際立ったマスカレードボールの能力
共同通信杯は過去10年の出走馬のうち、5頭が皐月賞を勝っている重要なレースだ。今年はマスカレードボールが勝ち、2着カラマティアノス、3着リトルジャイアンツで決着した。1番人気の勝利は2014年イスラボニータ以来、11年ぶり。同馬も皐月賞を勝っており、マスカレードボールは皐月賞の有力候補に躍り出た。
まずレースの流れを振り返ろう。ハナに立ったのはレッドキングリー。東スポ杯2歳S3着の実績上位馬が抑えきれずに先頭へ。逃げの意志はなくても、最初の200mが13.1と遅く、ようは各馬ダッシュよく飛び出さなかった。最初からおさえにかかったため、前進気勢の強いレッドキングリーが押し出された形だ。
こうなるとスローペース確定だが、先頭に立ってもレッドキングリーの気持ちが収まらず、ペースは落ちないまま進んだ。11秒台のラップが刻まれ、3コーナー地点の12.0以外はすべて11秒台が並んだ。隊列が決まると動かずに進み、勝負は直線へ。残り400mで追い出されたマスカレードボールが先頭に立ち、ちょっとフラつきながらも押し切った。
良好な馬場もあと押ししたが、後半800m11.8-11.5-11.5-11.2とゴールに向かって加速していき、最後に最速ラップが記録された。押し切ったマスカレードボールのスケールある走りが際立った一戦だった。
共同通信杯の評価
11秒台が続く一定の流れから、最後にカラマティアノスがくると加速したマスカレードボールは余裕すらみえた。未完成ながらもこれだけのラップを刻んで勝ち切ったので、皐月賞を勝つ根拠はそろったといえる。ただし、共同通信杯は毎年、評価が難しいレースでもある。
昨年はジャスティンミラノが連勝で皐月賞を制したが、その共同通信杯は1:48.0で今年より2秒も遅かった。流れも前半1000m通過1:02.7の超スローペースで、ラスト600mだけの上がりの速い競馬だった。それでも次走の皐月賞を勝っており、共同通信杯はハイレベルでなくてもいい。とはいえ、昨年のラストは10.9-10.8と非常に速く、2番手から抜け出したジャスティンミラノはこのラップを自力で刻んでおり、輝く部分はあった。
今年と似た流れだったのはメイケイペガスターが勝った2013年で、時計も1:46.0と同じ。前半1000m通過1:00.2で流れ、ラストは11.8-11.3-11.2-11.5と11秒台が続くスキのない競馬だった。
メイケイペガスターは皐月賞9着、ダービー11着。2年後にダートで3勝目をあげた。むしろ前哨戦でハイレベルな戦いを勝ってしまうと、本番で力を発揮できないことがあるので難しい。スキのない競馬だとどうしても高く評価されて人気が上がり、プレッシャーも大きくなる。理想はジャスティンミラノのようにラスト400mだけ優秀といった局所的に素質の片鱗を発揮する形。これなら本番に向けて上昇カーブを描ける。
マスカレードボールは確実に能力の高さを証明しており、今後は状態面がカギ。中間の調整はできる限りチェックしておこう。ただ、この一戦で東京○、中山×と決めるのは早い。戦歴からそう読めなくもないが、キャリア4戦では適性はわからない。
荒削りで若さあふれる2、3着馬
2着はカラマティアノス。2戦連続でスローペースを上がり最速で差し切った末脚は重賞でも通用した。終始インを通る戸崎圭太騎手のエスコートも手伝い、好走を呼び込んだ。最後の11.2でマスカレードボールにねじ伏せられてしまったが、道中の走りのぎこちなさ、コーナーリングなど課題も多く、こちらも完成はまだ先だ。
母の父ハーツクライは4歳秋に大成した晩成型で末脚特化タイプ。カラマティアノスはいかにもハーツクライの色が濃く、将来が楽しみだ。
3着リトルジャイアンツは右回りの若竹賞では道中離れた最後方からじわっと動いて、直線一気を決めたが、直線で内にササって(斜行して)追いづらかった。左回りなら修正できるという陣営の判断は吉と出て、この日もいくらか右に重心がかかっていたものの、真っ直ぐ走れてはいた。しかしながら、上がりが速く前が止まらなかったため、後方から追い込んでも3着がやっと。現状はもう少し上がりがかかる競馬でないと差し切れない。

ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『アイドルホース列伝 超 1949-2024』(星海社新書)に寄稿。
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