚を溜めて進んだ。残り600m標識手前でエンブロイダリーが動くとこれに反応し、仕掛けて追いかけたことが好走につながった。ポジションとしては待つという選択肢もあったが、あえて勝負に出た田辺裕信騎手の嗅覚が光った。

母フィルムフランセはダート短距離を主戦場とし、父もダート短距離GⅠ3勝のマインドユアビスケッツと血統的に持続力勝負は歓迎だった。

ただし、マピュースも仕掛けてから反応するまで時間を要する面がみられ、赤松賞のような好ポジション確保が欠かせない。重賞2着で人気になるが、展開に恵まれず凡走といった場面もあるだろう。

3着エストゥペンダは重賞で2戦連続の3着。力があるのは確かだが、1勝クラスを脱出できないのはもどかしい。

前走フェアリーSに続き、ある程度レースが決してから突っ込んでくるため、3着が精一杯。終いは確実だが、序盤から中盤の折り合いが怪しく、脚を溜めるには後ろに控えるしかない。現状は気性の成長待ちだろう。

1番人気マディソンガールは6着。スタートで反応しきれず、さらに内にいた馬たちが外にヨレたため、流れに乗れなかった。

道中も目の前の馬がフラつくなど、不運が続いてしまった。休み明けでもあり、参考外の一戦と言える。とはいえ、クラシック出走を目指すなら、かなり軌道修正が難しい状況だ。


2025年クイーンC、レース回顧,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『アイドルホース列伝 超 1949-2024』(星海社新書)に寄稿。

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