トライアル組が優勢な近年の菊花賞
1999年菊花賞は3強対決に沸いた。皐月賞馬テイエムオペラオー、ダービー馬アドマイヤベガ、そしてラスト一冠の獲得に燃えるナリタトップロードだ。
レースは直線で先に抜け出したトップロードをオペラオーが追い詰める展開。ただ最後はトップロードがクビ差しのぎ切り、鞍上の渡辺薫彦騎手は嬉しいGⅠ初勝利を飾った。
当時は本番の前に前哨戦を使うのが主流。菊花賞の前にテイエムオペラオーは京都大賞典を使い、アドマイヤベガとナリタトップロードは菊花賞トライアルだった京都新聞杯(当時は10月開催)を使っていた。しかし、近年の三冠は牡牝ともにトライアルを使わず、直行がトレンド。先週の秋華賞もオークス1着から直行のチェルヴィニアが勝利した。
そんななかで菊花賞は少し様相が異なる。過去10年の本レースは神戸新聞杯組5勝、セントライト記念組3勝、他にラジオNIKKEI賞、日本海Sが1勝ずつ。ダービーからの直行組はわずか2頭で、昨年はタスティエーラがこのローテで2着だった。今年はダービー馬ダノンデサイルがダービーから直行する。
今回は上位人気が予想されるダノンデサイル、トライアル勝ち馬のメイショウタバルとアーバンシックの3頭を比較し、どの馬が今回の舞台に向いているかを調べていく。
エピファネイア産駒が京都芝コースで安定
まずは2023年4月の京都競馬場リニュアールオープン後から今年の10月11日までに行われた芝369レースの種牡馬別成績をみていく。
<京都芝コース 有力馬の種牡馬成績>
エピファネイア産駒(ダノンデサイル)
【20-22-15-169】勝率8.8%/連対率18.6%/複勝率25.2%
ゴールドシップ産駒(メイショウタバル)
【10-6-6-79】勝率9.9%/連対率15.8%/複勝率21.8%
スワーヴリチャード産駒(アーバンシック)
【4-5-9-44】勝率6.5%/連対率14.5%/複勝率29.0%
集計期間:2023年4月22日~2024年10月11日 369レース
エピファネイア産駒は全体ランキングでもキズナ、ロードカナロア産駒に次ぐ3位。3000m以上でも今年の天皇賞(春)でブローザホーンが2着に入っている。
ゴールドシップ産駒はこの3頭の中では勝率が一番高い。同馬は現役時代に京都競馬場で2012年菊花賞や2015年天皇賞(春)を制しており、産駒にもそのDNAはしっかりと引き継がれている。
スワーヴリチャード産駒は昨年デビューのため出走回数が少なく、勝ち星は伸びていないが複勝率29.0%と安定。人気に関係なく馬券に絡むことが多く、複勝回収率は116%をマークしている。
京都の芝コースは3頭の産駒とも苦にすることなく、大差ないことが分かった。
長距離でゴールドシップ産駒が活躍
次に競馬場関係なく、2019年10月1日から2024年10月11日までに行われた芝2400m以上の604レースの成績をみていく。
<芝2400m以上 有力馬の種牡馬成績>
エピファネイア産駒(ダノンデサイル)
【35-19-18-177】勝率14.1%/連対率21.7%/複勝率28.9%
ゴールドシップ産駒(メイショウタバル)
【42-40-44-371】勝率8.5%/連対率16.5%/複勝率25.4%
スワーヴリチャード産駒(アーバンシック)
【0-1-0-9】勝率0.0%/連対率10.0%/複勝率10.0%
集計期間:2019年10月1日~2024年10月11日 604レース
エピファネイア産駒は勝率、連対率、複勝率の全てで3頭中1位の成績を残している。ただ気になるのは2600mまでしか勝ち星がないこと。3000m以上は【0-3-2-13】で1勝もできていない。
初年度産駒のデビューからすでに5年が経過している。不良馬場でタフな菊花賞を制したエピファネイアだけに少々意外な結果だ。
対してゴールドシップ産駒はイメージ通り距離が延びるほど成績も上昇している。
2400m【12-14-16-149】勝率6.3%/連対率13.6%/複勝率22.0%
2500m【4-3-1-36】勝率9.1%/連対率15.9%/複勝率18.2%
2600m【23-20-25-162】勝率10.0%/連対率18.7%/複勝率29.6%
3000m【3-2-1-16】勝率13.6%/連対率22.7%/複勝率27.3%
やはりゴールドシップ自身も現役時代は長い距離を得意としており、産駒たちも同じような傾向がでている。
スワーヴリチャード産駒はまだデビューから時間が経っておらず、これまでに産駒が勝利した最長距離は2200m。サンプル数が少なく、3000mに対しては未知の部分が大きい。
距離適性はゴールドシップ産駒のメイショウタバルが優勢ということが分かった。
長距離もC.ルメール騎手 勝率33.5%で他を圧倒
「長距離戦は騎手で買え」という格言が昔から競馬界には存在する。距離が長ければ長いほど道中の折り合い、コース取り、仕掛けのタイミングなど騎手の技量が問われることからこのように言われている。そこで2400m以上の騎手成績をみていく。
<芝2400m以上 有力馬の騎乗予定騎手の成績>
横山典弘(ダノンデサイル)
【10-4-3-60】勝率13.0%/連対率18.2%/複勝率22.1%
浜中俊(メイショウタバル)
【7-16-7-68】勝率7.1%/連対率23.5%/複勝率30.6%
C.ルメール(アーバンシック)
【66-40-26-65】勝率33.5%/連対率53.8%/複勝率67.0%
集計期間:2019年10月1日~2024年10月11日 604レース
特筆すべきはアーバンシックに騎乗予定のC.ルメール騎手。3回に1回は勝ち、2回に1回は連に絡み、3回に2回は馬券に絡む成績を残している。やはりリーディングトップは伊達じゃない。文句なしの長距離戦で買うべきジョッキーと言える。
ダノンデサイルに騎乗予定の横山典弘騎手は複勝率こそ低調にみえるが、勝率13.0%でしっかり結果を残している。メイショウタバルに騎乗予定の浜中俊騎手は2着が多く、複勝率30.6%で安定感はある。
ゴールドシップ産駒メイショウタバルが逃げ切りを狙う
最後に各馬の力関係を振り返ってみよう。
<皐月賞の成績>
4着 アーバンシック(1:57.5)
17着 メイショウタバル(1:59.3)
除外 ダノンデサイル
<日本ダービーの成績>
1着 ダノンデサイル(2:24.3)
11着 アーバンシック(2:25.4)
取消 メイショウタバル
皐月賞はメイショウタバルがペースを作りコースレコードを演出。日本ダービーは同馬が出走を取り消したこともありスローペースになり、レースは道中で先行したダノンデサイルが後続に2馬身差をつけて頂点に立った。
ちなみにダノンデサイルは京成杯でアーバンシック、2歳未勝利でメイショウタバルに先着しており、直接対決では一歩リードしている。
ここまで様々なデータで有力馬3頭を比較してきたが、データからはメイショウタバルに注目する。浜中俊騎手の長距離戦の勝率7.1%はやや不安も、前走は近年好調なステップレースの神戸新聞杯で1着だ。
長距離戦で成績を残しているゴールドシップ産駒など好データもある。しかも近年は逃げ、先行馬が菊花賞で好走しており、脚質に不安はない。
次いでダノンデサイル。直接対決では他2頭に先着しており、ダービーからの直行が不利にならないことは昨年2着のタスティエーラが証明済み。とはいえエピファネイア産駒が勝利している最長距離は2600mで、本命には推せない。
最後はアーバンシック。C.ルメール騎手が手綱を握ることは非常に魅力的だが、皐月賞4着でダービー11着。現状のスワーヴリチャード産駒の成績からも距離に不安が残る。これらの点から3番手とする。
《ライタープロフィール》
高橋楓。秋田県出身。
サクラローレルの馬体の美しさに魅せられて競馬の世界に惹きこまれる。他に好きな馬はホクトベガ、サイレンススズカ。一口馬主を趣味とし、楽しさを伝える事にも注力している。
競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』にてライターデビュー。競馬、ボートレースの記事を中心に執筆している。
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