秋古馬三冠達成の有馬記念を振り返る
秋古馬三冠とは天皇賞(秋)、ジャパンC、有馬記念のこと。この概念が生まれたのは2000年にテイエムオペラオーが史上初の3連勝を達成してからだ。
このときの有馬記念1着馬テイエムオペラオー、2着馬メイショウドトウは前走のジャパンCでも1、2着。有馬記念3着のダイワテキサスもジャパンCで5着だった。2000年有馬記念出走馬のうち天皇賞(秋)→ジャパンCと出走したのは4頭だけ。上記1~3着馬と7着のステイゴールドだった。
2004年には、ゼンノロブロイが史上2頭目の3連勝を決めた。このとき、三冠完走はゼンノロブロイと14着ヒシミラクルの2頭。2着タップダンスシチーは凱旋門賞帰り、3着シルクフェイマスは天皇賞(秋)経由で、ジャパンCには出走していない。
長らく秋の古馬三冠馬はあらわれず、有馬記念は天皇賞(秋)経由が好ローテといわれ、中3週を続けるローテーション自体が否定されつつあった。
近年は“ハッピーエンド”がトレンド
今年、ドウデュースと同じくGⅠ2戦を戦い、有馬記念に駒を進めるのはジャスティンパレス(4→5着)、ダノンベルーガ(14→9着)の2頭。ライバルとなるのは、テイエムオペラオーの年のように同じ歩みの2頭なのか。
それとも、ゼンノロブロイの年と同じ海外帰りやジャパンCスキップ組か。今年、海外帰りはシャフリヤール、プログノーシス、ローシャムパークと3頭もいる。前走天皇賞(秋)組はベラジオオペラのほか、除外対象のニシノレヴナント、ホウオウビスケッツが登録をしている。
そもそも、ドウデュースは古馬秋三冠を達成できるのか。上記2頭は4歳で達成し、5歳秋の三冠では1勝もできずに終わった。ドウデュースが史上初の快挙に挑む。
以降は過去10年分のデータを使用して、データ分析を行っていく。
人気別では1番人気【5-1-1-3】勝率50.0%、複勝率70.0%と強力。かつては一発大穴もあった有馬記念だが、近年は主役が堂々たる競馬でエンディングを飾るといったシーンが目立つ。今年も引退式を控えたドウデュースが締めるのがベストシナリオ。ハッピーエンドならこれだ。
2番人気【2-1-2-5】勝率20.0%、複勝率50.0%以下は横一線で、上位5頭による争いが多い。穴はなくはないが、かつてほど人気薄は飛び込まない。
一方で、この秋のGⅠは人気馬と人気薄の組み合わせも目立つ。チャンピオンズCの3着は9番人気、ジャパンCの2着同着は7、8番人気。マイルCSも2着7番人気、3着10番人気と人気薄が入り込み、馬券的には難しい。
有馬記念も流れを考えれば、ドウデュース的中も馬券としてはハズレなんてことも。例年以上にヒモ荒れには警戒しよう。
年齢では3歳が【4-3-2-16】勝率16.0%、複勝率36.0%でトップ。今年はダービー馬ダノンデサイル、菊花賞馬アーバンシックなどがエントリーしている。2000年以降では、3歳は9勝。三冠馬オルフェーヴルを除くと、ダービー馬は未勝利、菊花賞馬は3勝。長距離を勝ち切ったリズムが有馬記念に合う。
注目の5歳は【3-2-6-40】勝率5.9%、複勝率21.6%。4歳が【3-5-1-39】勝率6.3%、複勝率18.8%なので、それほど変わらないものの、5歳の3着が目立つのは気になる。5歳3勝はジェンティルドンナ、キタサンブラック、リスグラシュー。みんな引退レースを迎えたGⅠ馬だった。
あえて逆転候補に指名するなら
およそレースの輪郭をつかんだところで、ここからは前走レースを中心にドウデュースと、打ち負かすライバル候補を探っていく。
前走ジャパンCは1着【0-1-1-3】複勝率40.0%で、連勝した馬がいない。ジャパンC創設後、有馬記念との連勝はシンボリルドルフ、テイエムオペラオー、ゼンノロブロイ、ディープインパクトの4頭のみ。うち2頭は無敗の三冠馬、残るは秋の古馬三冠を達成。すべて4歳だった。
ジャパンC組で好データは4着【2-0-2-1】だが、該当するチェルヴィニアは出てこない。ほかでは5着【0-1-1-1】のジャスティンパレスまでがギリギリだ。6着以下になると【0-0-0-30】。ジャパンC大敗から中3週で反転するのは容易ではない。
前走天皇賞(秋)は【3-2-1-11】勝率17.6%、複勝率35.3%でジャパンCより良い。近年の有馬記念は3歳か、ジャパンCスキップがトレンド。ただし、3着以内【3-1-1-3】、5着以下【0-1-0-8】(※同4着はサンプルなし)。スキップといっても、好走が前提となる。
3着のホウオウビスケッツは除外対象であり、6着ベラジオオペラはデータ上、厳しい。GⅠ昇格後の大阪杯勝ち馬はその年の有馬記念で【1-0-0-3】、3頭は不出走。勝ったのは昇格元年のキタサンブラックだけだ。
前走菊花賞は【2-2-2-9】勝率13.3%、複勝率40.0%で、2着以内は【1-1-2-2】。4着以下【1-1-0-3】と、敗退から巻き返す場面もなくはない。菊花賞馬アーバンシックと同6着ダノンデサイルは京成杯2、1着馬。中山で結果を残している。逆転候補には入れたいが、ドウデュースを上回れるかどうか。
5歳馬の着順傾向を調べてみる。データがある1986年以降まで範囲を広げると、前走1着は【1-1-3-20】勝率4.0%、複勝率20.0%。やはり連勝は簡単ではない。勝ったのはコックスプレートと連勝したリスグラシューのみだ。こう見るとドウデュース危うしとも思えるが、リスグラシューとは父ハーツクライという共通点がある。覚醒のタイミングもともに5歳秋であり、目覚めたハーツクライ産駒を止めるのは簡単ではない。
なによりデータでも触れたが、今年はドウデュースの対抗格が見当たらない。ジャパンC、天皇賞(秋)と2着馬がおらず、天皇賞(秋)3着馬は除外対象。正直、逆転を託したくなる、魅力ある馬がいない。ドウデュース以外、直近2走で勝利をあげたのはアーバンシック、ダノンデサイルとスタニングローズ、ハヤヤッコの4頭のほか、除外対象のアラタとメイショウタバルのみ。候補はこの中か。
最後に前走海外遠征組について確認する。1986年以降での成績は【2-3-2-14】。上記リスグラシューのほかにオルフェーヴルが勝利を飾った。2、3着の5頭は、タップダンスシチー、ポップロック、ゴールドシップ、ディープボンド、クロノジェネシス。ディープボンド以外はすべて5歳以上で、ポップロックを除くとすべてGⅠ馬だった。
「前走海外」、「5歳以上」、「GⅠ馬」。この3つに該当するのはドウデュースより一つ上の世代のダービー馬シャフリヤール。昨年は香港ヴァーズの出走取消から急転しての臨戦で5着。同じローテーションでも昨年とは中間の調整過程がまるで違う。ドウデュースが成せなかったダービー馬による海外GⅠ制覇を成し遂げており、決して舐めてはいけない一頭だ。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『アイドルホース列伝 超 1949-2024』(星海社新書)に寄稿。
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